第9話 デモ活動


 テレビのワイドショーはWBCでの優勝以降、大谷翔平の特集ばかり放送していたが、少しだけ入管法の改正に触れていた。それは難民認定三回目以降の申請者は強制送還が可能な事というあまりにも差別的な法案だった。

 θはそれには「ふーん」という表情でしかなかったが、同僚の仲村は「難民の人が故郷に返されるんでしょ。それって酷いじゃないの」


「そうですね」


 テレビを見ていた阿良々木店長と仲村はニュースを真剣に見ていた。すると金本がバックヤード兼事務所に入ってきた。


「どうしたんだい?みんなして」


 金本はテレビを見た。


「入管法改正についてです」


「入管法改正って酷い法律じゃないの~あっ、駅でデモやっているのよ」


「そうなんですか?」


「そう仲村さんも行く?」


「ええ。行ってみる」


「えっ仲村さんと金本さんデモに行くんですか?」


 θはにわかに2人がデモに行くのが信じられなかった。

 なぜなら彼女にとってデモは時間の無駄であり、デモを起こすぐらいなら働いた方がいいと思っていたからである。


「そりゃ行くよだってこんな理不尽な方案が通ったら近所にいるクルドの人達が大変な事になるからね」


「そうそうあの人達は必死にトルコから日本に逃げてきたからね。ミャンマーの人達だってそうだよ」


 仲村と金本はデモに行く気満々だった。


「佐藤さんは行かないのかい?」


「私は・・結構です」


「そう、阿良々木店長は行きますよね?」


 仲村は阿良々木店長にデモに行くかどうか聞いた。


「私は行きますよ」


 阿良々木店長はコーヒを飲みながら「これが終わったら仕事始めますよ」と言って席を立った。



 θはスーパーでの仕事を終え、ママチャリに乗って駅から自宅に向かおうとすると、そこには入管法改正に対するデモが行われていが、θはとても冷めた目で見ていた。入管で働いている兄ξによると、そこにいる外国人は犯罪者であり、デモに参加している人間もあまり入管と関係が無い人達だからだ。


(入管と関係がない人達がデモをしてどうすんの)


 θはママチャリに跨りながら「フフ」と嘲笑うような目で見ていたが、そのデモの中には同僚の金本と仲村、そして新店長の阿良々木がいることに気づかなかった。

 またデモの中にはγがいじめていたクルド人のδやその家族もいた。


「あらδちゃーんも来ていたの!私達も応援するからさ」


「そうよ。私のお父さんも帰化するまであんな酷い施設に入れられていたから反対運動するわよ」


 仲村や金本はδ家族を歓迎した。


「ありがとう金本さん、仲村さん」


 δは涙ながらに2人にお礼を言った。そしてδの両親や兄弟達も入管法改正の反対運動に参加していた。

 その様子をθは無視し、ママチャリを漕いでマンションへ向かった。

 一方、個別指導塾「alpha」から自転車に乗って家に帰ろうとするγは「何しているんだ?」と駅前のデモ活動を見ていた。とそこにはδの家族が抗議活動に参加していた。


「あいつらまで参加しているって何してんだろう?」


 γは抗議活動の意味をよく知らなかった。が、抗議活動をただじっと見つめていた。

 その後、「おーい」と友人達に声をかけられたあと、γは自転車に乗って友人達と合流し、駅から商業施設がある並木元町へと向かった。

 そしてδ達家族と仲村、金本、梢達は「入管法改悪反対!」「国に帰れば殺される!」「強制送還はダメだ!」と抗議し続けた。川口駅にはもう1人この運動に参加したいという人がいた。それはかつてβの元で働いていたζとロヒンギャのςシグマだった。


「私達も参加させてください!このままだとςがミャンマーで殺されます」


 そう言ってお辞儀をしたのはβの職場の後輩であるζだった。


「私はςです。ミャンマーで迫害されたのでここへ来ました。抗議活動に参加したいです!」


 2人の熱意に圧倒されまた仲村、金本、梢は「いいよ」と言って2人を歓迎した。

 δの家族もロヒンギャのςを快く受け入れた。δの父もトルコでマイノリティーとして迫害され、ここへ来た経緯があるのでςの気持ちは痛いほど知っている。

 仲村や金本も先祖は沖縄や朝鮮半島にルーツを持つ為、日本社会ではマイノリティーなのだ。



 友人達と共に商業施設のゲームセンターでUFOキャッチャーをしていたγはちいかわをぬいぐるみゲットしようとしていた。


「γ、なんでちいかわのぬいぐるみをとるんだよ?」


「決まってる妹にプレゼントするため」


 γが百円玉を入れてUFOキャッチャーを起動させると、「シスコンかよ」と友人の1人が笑った。

「おぃ集中させろよ」γは友人に注意すると、ちいかわの巨大なぬいぐるみを取ろうとしていた。しかし、そこはUFOキャッチャー、簡単にはいかない。あと一歩という所でちいかわはゲットできなかった。


 「ちくしょーゲットできねぇじゃねぇか!」


 γが悔しそうにしていると、「お姉さんがちいかわGETしようか?」短髪の若い女性が声をかけてきた。


「いいですけど、って知花先生、なんでここにいるんですか?」


 γは驚いた。というのも彼女はγが通う塾の講師だったからだ。女性は彼らの前でにこっと笑い、「今日はちょっと途中で仕事切り上げて来た。ちょっとUFOキャッチャー貸して?」γは女性にUFOキャッチャーを譲ると、女性は素早く動かしてちいかわをゲットした。


「ありがとうございます」


 γは友人達と共に女性にお礼を言うと「まぁUFOキャッチャーは得意だからね」と言ってγの元を去って行った。


 ゲームセンターを歩いていた短髪女性は歩いていると、電話がかかったので取った。


「もしもし知花です。え?入管法が?もし、そうなった場合外国人達はどうなりますか?はい、はい、マズイですね。早くうちで作戦会議を立てなければいけませんね」


 知花という女性は電話を切ると、入管法改正のデモをしている川口駅前に向かった。川口駅に向かった知花は入管法反対のデモに駆けつけた。すると、「蓮さーん」と知花に声をかける若い女性がいた。


「麗奈ーどうした?」


「今、デモで反対している人達がいますけど、隊長はここに来るんですかね?」


「さぁわからん」


 すると知花こと蓮から電話が鳴った。


「もしもし親泊隊長、知花です。えっ隊長は歌舞伎町での1件を蹴散らしてくる?わかりました。こちらもデモの妨害者がいないかどうか見張りをつけます」


 蓮は電話を切ると、麗奈に「このデモを見守ろう」と肩を叩いた。


「はい!」


 麗奈が返事をすると。仲村が2人に「あのあなた達、沖縄の人?」

 仲村が2人に尋ねると、「はい!」と答えた。


 一方、γはちいかわとハチワレのぬいぐるみを抱えて家に帰ると、θが「おかえりどうしたのそれ?」とちいかわとハチワレのぬいぐるみにθは指を指した。

「UFOキャッチャー上手い塾の先生から貰ったんだ」γはωの部屋に入った。ωの部屋に入ったγは「ほら、ぬいぐるみ2つプレゼントな」と言ってωにぬいぐるみをプレゼントすると、ωは「ありがとう」と言って喜んだ。


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