第15話 邪神




「はあ、はあ……」


 一体、どれだけ走っただろうか。

 あれから、邪神デシュレアによって何人ものの仲間が喰われ、私たちは散り散りになって逃げ出した。

 だが、恐らく、生き残っているのはもう、数人しかいないだろう。


「あんなのがここにいるなんて……噂は本当だったのね」


 長野魔境の噂は誰だって知っている。

 地域住民が開拓を拒否するぐらいなのだから。


 でも、邪神が出てくるなんて誰が予想できただろうか


「早く、早くこのことを本部に伝えないと」


 一人でも本部に辿り着き、情報を渡せれば私達の勝ちだ。

 勝ちなのだけれど――


「クク、そレは困る、愚カな人間よ」


「ひっ!」


 探索者たちがモンスター掃討をしているエリアまであと少しといった時だった。

 ぬるり、と目の前に悪しき神、デシュレアが現れた。


「死ネ、貴様も同ジ場所に送っテやろう」


「やめっ……」


 デシュレアはどこからか剣を出現させ、剣先を私に向ける。


「死ネ」


 剣は私の首を刎ねる。


「何してんだよ、あんた」


 なんだか、別の男の声が聞こえてくる。

 誰だろう? 地獄の人?


 私は目を開けた。

 そして、ようやく私はまだ、自分が死んでいないことに気づく。


 目の前では探索者らしき男がデシュレアの剣を受け止めていた。



 ――――――

【湊視点】



「何してんだよ、あんた」


 俺はそいつの剣を受け止めながら口を開く。


 彼は人の体を模した黒色の物質のようだった。

 彼の顔からは感情が全く読み取れず、人の気配もしない。


「そいつは、邪神デシュレア」


 そう言ったのは今さっき、殺されそうになっていた女性だ。


「逃げて……これをみんなに伝えて……ぁ」


「黙レ、愚か者」


 彼女はデシュレアと呼ばれた男が言葉を紡いだ瞬間、血反吐を吐き、ピクリとも動かなくなった。


「我ガ名はデシュレア、世界の救済者――貴様にも死ンでもらオう」


 デシュレアはさっきと同じように剣を振ってくる。


「死ネ、死ね、死ネ」


「くっ……」


 剣自体の重さは大したことないが、剣筋がとんでもなく早い。

 魔装をつけていない状態だったら瞬殺されていたかもな。


「……貴様はやルようだナ、面白イ」


 デシュレアは再び、剣を向けてくると――


 刹那、今まで感じたことのないような死の気配を感じた。


 俺はすぐに、バックステップで大きく距離を取る。


終末の漆黒ジ・エンド


 デシュレアの剣先から真っ黒の球体が現れ、それは徐々に大きくなっている。


 俺は急いで距離を取った。

 ダメだ、この球体からは死の気配をムンムン感じる。

 触れた瞬間、死が待っているだろう。


 そもそも邪神ってなんだよ、幾らなんでも神の倒し方なんて知るものか!


「終わりダ」


 いつの間にかに目の前にデシュレアが現れ、体育館くらいの大きさの真っ黒な球体を空に向けていた。


 そう、奴は技を発動させつつも、俺の目の前に転移してきやがったのだ。

 それだけで、デシュレアがどれだけヤバい奴なのかは身に染みて理解できた。


「死ネ」


 剣先に集まった巨大な暗黒の球体。

 それはちっぽけな俺へと振り落とされた。


 いつの間にか、辺りには結界が張られており、簡単には逃げられなくなっている。

 絶体絶命……ここに傍観者がいるのならば100人中99人がそう表現するだろう。


「嫌だ死にたくない……なんてね」


 100年の努力を舐めるなよ。

 こんな簡単に死んでたまるか。


 逆にこれをチャンスにしてやる。


 ゆっくりと漆黒の球が近づいてくる中、俺は剣を取り出した。


「魔剣よ」


 取り出した剣は先程キングオーガ討伐で使ったものとは全く違い、刀身が青く光り、龍の紋様が描かれていた。


「その力を解放せよ」


 一度しか使えない〈断絶の魔剣〉。

 こいつは通常状態だと何にも切れない、なまくら刀だが……その力を解放した時、全てを切り裂く神剣へと生まれ変わる。


「何ヲ?!」


 落ち着け……デシュレアごと切り裂くように大きく、深く振るんだ。

 地面を踏み込む。


 全速力で奴の懐に潜り込み――


「はぁぁぁぁぁ!!!!」


 全てを切り裂く勢いで剣を振り上げた。


「ぐア……」


 デシュレアが呻き声をあげる。

 奴の体は腹から肩までパックリと切れていた。


 こちらもこちらで頭が痛い。

 空間ごと切り裂き、全てを無に帰す一撃は見ているだけで大きな負荷をかけた。


 手に持っていた剣はいつの間にか無くなり、空を漆黒で埋め尽くしたデシュレアの技もまるで嘘かのように消えていた。


「おぼえテいろ……貴様は絶対ニ、……してやる」


 デシュレアは光の粉となり、空へ消えていったのであった。


「俺も……限界」


 意識が朦朧としていく中、俺はパタリと倒れた。





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