『私に勝つなんて100年早い』と幼馴染に言われたので本当に100年修行してきた
わいん。
プロローグ
第1話 私に勝つなんて100年早い
初恋と失恋
それは混ぜるな危険の感情だ。
そう、100年間も人をダンジョンに閉じ込めてしまうくらいに。
「49367体目ェェ!! 初恋の糧になれェェ!!」
どうしてこうなったのか。
それは約100年前の出来事が関係している。
――――――
「湊ってさ、私のこと、好きなの?」
「ッ?!?!」
ある日、学校帰り、久しぶりに俺の初恋で片思いの相手である幼馴染――
「ごめん、クラスの女子から聞いたの、それに湊って最近、私と話してる時だけ変だし」
「そ、そうだったんだ、でも、別に雪穂のこと好きじゃ――」
「嘘吐き、顔に嘘だって書いてあるよ」
「んなっ――」
俺の咄嗟の嘘は一瞬で見破られた。
そして――
「何年、一緒に居ると思ってるのよ――でも、ごめん、湊の想いには答えられないわ」
俺の初恋は勝手に振られて散った。
見えない手が俺の心臓を握り、鉄の塊が喉の奥に詰まっている。
「でも、それは湊のことが嫌いだからじゃないの! むしろ、男の人の中じゃ一番好きだよ、だからこそ私と付き合った後に迷惑かけたり、振り回したりするのが嫌なの」
「そんな……別に迷惑だなんて思ったこと――」
往生際の悪い俺に痺れを切らしたのか彼女は言葉を荒げた。
「それは今まで思わせないようにしてきたから! それに私はこれからもっともっと世間から注目され、仕事が増える、そんな私に湊を縛るのが嫌! どうしてもって言うなら私より強くなってから出直してきてよ」
「…………」
そんなの無茶だ。
彼女は、京極雪穂は天才だ。容姿端麗、才色兼備、文武両道、それだけじゃない。
彼女は2年前、事件に巻き込まれたことでモンスターと戦うことになったのだが、無事に勝利し、魔素を体内に吸収することによって強大な力を手にした。
魔物を倒すとその魔物が持っている魔素を吸収し、魔素が一定量に達すると人間は覚醒する。
この世の誰しもが知っている当たり前だ。
その覚醒で彼女は常人ではあり得ない伸び幅の身体能力上昇を果たし、その上、第二覚醒では普通は1つしか得られないはずの異能を3つも手に入れた。
そうして一躍有名となったのが神童――京極雪穂。
それに対して俺はただの才能もない一般人。
そんなの遠回しにフラれたのと同じだ。
「まあ、あんたが私に勝つなんて100年早いと思うからこんな私のことは諦めて他の女を好きになることね」
彼女はそう言い捨てると立ち尽くす俺を一瞥してスタスタと歩いて行った。
その目尻には涙が浮かんでいたような、そんな気がした。
これが俺の初恋の果てだ。
でも、これにはまだ続きがある。
その後、俺は家に帰り、一日中、無気力に何もせずに過ごして、その次の日も休日なのをいいことに何もしなかった。
三日目、気分転換に辺りを散歩しようと思い、家から出るといつの間にか庭に小さな洞穴が出来ている事に気づく。
昨日までは庭には庭木と家庭菜園の野菜しかなかったはず……もしかしたら家族の誰かが何かを埋めようとしたのだろうか。
俺は気になってその穴に近づいてみると穴は思った以上に大きく、人がギリギリ入れそうなものであった。
「なんだろうこれ……中に何かあるのかな?」
俺は覗くくらいなら問題ないだろうと考え、穴に顔を突っ込んでみる。
すると――
「なんだこれ――人がギリギリ入れそうな空間どころじゃない」
中に広がっていたのは人が100人入っても平気そうな巨大地下空間だった。壁は石レンガで出来ており、延々と道が続いている。
そこでようやく俺はその空間が普通のものではなく、俗に言うダンジョンと呼ばれるものであると気づいた。
「確か、昔、自宅の敷地内にダンジョンができたっていう事件があったよな……早くみんなに知らせないと」
そう思い、顔を穴から引き上げようとするが――
「抜けない……それどころか吸い込まれてる気がする」
周りの盛り上がった土たちは徐々に俺の体を包み込んでいき、そのままスポン、と俺をダンジョン内に押し出した。
そうして俺は不本意ながらダンジョンへ入る事になってしまったのである。
――――――
「痛え……ここは?」
穴からダンジョンに落ちたことで俺はしばらく気を失っていたらしい。
辺りを見渡すと一つの光る石板と延々と続く石畳の通路があるだけであった。
上を見上げても暗くて俺が落ちてきた穴は見つからない。
もしかしたら入り口は塞がっているのだろうか?
「生成されて間もないダンジョンは構造が次々と変わるんだっけか、入り口が変わってもおかしくないな」
つまり、俺は閉じ込められたってわけだ。
うん、今気づいた、大ピンチじゃないか!?
「不味い、こんな事なら穴なんて無視しておけばよかった、何やってんだよ俺……」
今更後悔しても遅いか。
俺は視界に映っている光る石板に意識を向ける。
石板には画面中心に『起動』と書かれたボタンが表示されていた。
「押すか押さないか……ええいままよ! 押してしまえ!」
『ダンジョンNo,300番が起動されました、ユニークプログラムを起動します』
そんな意味深なアナウンスが終わると同時に目の前には薄いパネルが表示される。
『無限の回廊に挑戦しますか? Yes/No』
「無限……? ダンジョンは有限なはずだろ?」
無限なくらい長いって事だろうか?
まあ、いい。
ここまできたんだし『Yes』を押してやろう。
『挑戦を受諾しました、挑戦年数を選択してください (1年〜10000年)』
「は、はぁぁ? 年数ってなんだよ?! 1年も戦う準備なんて出来てないぞ!」
詐欺だ詐欺、学校でもそんなの習わなかったぞ!
それに、学校の校外学習で初級ダンジョンに入った時はこんなアナウンスの一つも聞かなかった。
どう考えてもこのダンジョンだけがおかしい。
さっきユニークプログラムとか言ってたしな。
『このダンジョン内では食べ物が生成される上に外の100倍で時間が経過します』
おお、それだったら食料の心配はない……?
それに100倍ってことは100日過ごしても外では1日しか経過しないのか。
でも装備とか武器とかないし……。
『残り15秒、時間切れになると自動的に10000年に選択されます』
おい容赦ねえなぁ!
なんだよこのアナウンス、生意気な……。
『残り10秒』
「ええっと……」
俺は1年に設定しようとする……が、そこで俺は3日前の幼馴染の言葉を思い出す。
『あんたが私に勝つなんて100年早いから諦めることね』
ああ、思い出しただけで気が沈む。
100年早い……ね。
じゃあ、100年努力してみたらどうなるんだろうか。
よくよく考えたらこれが強くなる最後のチャンスなんじゃないか?
もう、ここで1年を選択したら一生、あいつを超えることは出来ないんじゃないか?
そんな馬鹿な考えが俺の手を滑らせた、そして……
『受諾しました、
その日から俺のダンジョン生活が始まったのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます