第16話 お隣の春日部さんの話
パート休みの今日、θがいつものように自転車に乗り、買い物に行こうとすると、「ちょっと佐藤さん」と箒を持った70代前後の女性に声をかけられた。
「あっお隣の
θは振り向き、自転車を止めると、春日部さんの所に近づいた。
春日部さんは佐藤一家の隣に住む年金暮らしの夫婦だ。彼女は近所でも評判の噂好きで、よく立ち話をすると長くなる事で有名だ。
θもパート休みとは言え、立ち話が長くなると買い物に行けなくなるので、なるべく手短に話して欲しいなと思っていた。
「それがね、うちの息子夫婦が住んでいる近所のアパートがあるでしょ?」
「はい」
「息子から聞いた話なんだけど、住んでいる部屋の隣に怪しい2人が住んでいるのよ」
「へーそうなんですねぇ。もしかして2人とも、私服警官じゃないですか?」
春日部さんは不穏そうな表情でθに話した。θはふと、最近出てきた闇バイトを取り締まるためにアパートを借りて張り込みをしている刑事なのでは無いか?と思っていた。
「いや、私が見た限りだと夫婦に見えたわ」
春日部さんは近所のアパートを見ながらθに話した。
「そうなんですか?で、その人達のどこが怪しいんですか?」
θが春日部さんに聞いた。夫婦なら怪しむ必要は無いんじゃないか?と思っていたが・・
「それがね、旦那さんより奥さんの方が低い声だし、背も少し高いのよ。で、2人ともアパートなのになぜか犬を連れて歩いているし」
春日部さんは不安そうに話していた。θはもしかして奥さんの方は所謂「トランスジェンダー」の女性なのだろう。
「まぁ多分、その人は『ジェンダーの人』だと思うけど、トイレに入ったり、お風呂に入ったりしないから大丈夫ですよ」
θは阿良々木が前に言った事を忘れてトランスジェンダーの女性に対するデマを言った。
「そう。ならよかったけど、後、あのアパートにはクルド人がたまに来る事があるのよ」
なんと春日部さんによると、クルド人の青年がこちらのアパートに来ることがあるという
怪しい夫婦とクルド人の青年、彼らの接点は何なのか、θでさえ、わからなかった。
「そうなんですか。でも、クルド人ってゴミ出しはちょっとあれだけど、そもそもうち市のゴミ出しの曜日が細すぎからだし・・スーパーにたまに来るけど、ネットで言われているような悪い事をしているような感じもしないですが・・ちょっと買い物に行ってきます」
θは自転車に乗り、スーパーへ向かおうとすると、春日部さんが「佐藤さん、でもね」とθを呼び止めた。
「たまに来るクルド人の子ってどこに住んでいるかわからないのよ。もしかするとあの子は・・・・」
春日部さんが口を開こうとすると、背後から彫りの深い青年が春日部さんの目の前に現れ、「おばさん、俺はクルド人じゃなくて日本人とパレスチナのミックスだよ」青年が春日部さんの前でサラッと言うと、自転車に乗ってその場から去っていった。
「・・佐藤さん、変な事言ってごめんなさいねぇ」
「だっ大丈夫ですよ」
春日部さんは気まずそうな顔で慌てて家の中に入っていった。
θはそんな春日部さんの様子を見てほっとしたのか、自転車に乗ってスーパーに向かった。
多くの人が散歩をしたり、憩いの場となっている荒川の河川敷に辿り着いた先ほどの青年が「あの」と北海道犬と琉球犬を連れている夫婦を呼び止めた。
「どうしたのO、そんなに落ち込んじゃって」
妻の方がOと呼ばれる青年に声をかけた。
「
Oは落ち込みながら河川敷を見ていた。
「そっか。でも、仕方ないよ。クルド人がわりと多い地域だし、でも・・クルド人を差別するのはやめて欲しいよ。ねぇサンラー」
κが琉球犬を撫でながら言うと、犬が「ワン!」と吠えた。
「そうだな・・このまま差別が広まればOもそうだし、俺たちにまで牙を剥くかもしれない」
夫の方が北海道犬を撫でながら河川敷を眺めた。
「
「気にすんな。俺らは所謂『トランスジェンダー』の夫婦だが、パッと見、シスジェンダーの夫婦にしか見えないからな。でも、差別がここまで広がればどうなるかわからないな・・」
「酷くなったら100年前と同じような事が繰り返されるね」
ρとκが話すと、Oは「あの・・100年前に起こったことって何ですか?」と2人に聞くと、2人は「それはね」と100年前に起こったことをOに話し始めた。
その頃、佐藤一家の近所にあるマンショにはトラックと黒の高級車が止まっており、そこからセレブそうな家族が出てきた。
「ねぇ
女性が幼い子供を抱きながらπと呼ばれる少年に声をかけた。
少年はswitchのゲームをしながら「・・わかったよ」と呟くと、「川口には兄さんが市議をやっているからπに何かあっても大丈夫だろう?」とスーツを着た男性がマンションの中に入っていた。
普通の日本人 浮島龍美 @okinawa1916
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