第4話 要らない力




 幼馴染で腐れ縁の湊が私――京極きょうごく雪穂ゆきほのことを好いているのはクラス、いや、学校中で公然の事実として知られていた。

 それはあの事件より前から。


 高校一年生の時、湊が珍しく風邪をひき、プリントを届けに行っていた時であった。


 道中で突然、大きな地震が起きたかと思えば、私はいつの間にかにダンジョンの中にいた。


「な、なに、なんなのここ?!」


「ピギァァァ!!」


 そして、銀色のスライムに襲われ、倒したら覚醒して、頭に響く声に言われるがままダンジョンコアと呼ばれるものを壊した。


 その後、地上に帰った時、私はダンジョンを完全攻略した英雄として称えられ、3つの異能ととんでもない身体能力を手にしたのであった。


 私は賞賛される度に心が曇っていった。

 こんな力は結局、運で何の努力もしてない私にはこの賞賛は似合わない。

 それに元々、過去のトラウマから期待されることが怖い私は必死に『英雄』という言葉に相応しい人間になろうとした。


 毅然とした態度で、誰にも隙を見せずに過ごしてきたというのに――


「雪穂!!」


 湊だけはずっと私に構ってくる。

 私が強くなる前からずっと。


 あの事件から私の容姿や強さに惹かれて私に言い寄る人やパーティに勧誘してくる人はかなり増えた。

 そのため、彼のその変わらない態度に救われている自分もいた。


 だから、中々告白してくれない彼に私から告白してやろうと思っていた時だった。

 私が臨時で組んだパーティの1人が占いの異能を持っていたため、運勢を占ってもらったのだ。

 そしたら――


『あなたの想い人と付き合えば厄災に巻き込まれて彼は死にます』


 耳を疑った。

 タチの悪い冗談なんじゃないかと思い、彼女を睨んだ。

 私が湊を好いていることなんて誰も知らないことと、彼女が百発百中の占い師という2つ名を持っていることを加味しなければきっと信じなかっただろう。


 散々悩んだ末、彼を振り、いずれ私が湊を守れるくらいにまで強くなったら私の方から告白しようと考え、彼に付き合う意思がないことを伝えた。


 彼は酷く落ち込んでいた。

 もっと言い方を柔らかくした方が良かったかな……。

 いや、湊のことだからこれくらい言わないと諦めてくれなかったはず。


 でも、明日から気まずくなるんだろうな。


 翌日。

 湊は学校に来なかった。

 それほどまでにショックだったのかと思い、私は居た堪れなくなった。

 そしてその次の日もさらに次の日も……挙句の果てには3日経っても湊は学校に来なかった。


 担任によると、ご両親とも連絡が全くつかないらしい。そして『何か知らないか?』と聞かれた。


 私は湊のことを振ったことを隠した。

 そのまま学校を抜け出して電車に乗って彼の家まで行く。

 友人や学校からメールや電話がかかってくるが全部無視だ。


 湊の家に着く。

 チャイムを押してもメールをしても電話をしても音沙汰無い。

 私は失礼を承知で家の敷地に入る。

 窓にシャッターはかかってない、それに2階の窓が少し開いてる……?

 私は庭に入ると地面から少量の魔素を感じた。

 魔素が発生しているというより、1度発生した魔素が残っている状態に近しいだろう。


 私はさらに集中して魔素を読み取る。するとまだ地下には大量の魔素が残っていることに気づく。

 確信した。これはダンジョンだ。


 ダンジョンへの入り口は大量の魔素を持っている。

 過去、ここにダンジョンの入り口があったのだ。


 脳裏に最悪の可能性が浮かんだ。


「いやいや、そんなわけないでしょ、どれだけ低い確率だと思っているのよ」


 偶々、一時的にダンジョンの入り口が生まれて、それに湊が興味を持ってしまい、そのまま閉じ込められたとしたら。

 でも、過去にそういった事例があったような……。


 私は地面にぺたりと、座り込んだ。


「なんで、なんで湊なのよ……こんなことになるならあのクソ占い師の言葉なんて信じないで湊と付き合っておけばよかった……」


 もう後悔しても遅い。

 できることなら時を戻してもう一度、やり直したい。




 ――――――――



「よく寝たぁ〜」


 そんな幼馴染の苦悩なんて露知らず、その頃俺は呑気に目を覚ましていた。


 俺は寝ぼけ眼を治すため、川の水で顔を洗う。

 すると、ようやく俺は自らの体の異変に気づく。


「なんだこれ、体が異様に軽い?」


 俺はその場で跳ねてみる。

 すると――


「いでっ!」


 天井が頭にぶつかった。


「ま、待て待て待て、ここの天井って3メートルくらいあるはずだろ……」


 それに天井に勢い良く頭をぶつけたのに全然痛くないし……。

 俺はこの感覚に覚えがあった。


「覚醒……したのか!?」


 昨日の夜、寝付く前に流れたアナウンスが脳裏をよぎった。

 つまり、そういうことだ。


「よっしゃあ!!! 覚醒者デビュー……!」


 俺は言葉にならない込み上げる嬉しさ感じていた。

 覚醒現象は人によって起こるタイミングがまちまちだ。

 モンスターを100体倒しても覚醒しない人や、モンスター一体倒せば覚醒する人などがおり、俺は比較的早い方なのだろう。


 俺は試しに落ちていた木の枝を片手でへし折ってみる。


 ――バキバキバキ


 木の枝の力を加えられた部分は木っ端微塵になって砕け散った。


「すげぇ……」


 俺は感嘆の声を漏らす。

 すると――


『挑戦者の戦闘力向上により、モンスターを更新します、危険度1モンスターから危険度2モンスターへランクアップします』


 この前、聞いたばかりのアナウンスがまた聞こえた気がした。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る