第14話 悪夢




「グゴォォォン!!」


 キングオーガはまた8本腕を器用に使って急接近、その内の4本の腕が俺を掴もうと伸びてくる。

 まだだ、こいつは知能が高い。

 俺の魔装をつけた状態の力を迂闊に見せて警戒させるわけにはいかないのだ。


 ――右、左、左、右


 俺は伸びてくる腕を躱しながら、その腕を足場にして大きく飛んだ。


「グオォォン?」


 キングオーガは急に俺の姿が見えなくなり、辺りを見回している。

 これだ! キングオーガの弱点は元々、視界が狭い上に、大量の自分の手でさらに視界が塞がれてしまうこと。


 俺は再び、地面に着地し、同じような挙動を繰り返す。

 この弱点とコイツに知能があるという点を合わせれば――


「かかってきやがれ、化け物!」


 今度は8本全ての腕が俺を狙って伸びてくる。

 魔装が強化してくれるのは身体能力だけではなく、動体視力も含まれているため、躱すのは簡単だ。


 しゃがみやサイドステップで全ての攻撃を躱す。

 そして、俺は強く、地面を踏み込んだ。


「グオォォォン?」


 その時、キングオーガの視界から標的の姿が消えた。


 知能を持つものであれば、以前と同じ状況に遭った時、同じ手口なのではないかと警戒してしまうものだ。

 人間のような裏を疑えるレベルの知能を持たぬキングオーガはまんまと俺の手に嵌り、上を見上げた。


 それがキングオーガの敗因になる。


 俺は再び、地面を強く踏み込んだ。


「魔剣よ、その力を解放せよ」


 俺の持っている剣から雷が迸り、強烈な光を辺りに撒き散らす。

 そして、剣に天から雷が落ちてきて――


「グゴォ?」


 爆発した。


 この剣は雷を呼び起こし、その力を元に強大な一撃を与えるもの。

 電撃はモンスターの硬い皮を問答無用にしてダメージを与えられるため、重宝させてもらっている。


「ふぅ、にしても中々、骨のある奴だったなぁ」


 土煙晴れた先に残っていたのはキングオーガの骨と灰だけだった。

 魔境ではダンジョンと違って死体がそのまま残るため、素材を取るためにも、もう少しやり方を変えた方がよかっただろうか。


「湊!! 凄い爆音が聞こえたけど無事なの?!」


 セツだ。

 爆音に気づいて急いで走ってきたらしい。


「大丈夫、もうキングオーガは倒したよ……骨と灰だけになっちゃったけどね」


 俺はそう言って、少しだけ燃えている森とそこに残っている骨を指差した。

 ああそうだ、消火はしておかないとな。


 俺は別の剣を取り出し、空に向かって掲げた。


「魔剣よ、その力を解放せよ」


 その瞬間、燃えている森だけを狙って雨が降り出した。


「凄い……こんなこともできちゃうんだ、あんなに心配しなくてもよかったんだ」


「まあ、結構苦戦したけどな、もっと強くならないと」


 雪穂はSランク探索者なのだ。

 Aランクモンスターに苦戦して堪るか。


「一応、変異種なんだけどね……でも変だよね、この作戦の中には湊以外にこのモンスターに対抗できる人なんて居なかったはずだよ、Sランク探索者たちはみんな忙しくてこの参加を断ってるし」


「え? 宇野さんは? 宇野さんは参加してなかったのか?」


「うん、確か警察の仕事が忙しくて参加できないって噂、変だよね、結構大きな作戦のくせして、大手クランやSランク探索者たちが参加を断るなんて」


 てっきり、俺を招集したのだからあの人もいるのだと思っていたのだが、違かったのか。

 確かにSランク探索者が居ないのだとするとキングオーガの変異種がここにいるのは明らかに変だ。

 突然、湧いたりするようなタイプのモンスターではないし……誰かが放った?

 じゃあ、何のために?


 俺は最悪の可能性を考えていた。


「ごめん、少し辺りを調査してくる、もしかしたら他にも変異種がいるかもしれないから!」


「湊?! ちょっと!!」


 俺は一言だけ言い残して、急いで森の奥へ向かった。



 ――――――


【???視点】



 私は同じ自衛隊ダンジョン科の仲間たちと一緒に目的地へと向かっていた。


「今回の作戦、意外と呆気ないな」


 魔境の核を前にして、そう言ったのはダンジョン科のエースの日比谷さんだ。

 それもそうか、長らく日本を悩ませてきて、様々な噂や怪談を生み出した長野魔境がこうも簡単に無くなろうとしているなんて。


 魔境の核の破壊には小一時間ほどかかる。

 そのため、破壊班を守るのが私たちの役割だったのだが――


「確かに、誰も、何も来ないわね」


 こんな禍々しい核が目の前に無ければ普通の森だと勘違いしてしまいそうだ。


 破壊が始まって30分後、仲間の一人が変なことを言い出した。


「この世界は苦しみに満ちている、誰も誰も助けてくれなかった」


 その言葉にここにいる全員が驚いた。

 まるで死を前にした人間のような声だ。


「どうしたんだよ、丹羽、なんのことを――」


 変なことを言い始めた男の名前は丹羽と言う。

 彼は真面目なことで有名だった。


「だから、俺は悪魔に魂を売ったのさ」


 刹那、彼の体はに飲み込まれた。


 そして、地面から突如として現れたは丹羽を喰らうと人の形を為して言葉を紡いだ。


「アァ、愚カで愚かで愛おシい人の子ヨ、我が誕生を祝エ」


 そいつは深紅の髪に緑の目をした悪魔のような顔立ちの男だった。

 私たちは丹羽が何をしたのかようやく理解する。


「邪神デシュレア……」


 そう呟いた仲間はデシュレアから生えた触手に頭をもぎ取られた。


 ユニーク異能の一つ、占いが予言した厄災の一つが邪神デシュレアの存在。

 自衛隊には前もってその存在が機密情報として教えられていたのだ。


「さテ、愚カな人間を滅ぼス時間にしよウ」


 悪夢が始まった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る