第5話 櫻崎学園の説明会①


 土曜日、家族全員で川口駅から電車に乗って秋葉原駅で降りると、徒歩で櫻崎学園に向かった。


「この辺りに櫻崎学園があるんだよな?」


「そうみたいよ」


 4人は桜崎学園までの道のりを歩いた。


 櫻崎学園に着くと、そこはモダンな建物と門があり、校門には虹色の旗とピンクと水色の旗がたなびいていた。


「学校なのになんであの旗があるんだ?」


「わからない。お兄ちゃん達も同じ事言っていたよ」


 2人は変な表情をしながら門をくぐると、綺麗な庭園や植物が植えられていた。


「意外と綺麗な学校だね」


 θは櫻崎学園を見て感心した。学校名に「桜」と付いているので日本の教えを学ぶ学校ではないか?と考えた。


「櫻崎学園へようこそ。講堂はあちらです」


 案内係の女性が講堂に案内してくれた。講堂の前に来ると、そこには多くの児童や保護者が説明会が来ており、中には明らかに佐藤一家より所得が低い家族や外国籍の家族も来ていた。


「意外と外国人もいるのね……」


 シータは日本在住の外国人の家族が多くいるので驚いた。


「そうみたいだな。しかも外国人と言ってもアメリカとかイギリスからではないみたいだな」


 βは説明会に来ている外国人を見ていると、ターバンを巻いたシク教やスカーフをしたイスラム教徒の家族もいた。

 彼らにとってそんな異様な雰囲気の中、講堂に入って鉄パイプ椅子に座った。講堂内でざわざわしていると、スーツを着た司会者らしき男性が現れた。恐らく学校の教職員だろう。


「えーこれから櫻崎学園の説明会を始めます。まずは校長である伊作多喜二氏のご挨拶をお願い致します」


 男性が舞台を退場すると、ロマンスグレーで渋い雰囲気の所謂イケオジと呼ばれるスーツを着こなしたオシャレな男性が現れた。


「こんにちは。桜崎学園の校長伊作多喜二いさくたきじです。名前の由来は父が小林多喜二こばやしたきじの『蟹工船』の大ファンなのでそこから取ったそうです。竹久夢二と迷ったみたいですははは」


 校長はいかにもバブルを謳歌した雰囲気を醸し出した男であり、氷河期世代のβやθとは別世界の人間であった。


「この話は終わりにして櫻崎学園について話そうと思っております。我が校は中学校から大学まである併設型の一貫校です。1912年、当時の学校令に囚われない自由な校風を掲げたので、当時としては珍しい男女共学の学校として設立されました。設立から3年後、今の大学の前身である大学部が設置されました。設立当初から今の道徳にあたる『修身』が無く、『精神講座』と言う授業が存在し、現在の『人権教育』という授業にも繋がっております。先の大戦では我が校は閉鎖され、祖父は特高に捕まりました」


(特高に捕まったのか…そう言う意味では校長のじいちゃん小林多喜二みたいだな…)


 βは校長を冷笑的に見ながら微笑した。θには「何笑っているのよ」と突っ込まれた。そんな校長の話にあくびをしていたγは周りを見渡すと、そこには同じクラスのιイオタがいた。


(オトコの娘のιじゃねぇーか)


 ιは母親と共に説明会に来ていた。γはトランスジェンダーのιにも嫌がらせを行っていたが、ガンマは嫌がらせと思っていないようだ。


「おーい!男の娘のιちゃーん」


 γは声をかけたが、ιはγに気づかなかったようだ。


「なんだよ無視しやがって」


 ガンマは舌打ちして前を向いた。


「戦後、我が校は閉校から復活し、新制専門学校として出発しようとしましたが、資金が足りず、会社などを経営していた卒業生の石垣永一氏と協力して新制の大学、高校、中学校になりました。新制度になってからこれまで無かった受験制度を導入し、推薦入試と一般入試がございます。それでも我が校の方針である自由は変わりません。設立当初からずっと私服ですし、中間テストや期末テストもございません。どんな生徒も受け入れます。ただし、人権を損なうような行為をする生徒や保護者がいれば1度目はカウンセリングをさせますが、2度目は即退学です。それだけは覚えておいてください」


 校長の力強い言葉に「おお!」と圧倒されるものもいたが、佐藤1家はそうもいかなかったようだ。


「人権教育ね・・それが大切だと言う根拠はどこにあるのか・・」


「わからない。それよりも進学実績が気になる」


 βとθは櫻崎学園の教育方針を軽く見ていたようだ。


「アルバイトに関しては高校からできますし、狭い校内でもできます。文化祭や体育祭は本人の希望により、選択制です。

 我が校の進学実績は殆どが大学へ内部進学ですが、中には東大や一ツ橋、早稲田や慶応へ進学する生徒もいます」


 保護者達はざわざわと騒ぎだした。


「東大や一ツ橋、結構いいね」


 θは櫻崎学園のパンフレットを見ると、そこには中央大学に進学するものや東京藝術大学に進学するものが数名いた。


「でも校風が自由とはね・・パリピばかりになるんじゃないの」


 βはかなり冷笑的な目線だった。


「東大や一橋、芸大もいるのよ」


 θは大学の実績を見ていた。


「けど人数は少ないだろ。殆どが櫻崎学園に内部進学だろ」


 βは冷笑気味にパンフレットを見ると、そこには東大や一橋に進学する生徒が2桁もいた。


「え?ここってどういう学校だ?」


 ベータは櫻崎学園がどんな学校かわからなくなった。


「お父さん、私もそこに行きたい」


 ωはβに櫻崎学園に行きたいとせがむが、βは「お前にはまだ早い」と言った。



 すると伊作校長の挨拶が終わり、司会が校長から事務員に変わると、事務員はωの前世で好きな人だったとされる女性にそっくりだったのだ。







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