第8話 説明会



「ふぅ、疲れたな」


 あれから数日が経った。

 あの事件の翌日、ニュースでは事件が大々的に取り上げられ、テロ組織に立ち向かった市民、という言葉で俺の名前も全国に知れ渡ってしまった。


 お陰様で取材やらよくわからない場所からの勧誘やらで満身創痍になっている。


「はぁ、あの人のいう”楽しみにしておきな“っていうのはそういう意味だったのか」


 どうせ、都合よく俺の言ったことを改変したんだろうな。

 まあ、代わりに失踪していた1年間のことは追及しないでくれたから良かったのだが。

 俺が100年間、修行していたことを話すのは不味い。

 そしたら確実に俺が覚醒者であることがバレる。


 その場合、何が不味いのかって法律だ。


 覚醒者はその力をテロや暴力事件などの時の自己防衛以外で使ってはいけないと定められている。

 だが、俺は覚醒者としての能力をセツ救うために使った。

 それは世の中一般論的に善行だとしても誰かに法律違反と言われて警察に目をつけられるのは勘弁なのだ。


「さてと、次は手紙の整理かな」


 俺はポストに入っていた大量の手紙を見ていく。

 新聞社やニュースメディアからのものが多いが偶に事件の場に居合わせた人からのお礼の手紙なんかも混ざっているため、一応、確認しておかないと失礼だろう。


 俺は手紙の確認をしていると気になる文字が目に入った。


『探索者協会より』


 手紙にはそう書かれている。

 俺はつい気になり、手紙を読み進めていく。


『探索者としての道に進まれる意思はございませんか?』


 つまり、探索者への勧誘らしい。


『もし、そのようなお考えであれば、ぜひとも下記の説明会にご参加ください』


 下には説明会の日程と概要が書かれていた。


「開催日は今週の週末か……行ってみるか」


 というか探索者登録は元々、早めに済ましておくつもりだった。

 第二次覚醒者が持つ『異能』は探索者協会と国からの許可がない限り、ダンジョン以外では決して使ってはいけないことになっている。

 だからだ。


 そんな理由があって俺は週末、探索者協会の説明会に参加することになった。


 ――――――



「でけぇ……」


 ここは都内の探索者協会支部。

 支部であるのにも関わらず、相当の大きさの建物であった。


 俺はおどおどしながら他の説明会の参加者らしき人の後を付いていく。

 こういう時は人についていけば、なんとかなるっていう俺の経験則だ。


 建物の中に入ると受付で説明会の招待状を提示し、教えられた階層へ向かう。


 エレベーターを待っている時、俺が付いていっていた人が話しかけてきた。


「ねえ、君も探索者希望者?」


「……ああ、はい!」


 突然、話しかけられたものだから少し驚き、急いで返事をする。


 話しかけてきたのは高校生っぽい見た目の人。

 俺より年下だろうか? 青髪でとても整った身なりをしている。

 さぞかしモテるのだろう、すごく可愛い。


「良かった、さっき受付で同じような招待状を出してたの見かけて声かけちゃった、ちょっと心許なくってさ」


「まあ、探索者になるんですから緊張しますよね」


 やばい、初対面で同年代の女の人と喋るのが久しぶりすぎて変なこと言ってる気がする。

 ピンポン、という音がしてエレベーターの扉が開き、彼女と俺は乗り込む。


「ええっと……高校生ですか?」


 それが俺の搾り出した会話だった。


「うん、そうだよ、もしかして君も?」


「いえ、今は色々あって高校辞めちゃったんですけど以前までは」


「そっかぁ」


 エレベーターは目的の階層で止まり、扉が開く。

 彼女は最後に口を開いた。


「良かったらさ、今度あったら連絡先交換しない?」


「はい、是非」


「じゃあ、私、友達待たせてるからじゃあね」


「はい」


 そう言って彼女は別の方向へ去っていった。

 なんというか、THE・陽キャって感じの人だったな。

 高校の時、俺は別に陽キャでもなく陰キャでもないただの一般人だったため、新鮮さを感じる。


「説明会を受ける方はそろそろ開始するので第五会議室にお集まりください」


 そして俺は端っこの席に座り、説明会が開始した。


「探索者になるということは〜」


 説明はなんというかつまらなかった。

 探索者の意義だとか、責任だとかを話し始めて早速、会場にいる人々は退屈していき、中にはスマホを使い始める人だっていた。


 俺もルールや守らなければならない事項などは資料にメモし、それ以外の時間はぼーっと話を聞いていた。


「最後に私が説明させていただきます」


 俺は最後に現れたその人に見覚えがあった。


 そして、場はなぜか、騒がしくなっていく。


「おい、あの人って――」

「まさか、こんなチンケな説明会にあの人が来るわけないだろ」

「見たことあるような……」


 最後に現れたその人は俺に事情聴取をした、あの婦警さんだった。


「皆様お気づきかもしれませんが、私はSランク探索者兼、警察官の宇野琴葉と申します。今回は縁あってこの説明会に参加させていただきました。」


 そう言って、宇野さんは俺の方を一瞥した。


「おい、こっち見たぞ!」

「やべえ、宇野さんって日本、最強の一角じゃねえか!?」

「Sランク探索者がなんでここに……」


 いやいや待ってくれ、あの婦警さん、Sランク探索者だったのか?!

 だから雪穂のことを知っていて、さらに俺がダンジョンに閉じ込められていたことすらも知っていたのか……。


「皆様、探索者としての道は容易ではないですが、その代わりに多くの価値を得ることができます。しかし、自身の命の価値を見誤ることはあってはなりません...... 皆様と共に仕事をする日を楽しみにしております。」


 そう言って説明会は締めくくられた。


 俺は騒ぐ参加者を尻目にそそくさと退場しようと思ったのだが――


「早瀬湊様、お話があるので第三会議室へお越しください」


 無理だった。




 ――――――


 23時30分だけど、なんとか投稿間に合った……。





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