第17話 守るもの
それから、6日が過ぎた。
1年も行方不明になっていた俺のことなんて色々な人が忘れていると思い、きっとお見舞いに来る人も少ないだろう。
そう考えていたのだが――
俺は棚に飾ってある花や折り鶴を優しく撫でた。
「驚いたな、こんなにお見舞い品をもらうなんて」
半分はセツからだが、それ以外は昔の友達や高校の先生からのものであった。
恐らく、セツが色々な人に俺のことを言いふらしたのだろう。
彼女には後でお礼をしないとな。
――ピコン
スマホの通知がなり、スマホを確認するとそれは俺の両親からのメッセージだった。
『久しぶりだな、湊。入院したんだって? 大丈夫か?』
今更か。
怒りを通り越して呆れが俺にはあった。
しばらく、既読無視を決め込む。
『酷いな、肉親に対して既読無視とは、、、お前も反抗期ってわけな』
勝手に憶測して勝手に話を進めていくなんて愉快な親だな。
いい加減、返信してみるか。
『なんですか、お父さん。お見舞いにでも来てくれるんですか?』
そう返してみた。
これで本当に来てくれたら嬉しいのだが――
『ああ、すまん。俺は今仕事中だから無理だ。』
やっぱりな。
……もうメッセージは送られてこないと思い、スマホを閉じるがまた、通知がなった。
「なんだ? 代わりに今度、飯でも奢ってくれ――」
送られた写真は銀髪の少女が拘束器で縛られている写真で――
『プレゼントを用意してるから来てくれ』
そして、住所が送られてきた。
その時の感情はいまいち、覚えていない。
いつの間にか俺は病院を飛び出し、駅のホームにおり、服もいつものローブになっていた。
――プルルルルル
俺はクソ親父からかと思い、切ろうとしたが電話をかけてきたのはこの前お世話になった宇野さんだった。
『湊君!! 緊急事態だ』
「なんですか」
今、これ以上の緊急事態なんて――
『雪穂ちゃんが……』
眩暈がする。
やめてくれよ、もうこれ以上、俺から大切なものを奪うのは――
『雪穂ちゃんが結晶病にかかった。あと少しなら意識を保っていられるはずだから早くアメリカに来てくれ! 今すぐだ、飛行機は私が用意――』
結晶病……異能による副作用で体が結晶化する病気だっけ。
多分、宇野さんの言い方的に結構、ヤバいんだろうな。
ロクに頭が回っている気がしない。
セツを助けに行かないと……でも雪穂も?
誰かが言っていた気がする。
守るものが多くなれば、多くなるほど手から溢れ出ると。
大切な人の取捨選択……それが出来るほど、俺は出来た人間じゃない。
いや、そんなことができる人はそもそも、人間なのだろうか。
「とりあえず……行かなきゃ、セツのところに」
雪穂のことは今更会ったところで迷惑かもしれないし……間に合うかわからないし。
捨てるんじゃないんだ。しょうがないんだ、そうだ、そうなんだ。
……
…………
………………
「ここか」
魔装を装備し、俺が持つ中で最も強い魔剣も持っている。
建物は廃工場のような場所で門には一人の男が立っていた。
「早瀬様の息子様ですね、ご案内します」
彼は俺の存在に気づくと廃工場の中へと案内してくれる。
俺の完全武装には目もくれていないという事実がさらに俺を警戒させた。
廃工場は本当にただの廃工場だった。
一つ違うのは真新しいエレベーターがあるという点か。
「こちらです」
案の定、彼はエレベーターに誘導し、ボタンを押すとエレベーターは地下へと移動していく。
こんなところが父親の職場?
ふざけんじゃねえよ。
「着きました、ここからは一人でお進みください」
地下には細い道があり、突き当たりに大きな扉がある。
俺は重そうな扉を思いっきり開いた。
会議室のような場所には50歳になったばかりの白衣を着た男が居た。
そいつは俺を見つけるとにこり、と微笑んだ。
どう見ても俺の父親に違いなかった。
「間違い……だったらよかったんだけどな」
「はは、だったら良かったな。それよりも今は再会を喜ぼう」
周りを見渡すと、空に羽ばたく鴉の紋章が見える。
「やっぱり、夜鴉の牙の人なんだね」
ずっと前から気づいていた。
俺の父親がどこに所属しているのかなんて。
でも、そうでないで欲しいと思い、色々と調査をした。
まあ、調べれば調べるほど、俺の父親が狂ったやつだということがわかったのだが……。
「ふふ、まあな……いずれ湊にもわかるだろう、この世界には救済が必要なのだから」
「……無関係の少女を誘拐する組織に誰が救済して欲しいんだよ」
「無関係? 湊と関わった時点で無関係じゃないさ」
俺と? そんなの本人の自由だし、そんなことで誘拐するなんて馬鹿げてる。
「湊は自分が思っている以上に凄いのさ、テロ事件を防ぎ、キングオーガの変異種を討伐し、さらには邪神デシュレアにも大ダメージを与えて何十年ものの眠りにつかせた……これほど化け物な人間、そうそう居ないさ」
それは俺が努力したから出来たんだ。
お前がそう簡単に語るなよ。
「だからなんだよ! 俺は大切な人を守るためにそうした、それの何が悪い?! 嫌なら俺の大切な人を、俺を……狙うなよ」
今、俺は目の前の男が悪魔に見えた。
俺は魔剣を構え、臨戦体制に入る。
「おっとっと、今日はこんな無駄な話をするために呼んだんじゃないんだ」
俺はこれからの惨状にさらに、絶望することになる。
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