第16話 病院


【???視点】



「クソがっ!! なんで、なんで失敗するんだ!」


 世界のどこかの島国の地下室で一人の男が強く、拳を机に叩きつけた。

 そこでは何人もの人が会議していたのだが……


「知らねえな、どこかの誰かさんの息子が優秀過ぎんのが悪いんだろ?」


 もう一人の巨体の男が立ち上がり、細身の研究員を指差す。


「はっはっは、流石、私の息子だ。簡単に邪神デシュレアを倒して見せるなんて……嗚呼、我ながら誇らしいよ」


「黙れ、もやし野郎……てめえの息子のせいでテロ事件も、キングオーガも、大目玉の邪神召喚さえ邪魔されたじゃねえか! ボスになんて言えばいいんだよ!!」


「そんなの君たちの実力不足としか言いようがないねえ……」


 細身の錬金術師は名を早瀬なるといい、巨体の男は名を鬼塚平蔵といった。

 彼らが犬猿の仲であることはここにいる全員の周知の事実である。


「――とは言えどだ! これは本格的に困ったぞ? 本部からいただいたデシュレア召喚の材料を無駄にしてしまった……あの映像からしてデシュレアは大きく損傷し、数十年はロクに動けないだろうし」


 ここにいる全員が思い出したのは、早瀬湊が魔剣を使い、デシュレアを一刀両断した映像。

 魔剣という存在をここにいる全員が知らず、時空ごと斬られて倒されるなんて誰も予想できなかった。


「いい加減、早瀬の息子を始末しちまわねえか? そしたらもう、イレギュラーはなくなるはずだ」


 鬼塚はそう提言する。

 肝心の早瀬鳴は――


「いいんじゃないか?」


 快諾した。

 呆気なさすぎて鬼塚は驚く。


「おいおい、なんだよ、自分の息子が殺されるかもしれないっつーのに、無感情かよ。これだからマッドサイエンティストはよぉ……」


「私はデシュレアすらも倒した湊がそう簡単に殺されると思ってないだけさ……だが、あの子の本気を見てみたくてねぇ」


 ここにいる全員は当然の如く、狂っている。

 だが、その中でも特に狂っているのがこの男……鳴であった。


 鳴は今度は自分の息子を殺す、作戦について語り始める。


「あの子は雪穂という少女に片思いをず〜っとしていてね。皆さんは別のによって雪穂ちゃんがどうなるかわかっているはずだ……だから、丁度、別の作戦が終わる頃に湊の友人のあの子を誘拐する、そうすれば――」


「きっと、湊君は片方を選べない。だから最速で友人を助け出し、雪穂ちゃんの元へ向かうはず……そこを私たち五人衆で邪魔するんでしょ?」


 遮るように口を挟んだのはキリッとした黒髪のOL風の女性だった。


「大正解さ! そしたら湊は一目見ることもできずに死んでいく雪穂に涙を流し、精神を壊されるってわけ」


 その馬鹿げた作戦に普通であれば、ほとんどの人間が反対票を入れるはずなのだが、湊に煮湯を飲まされてきたこの5人は全会一致でその案を採用したのだ。


 かくして、湊の知らぬまに悪魔のような作戦が企てられるのであった。



 ――――――


【湊視点】



「うぅ……」


 目を覚ますとそこは知らない天井だった。

 ……ごめんなさい、言いたかっただけです。


「起きたかしら? 湊君」


 起き上がると白衣の女の人が俺の顔を覗いていた。


「えっと、おはようございます……ここは?」


「都内の病院よ、あなたの仲間の女性から通報を受けて、気を失っていたあなたはここに救急搬送されてきたってわけ……幸い、小さな擦り傷しか体にはついていなかったわ」


「体には?」


 まるで別の場所には傷がついているかのような言い草だ。


「ええ、あなたの精神は一時、何かに汚染されていてね……今はもう大丈夫そうだけど1週間ほど様子を見るために入院ね」


 汚染……デシュレアの技による影響か

 1週間か……それくらい経てば、雪穂もダンジョンから帰ってくるだろうか。


「そうだ、あの女性は――」


「湊!!」


 俺が血反吐を吐いた女性について聞き出そうとした時、銀髪の少女が病室へ入ってきた。

 セツだ。お見舞いに来てくれたのだろう。


「みなとぉぉぉ! 良かったぁ、無事だったんだね、またボクの側から居なくなるのかと思って……」


 セツが抱きついてくる。重い……色んな意味で。

 そうだ、コイツ、友達少ないんだった。


「ごめんな、突然居なくなって」


 俺は代わりに、セツの背中をさすってやる。


「ううん、湊はキングオーガも倒して、邪神?みたいな奴も倒したんだよね……それだったら疲れちゃってもしょうがないよ」


「そうだな……でも、とりあえず抱きつきながら話すのをやめようか」


「嫌だ」


 嫌だって……駄々っ子か。

 いい加減、色んなものが当たって精神上、よろしくないというか……。


 助けを求めようとナースさんを探したが、もう居なくなっていた。

 クソっ、察しが良いんだか悪いんだか。


「ちなみに、俺はどれくらい眠っていたんだ?」


「三日だよ」


 長いな。

 三日も眠っていたのなら精神に相当なダメージだったのだろう。


 ――ぐううう


 三日分の食欲が今、突然襲ってきた。


「ふふ……湊、三日間、点滴だけだったもんね。そうだ、ナースさんに言って食事もらってくるよ、ちょっと待っててね」


 そう言ってセツは部屋から出て行った。



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