100年の時を経て

第5話 シャバの空気



 それからは同じようなことの繰り返しであった。

 1ヶ月が経ち、1年が経過し、10年が経過し、100年が経過した。

 おかしなことに俺の肉体は老いず、精神も狂わなかった。


 人というのは同じことの繰り返しをしている時は時が早く感じるのだろう。

 俺の体感時間はとてつもなく早くなり、100年もそこまで苦ではなかっ――


「いやいやいや、苦しかったです、ごめんなさい神様、舐めてました100年」


 正直、めっちゃキツかった。

 死ぬかと思った。

 雪穂より強くなってやるという思いが無ければ自ら命を絶っていたかもしれない。


『早瀬湊様の挑戦を終了いたします、またのご挑戦をお待ちしております』


「誰が挑戦するかァァァ!!」


 そんな悲痛な叫びと共に100年振りに俺は外の世界に降り立つのであった。


 ――――――


「過去を変えたい?」


 私――雪穂はあれから例の占い師を尋ねていた。


「はい、私の幼馴染がダンジョンに閉じ込められてしまったみたいで……」


 この時点で湊が生きているという説は無いと思っていた。

 だから、過去に戻る方法を模索していたのだ。

 だけど――


「無いに決まってるでしょ」


 その希望はすぐに打ち破られた。


「そもそも、なんであなたは過去を変えたいの?

 そこから訊いてもいいかしら?」


 私はこの人の占いを信じた結果、湊が行方不明になったことを伝えた。

 そしてその湊がダンジョンの中に閉じ込められて死んでしまった可能性が高いことも。


 彼女は少し考える仕草をした後、口を開いた。


「そうね……諦める気はないの?」


 キレた。


「ふざけてるの?」


「ご、ごめんなさいって、雪穂さんは容姿もいいし、私よりも強くて将来性もあるわ、なのに1人に固執する意味がわからないのよ」


 私は大切な人を馬鹿にされたようで怒りたくなったが、なんとかその思いを抑える。


「わからなくたっていいわ、とりあえず彼が助かる方法は無いの?」


「うーん、そもそも彼が死んでないっていう説は無いかしら」


「それはどういうこと?」


「私は占いで貴方と彼が結ばれた時と結ばれなかった時の2つの運命を見たわ、少なくとも結ばれなかった時の方が彼にとっていい運命であった」


 つまり、と彼女は付け足す。


「彼は貴方と付き合った場合の運命では死ぬわ、けれど付き合わなかった場合、付き合った場合よりも後に死ぬのよ」


 確か、彼女が予言した厄災というのは2、3年後に起こるんだっけ。

 彼は2、3年間は生きている? ダンジョン内で?


「運命が変わったという可能性は?」


「無いわ、運命なんてそんなちょくちょく変わるもんじゃない、少なくとも1、2週間じゃあね」


 彼は生きている……。

 まだ生きているのだ。


 どうにかして彼を救わなきゃ、そのためには――


 その後、私はすぐにダンジョンへ向かった。




 そして一年後、彼女は『彗星の魔術師』と呼ばれ、世界で五本の指に入る探索者になるのであった。



 ――――――


「シャバの空気うめぇ!!!」


 目を覚ますと、俺は家の庭に突っ立っていた。


「ワン!!」


「おお、お前もそう思うか? シロ」


 俺の隣で吠えたのは何故か懐いた聖獣のシロだ。


「いやぁ、良かったよ、お前も一緒に外に出れて」


 俺はシロの頭を撫でる。

 ダンジョン生活を乗り切れた要因の1つとしてこいつの存在がある。


 ダンジョン攻略3年目くらいの時にドロップ品としてシロの卵が出てきたのだ。

 その後、シロとは一緒に戦い続け、聖獣フェンリル?とか言う種族に進化した。


「さてと……この家って売り払われてないよね?」


 俺は丁重に保管していた家の鍵を使う。


 ――ガチャ


 扉が開く。

 リビングを見ると俺がダンジョンに潜った日から物の配置は変わっていないようだった。


「良かったぁ、うちの両親はちゃんと残してくれたんだな」


 まあ、逆に考えれば1度もこの家に帰ってきてないという事でもあるのだが。


 ――ぐぅぅぅ


 突然、腹の虫が鳴る。


「食べ物、食べ物……いや、やめておこう」


 冷蔵庫を開けようとするが、俺は手を止める。

 1年も経過してるのだ、腐ってるに決まってる。


「コンビニでも行くか」


 魔法袋の中には果物も入っているが、食べ飽きたのでやめた。

 いくら美味しかろうと、もう果物は食べたくないな。


 俺はシロに留守番をしてもらい、コンビニへ向かう。

 そして、コンビニに着くとツナマヨおにぎりと鮭おにぎり、そしてコーラとポテチを購入した。


 そのままコンビニの壁に寄りかかってツナマヨおにぎりをぱくり。


「うめぇ」


 これ以上の言葉なんて見つからない。

 美味い。

 いつの間にかツナマヨおにぎりは無くなり、鮭おにぎりに手を付けた時であった。


「み、湊?!」


「おお! セツじゃん、100年ぶり」


 声のした方を向くとそこには青みがかった銀髪をした少女……俺の友人の加賀谷セツがいた。


「は、早瀬湊だよね?! 本物?」


「アホか! 本物じゃい!」


 なんだよ、100年振りにあったと言うのに。

 やっぱり、1年も音信不通だと死んだと思われるのかな。


「よがっだぁ゛、生きてたんだね……」


「ちょっ……!」


 セツは涙を流しながら抱きついてきた。

 す、ストップ! 色々と不味いからっ!


「心配するさ、なにせ1年も、1年間もず〜っとボクと音信不通だったんだから」


「……ごめん、心配かけさせたな」


 そういえばセツは俺以外に友達、居ないんだっけか。

 そりゃ迷惑かけてしまったな、


「それでさ、1つ訊いてもいい?」


「おう、いいぜ」


「この1年間、どこに居たの?」


 その時、セツの瞳から光が消えた。


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