第10話 呼び出し②




「長野魔境開拓作戦ですか……」


 確か長野西部と岐阜東部には大きな魔境があるというのは結構、有名な話だ。


 魔境というのは偶に発生する地上のダンジョンだ。

 その土地の魔素が何らかの影響で増えると、ダンジョンのようにモンスターが発生するようになり、魔境と呼ばれる。


「長野の魔境が長らくこの国を悩ませていることは知っているだろう? 今回、総理は国が主導して魔境を開拓することに決定した」


「……魔境の開拓と言ってもどうやって魔素をなくすんですか?」


「先日、調査団は長野魔境の奥地に大きな結晶を見つけた。恐らくそれがダンジョンの核のような役割を果たしていると予想できる……そこで君には大量に湧いているであろうモンスターの掃討をお願いしたいんだ、魔境で核を壊してもモンスターが居なくならないのは有名な話だからね」


 なるほどね。

 Aランク探索者を圧倒している俺の実力を見込んで作戦に組み込みたいわけね。


「でも、俺って必要でしょうか? もう1週間前ですから様々な用意だって整っているのでしょう。ならば急に俺なんかを作戦に組み込む必要はないと思いますが」


 簡単にはいとは言えない。

 何かめんどくさそうなことを押し付けられそうな……そんな気がした。

 そしたら今度は亀野さんが口を開いた。


「うむ、湊君の言うことにも一理あるのう……だが、そうともいかないのじゃ、今回、精鋭隊と掃討隊に組まれた人員には若手が多い。その上、性格に難がある者が多数じゃ」


 若気の至りってやつだろうか。

 まあ、確かに簡単に力が手に入ったら調子に乗っちゃうもんな。


「それで実践経験とAランク探索者を圧倒できる実力の早瀬君を起用したいって話、どうだい? もしやってくれるなら多額の報酬とさっき話をした『占い』の異能を持つ人を紹介してあげるよ。ちなみに、彼女は雪穂と仲が良くて――」


「やります、やらせてください」


 俺は考えるよりも先に返事をしていた。


「……驚くほどの即答じゃのう」


 そんなの即答やろがい。

 初恋の人のためにダンジョン100年潜るようなやつだぞ?

 数日モンスターと戦うぐらい、屁でもねえぜ。


「良かった……そうだ、早瀬君の探索者ランクをDに上げておくね。それ以上はこの爺さんの権威じゃ無理だから」


「誰が爺さんじゃ……確か湊君はセツという探索者と仲が良いのだろう? 彼女と一緒に作戦に参加しておいても良いのじゃぞ?」


 セツかぁ。

 彼女は1年でCランク探索者になった天才だ。

 戦力になってくれれば心強い。


「そうですね、じゃあ、声をかけてみます」


「それじゃあ、これで私たち側の話は終わりだよ……それで何か早瀬君は他に聞きたいこと、ある?」


 他にか。

 何か俺は大事なことを忘れている気がする。

 何だっけか……。


「ないならこれで――」


「――俺の両親を知りませんか?」


 思い出した。

 流石におかしいと思ったのだ、1年ずっと俺は居なかったのにも拘らず、家の電気、ガス、水道、どれも止まっていなかった。

 俺は別にブレーカーを落としてからダンジョンに潜ったわけではないので誰も何もしていなければ止まっていないとおかしい。


「君の両親の名前を教えてはくれぬか?」


「父が早瀬|昭輝、母が早瀬|明里です。二人ともダンジョン関連の仕事に就いていたと聞いているので何か心当たりはないでしょうか」


 あの人たちは俺を放り、どこかへ行った。

 けれど子供として今、どこで何をしているかくらい知りたいじゃないか。


 ダンジョン協会の支部長であるこの人に聞けば何かわかるかもしれない……そう思ったのだが――


「すまぬが、何も知らない」


「私も知らないね……一応、私って警察だし、こっちで調べておこうか?」


「お願いします」


 誰も知らないか。

 そろそろあの二人がダンジョン関連の仕事に就いていたかすら怪しくなってきたぞ。


 その後、俺は二人に礼を告げ、会議室を後にした。


 ――――――


 翌日。

 俺は近くにある低ランクダンジョンに来ていた。

 先日貰った探索者証を提示し、中に入っていく。


 ちなみに、セツに昨日の話をすると簡単にOKしてくれた。

 良かった……ボッチで参加はちょっとキツかったんだ友よ。


「キュイッ!」


 そんな可愛げな声をあげてスライムが現れた。


「懐かしいな、お前と戦うのも」


 初めて戦った時はレンガを振り落としたんだっけか。

 今ならデコピンで倒せるだろう。


「って、こんなの無視して本題に入るか」


 俺はある程度奥まで進む。

 そして、一本の剣を取り出した。


 その剣は刀身に雷のような紋様が刻まれ、神々しい雰囲気が溢れている。

 俺はその剣で近くにいたホーンラビットを切り伏せた。


「キュイッ!」


 小さく悲鳴を上げ、ホーンラビットは角を残して消えていった。

 こいつこそ俺がCランク探索者に上がるのに必要なモンスターの一匹だった。


 俺はせっかく、セツと組むのだからと思い、今日中にある程度ランクを上げようと思っていたのだ。


「さあてと、サーチアンドデストロイの時間だぜ」


 目標を見つけて倒し、素材を拾ったらすぐに次の目標に取り掛かる。




 ちなみにその後、そのダンジョンには高速で動く謎の探索者が居ると話題になっていたらしい。


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