第9話 呼び出し



「よく来てくれたね、早瀬くん」


 呼び出された先には宇野さんと一人の老人がいた。


「この前ぶりですね。まさか、Sランク探索者だとは思いませんでした……ええっと――」


 俺が宇野さんの隣にいる老人に目を向ける。

 髭を生やし、杖を持って座っているが老人とは思えないような覇気を感じた。

 すると、俺の視線に気づき、老人が口を開いた。


亀野かめのじゃ、この探索者教会の支部長をしておる……湊君の噂はかねがね聞かせてもらっておるよ、あの『夜鴉の牙』を一人で撃退したらしいのう」


「どうも初めまして、早瀬湊です……その時のことは偶然が重なっただけですよ」


「だとしても友を助けるために命をかけたのであろう? 若いのによくやるのう」


 亀野さんの視線が鋭くなった気がした。

 流石に誤魔化しきれないか?

 ならば――


「いえいえ、警察官であり、Sランク探索者である宇野さんに比べればまだまだですよ」


 秘技、なすりつけ。

 これでどうだ!


「宇野のことか? こいつは確かに強いがSランク探索者の中でも最弱じゃし、その力の半分は才能じゃ……それに比べて湊君、君はどうやってその力を手に入れた?」


 その一言で言葉通り、場が凍りついた。

 嘘だろ? こんな人がただの一般人なわけない。


 歴戦の戦士のような風格があった。


 すると、宇野さんが助け舟を出してくれた。


「支部長、早瀬くんをいじめるのもそれくらいにしてやってよ……まあ、確かに気になるが、相手に聞きたいことを聞く前にこっちが答えてやるべきだろう?」


 どうやら、宇野さんも完全な味方ではないようだ。


「そうじゃな、湊君よ、何かわしらに聞きたいことはあるか?」


「……例えばどんなことが言えますか?」


「湊君が消えた一年間、雪穂はどのように過ごしていたか……とかかな?」


 そう言ったのは宇野さんだった。


「――是非、聞かせてください」


 即答だった。

 亀野さんは『なんだ、そんなことか』みたいな顔をしている。

 だって好きな人のことを聞き出せるんなら聞いておきたいじゃないか。


「驚くほどの即答だね……いいよ、代わりにさっき私たちが言った質問に答えてもらうよ? あ、早瀬君が覚醒者だってことはもうとっくにバレてるから隠しても無駄だからね?」


「あ、はい」


 流石に雑な言い逃れはさせてくれないかぁ。

 正直に言いつつ、テロ事件のことは不可抗力だったって熱弁しよう。

 もし無理だった時のことはその時考える。


「まずはこっちからだ、雪穂はあの後、君の家の敷地を念入りに調べ、最後には2階の窓から侵入して家の中も確認した……だけどやっぱり君の姿はないものだからダンジョンの中に閉じ込められていると断定した」


「ええっと……俺が死んでいるとは考えなかったんですか?」


「占いの異能を持つ人が占っていたからね。この世には『ユニーク』と呼ばれる13個の重要な異能があるんだ……その内の一つが『占い』、ちなみに私の異能もユニークだよ」


 あんたのことは聞いてねえよ。

 でも、13個の異能――ユニークっていうのは初めて聞いたな。


「おい、宇野、そのことまで話さなくたってよかったじゃろ?」


「まあまあ、これくらい目を瞑ってくれよ爺さん」


「はあ……いいか、湊君、これはあまり世に出ていない情報じゃ、軽はずみに言いふらすんじゃないぞ」


「了解です!」


 また一つ、世界の秘密を知ってしまったようだ……なんてね。


 雪穂がそこまでしてくれていたというのは意外だ。

 ちょっとくらい心痛めていてくれてたら嬉しいなっていう気持ちだったのにそこまで心配かけていたなんて少し申し訳ないな。

 ますます、雪穂に会って無事を伝えなければ。


「それで元の話に戻るけど、その後、雪穂はアメリカの『原初のダンジョン』に眠っていると言われる秘宝を探しに行ったんだ。その秘宝は使用者の元に指定した人物を呼び出せるらしいんだ、これで概要はわかったよね」


 つまり、雪穂は俺のために今、アメリカにあるダンジョンに潜っているということらしい。

 なんとかして俺の無事を伝える方法はないのかと聞いたが、雪穂が潜っているダンジョン深層と地上で連絡を取る手段はないとのことだ。


「次は湊君の番じゃ、包み隠さず言ってくれると助かるぞい」


 さてと、どこから話そうか。

 まず、ダンジョンを見つけた時の話からか。


「ええっと、ダンジョンに閉じ込められたのは1年前、庭にあった穴に興味本位で近づき、中を覗いたらそのまま、ダンジョン内に押し込まれて出られなくなりました」


「……確か、2年前にそのような事例があったのう、結局、その者はモンスターに食われて亡くなったのじゃが」


「それで――」


 俺はダンジョンで起きたこと正直に話した。

 ダンジョン内での仕組みやアナウンス、そして100年間、俺がダンジョンを潜っていたことも。

 だが、当然――


「待ってくれ、早瀬君、潜る年数は指定できるんだよね? なんで君は100年を選んだ?」


「……それは山よりも高く海よりも深い理由がありましてちょっと話せません」


 だって振られたショックで100年、ダンジョンに引きこもったなんて思われたくないじゃないか。


「どうせこの男のことじゃ、雪穂が何か言ったのじゃろう」


 何故わかるのだジジイ。


「とりあえず全容はわかった、その強さもそういうことなら頷けるね……というかよく100年も耐えたな、化け物じゃないか……」


「酷くありませんか、化け物呼ばわりは……それで今回、俺を呼び出したのはこのことを聞き出すためだけでしょうか?」


 どうにも俺はそれだけだとは思わない。

 この先に亀野さんの別の思惑があると思っていた。


「爺さん、話してくれ」


 宇野さんが亀野さんに目を向ける。

 そして、少し考えた後、亀野さんは口を開いた。


「――湊君、君には1週間後の長野魔境開拓作戦に参加してAランクモンスターを討伐して欲しい」


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