第2話 俺に勝つなんて100年早い




「はあ、やっちまったな」


 時間の流れは1/100になるわけだが、100年潜れば、外の世界では1年も進むわけだ。

 両親は2年前から家に帰ってきていないため、別に気にしないが俺の数少ない友人やあの幼馴染のことが心配だな。

 別にあいつは俺のことなんて心配してないのかな……うぅ、そう考えると余計悲しくなってくる。


「とりあえず、奥に進んでみるか」


 ウジウジしてたってどうしようもないさ、俺は周りを警戒しつつ、先へ進んでいく。

 ダンジョン内部は一度行った初級ダンジョンと似たような感じか……。


 初級ダンジョンではスライムやゴブリンといった単体ならば子供でも倒せるようなモンスターしか出現しなかったはず。

 たが、ユニークプログラムとやらが発動したこのダンジョンだとどうなるか分からないため最大限の注意を払って進んでいく。


 3回目の曲がり角に当たった時、変化は訪れた。


「あれは……スライムか、なんだよ! 結局このダンジョンも初級と大して変わらないのか」


 現れたのは水色のスライム。

 よくあるRPGゲームに出てきそうな丸い体にクリっとした目……正直、倒すのは可哀想だ。


「でもすまんな! 俺はお前を倒して前に進まないといけないんだわ」


「キュイッ!」


 確かスライムは中にある核を壊せばいいんだっけか。

 そのためには刃渡りの長い刃物が……って、そうだ俺、今武器持ってねぇんだった。


「どうにかして倒せないかな……」


 辺りに使えそうなものが無いか見渡すと壁が崩れ、石レンガが転がっているところを発見する。


「これならイケるか?」


 俺は石レンガを手に取り、スライムの真後ろまで移動すると――


「恨むなら俺の目の前に現れたことを恨めよ……」


 思いっきり、石レンガを振り落とす。

 が――


「キュイイイッ!」


 石レンガが当たる直前でスライムはヌルりと前に出て躱した。

 そしてそのまま、奥の方まで逃げていく。


「に、逃げんな! 卑怯者!」


 俺はスライムを追い、奥の方へ走った。


 ――――


「どっちに行ったんだ、あのスライム……」


 追いかけていくと俺は分かれ道に出くわした。

 よ〜く石畳を見ていくと右の通路には薄らと粘液のような透明な液体が付いていることに気づく。


「ほ〜ん、なるほどな、右か」


 俺は辺りを警戒しながら早歩きでスライムを追っていく。

 そしてようやく、スライムは姿を現した。


「キュイィ……」


 奴は行き止まりに突き当たったようで立ち往生していた。


「スライムごときが俺に勝とうなんて100年早いんだよ!」


 俺の放った一撃はスライムの核を的確に砕き、奴は光の粒となって消えていった。


「た、倒した、倒したぞ!」


 校外学習の時はプロの探索者がモンスターを倒すのを見ているだけだったため、実際に倒すのは初めてであった。


「流石に1回モンスターを倒したくらいじゃあ覚醒はしないか……」


 あの雪穂は1回で覚醒したらしいが常人はそう簡単に行かないらしい。

 ちなみに、覚醒について説明しておこう。

 覚醒とは一定以上の魔素を体内に吸収すると起きる現象で第1覚醒で身体能力が爆増し、第2覚醒で大半の人は異能を1つだけ獲得する。

 ちなみに例外もいるぞ、雪穂とか雪穂とか雪穂とか。


 それからの覚醒は異能が強化されたり、身体能力がさらに上がったりと個人差があるが、一律して言えるのは覚醒していく度に次の覚醒に必要な条件が厳しくなっていくこと。

 この世で最強と呼ばれるアメリカの探索者は12回も覚醒しているらしい。


 ぶっとんでんね。


「そういえば、腹減ってきたな……」


 アナウンス君によると食料は調達出来るらしいし、早めに水と食料を手に入れたいな。


 俺はダンジョンに入る前よりも活き活きとした顔でダンジョンを探索するのであった。


 ――――


「5匹目! さっきからスライムにしか出会わないんだけど」


 俺は手にした石レンガを振り落としながら呟く。

 すると、今回はスライムの死体からナイフのようなものが現れる。


『5匹目の討伐おめでとうございます、報酬を贈呈します』


「うわぁぁぁ!!」


 突然のアナウンスに驚き、俺は尻餅をつく。

 急になんだよ……報酬? このダンジョンだとモンスターを沢山倒すとドロップ品とは別で報酬が貰えるのか。

 悪いことばかりじゃないんだな。


「とにかく、武器が手に入ったのなら助かった、これでもっと強い敵とも――」


『挑戦者の戦闘力向上により、モンスターを更新します、危険度0モンスターから危険度1モンスターへランクアップします』


「へ? もっと強いモンスター?」



 俺は突然、寒気がして、後ろを振り返る。


「キシャァァ!」


 そこでは、真っ黒で人の腰ぐらいある蟻が鋭い視線を俺に向けている。その姿は中層で出現するはずのグレートアントの姿とよく似ていた。



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