第2話 佐藤θ (43)フルタイムパート


 佐藤θさとうシータは駅近くのスーパーでフルタイムパートをしながら日々の生活費を稼いでいる。


 彼女はまだ沖縄で中学受験がメジャーじゃなかった頃、私立の中高一貫を受験し、合格して卒業するまで通った。


 卒業後は車社会の沖縄が嫌で上京。都内の名門私立大学に進学し、卒業後はアルバイトを得て株式会社「pixtiv」働いていたが、男性のように出世できない日本社会ではγを産んだ後、仕事を退職し、コンビニやスーパーのアルバイトやパートを得て現在の仕事に就いている。


 

 私はママチャリに乗ってパート先である駅近くのスーパーに向かった。


 スーパーに着くと、店の事務所に入り、 「こんにちは」と挨拶した。


「あ、こんにちは佐藤さん」


 事務所の席にはパート仲間の金本、ベトナム人のホァン、濡田χぬれたカイ店長がテレビを見ていた。


「佐藤さん今日、レジお願いね!」


 χがすれ違いざまにθの臀部を触ってきた。彼女は嫌でも、生活のために我慢していた。


 後、見た感じχはθより年下であり、結婚しているように見えないが、なぜか家族もいる私にだけ当たりがきつい。同じように既婚なら金本さんや私と同じレジ係の仲村さんやワンさんもいるはずなのに…


 θはレジに立つと、来る客にレジを打ったり、袋を詰めたりしていた。



 店内には中国人やクルド人、ベトナム人が客としてきていたが、ネットでよく言われている治安が悪くなったとは感じていない。


 ここに移り住んでいた時と特に変わらない。


 でも、バックヤードから出たχは険しい顔をしながら外国人の客をジロジロ見ていた。


 17時に仕事を終えると、θは家に帰る準備をしていた。


「佐藤さん、ちょっといいかな?」


 θを手招きしたのはあのχだった。


「はい」


 θはχについて行った。


「佐藤さん、今日時間ない?」


「え?」


「だから今日、俺と食事でもしない?」


θははあ?という表情になった。というのも彼女は家に帰れば夕食の準備をしないといけないのだ。


「すいません…結構です」


 θは慌てて店を出てママチャリに乗ると、駅前のスーパーに向かった。そこで買い物を済ませた後、家に帰って夕飯の準備をした。


 γが塾から帰ってくると、γも夕飯の手伝いをしてくれた。最近はβよりγの方が家の手伝いをしてくれる。


 ωも手伝いをしたいと言っているが、ωにはお皿を並べたり、お箸を並べたりと出来るのをさせた。


 夕食が出来るころにはβが仕事から帰ってきた。βがスーツから私服に着替えた後、家族4人で夕食を食べた。


「いただきます」


と挨拶をした後、θは夕食を食べながらβに昨日の事を聞いた。昨日の事と言うのはβが夕食をいらないと言った日だ。


「β」


「何?」


「昨日、夕飯無いって言っていたじゃん」


「うん」


「結局、誰と言っていたの?」


「職場の新人」


 え?とθは耳を疑った。まさか女性社員と自分がいない所であんな事やこんなことをしていないかと、βに限ってそんな事は無いと信じたかった。


「職場の新人って女性?」


「うん」


「えっ?本当?」


「まぁ仕事の話で誘っただけ。サイゼリアに行ったよ…」


 サイゼリア・・それはθとβが初デートで行った場所だ。θの地元はたまたまサイゼリアが無い地域だから良かったが、ある地域の人なら初デートでこれは嫌だろう。


「サリゼリアねぇ、沖縄は無いけど他の所はわりとあるからねぇ」


「でも金かからないからサリゼリアがいいんだよ」


「そう」


 θは呆れた顔でβに話した。


「お母さん、テレビ見てもいい?」


「ご飯食べてからにしなさい」


「はぁい」


 γはしょんぼりした顔で味噌汁を飲んだ。


 夕食後、私は食洗機を入れたり、弁当の準備をしながらソファーで座っているβやγ、ωと一緒にテレビを見ていた。ニュースをやっていた話題なのはもちろん、WBCでも大活躍した大谷翔平。他にもウクライナでの戦争や入管法の改正を放送していたが、θはそれよりも大谷翔平の方が関心あった。


「大谷はどこに移籍するんだろう?」


 θはソファーに座っているβに話しかけると、βはテレビを見ながら「わからないな」と言ってスマホをいじっていた。


「俺はドジャースかジャイアンツかな?大谷は東海岸に行かないと思うし」


 大谷ファンのγがSwitchを持ちながら答えた。


「流石、WBCを最初から最後まで見た人」


「えへへ」


 γはSwitchをプレイしていたが、θはちゃんと勉強しているのか心配だった。


 夕食の片付けや洗濯を終えると、歯を磨いてβがいる寝室に入った。寝室にはβが寝ていた。


 θもベットに入ったが・・


「θ」


 βが急に私に抱きついてきた。


「何?」


「今日はその・・しない?3人目が欲しいんだ」


 βはθにS〇Xの誘いをした。が、θは3人目が欲しくなかったので、βの手前、別の理由で断る事にした。


「ごめん、明日仕事だから…金曜日ならいいよ」


 θはβの手を掴んで静かに眠るのだった。




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