野道、黒煙、炎
後日、ラウホステイン近隣――
「都市からわりと離れた所にあるんですね、薬品研究棟って。やっぱりマスターの館と同じ理由で引き離してあるんです?」
「ま、そういうことだわなきっと」
「しかし魔法学校の生徒はこの野道を歩くんだろう?ちょっと危険じゃないのかね」
「このへんは果樹も泉も無いから、草食の動物にとってすらそこまで居心地良い場所じゃないからなー。いるのはせいぜい虫を主食にする小さい猿や猛禽やロリコンの全裸中年男性くらいなもんだ」
「そっか、それなら安心だネ」
「それに研究棟への生徒の出入りは基本的に引率の教師がいるからな、よほどのヤツじゃなきゃ
「なおさら安心だネ」
(実際に出たことあるんだろうな……ロリコンの全裸中年男性……)
「むこうに着いたら実験室をくまなく探そう。ちなみに血液ポーションの材料は乾燥した腐肉キノコにトレントの樹液に人血の粉末に~」
「聞きなれないモノばっかりだ……」
「どれがどういう形で使われるのかなかなか想像できないねえ」
「はあ、異世界の人間はこれだから」
「また異世界マウント始まった」
「仕方ない、アタシが
「我々は何をしていましょうか」
「コレで研究棟の景色を撮影して」
そう言ってレンズのようなものを渡す。
撮影という単語を使ったことから考えてカメラのような役割の道具なんだろう。
「使い方わかるか?魔力を軽く指先に込めるだけだが」
「水道やコンロを使う時と同じ要領ですね、たぶん大丈夫です」
僕がマスターの説明を聞いていた時、先生が空を見て何かに気づく。
「今日も研究棟には人がいないはずでは?」
先生の視線の先を見ると、研究棟のある方向に黒煙が昇っているのが見えた。
「なんだあの煙は!?実験か!?いやそれにしては煙が大きすぎる!」
「炊き出し?」
「なワケあるか!急ぐぞ!」
僕らが走って研究棟に着くと
燃えていた。
研究棟が。
全焼というほどではないが棟の半分ほどが焼け崩れている。
「……やられた!」
あまりにも丁度良すぎるタイミングでの研究棟の火事。
これが『敵』の仕業であることは疑問の余地も無い。
「証拠隠滅のために施設ごと焼くだなんて」
「容赦が無いね。しかしただ燃やされた、というだけじゃないねコレは」
「というと?」
「焼け落ちるにしても建物や備品が壊れすぎている。破壊のついでに燃やしたってカンジだよ」
「古めかしい建物ではあったが、決して脆い建物ではなかったはずだ。それがここまで壊されているだなんて、いったいどうやって……」
その答えはすぐに出た。
建物の奥からバアンバアンという破壊音が響いたからだ。
「建物が焼け崩れる音というには勢いが良すぎる、今まさに破壊の最中だったのか!」
「逃がさない!」
「マジロ君!」
走って音の発生源に、この破壊の元凶に近づく僕。
「やめろ!それ以上……」
そこまで言って言葉に詰まった。
なぜか。
言葉が通じる相手じゃないと分かったからだ。
長く太い尾を持ち、
赤いウロコに覆われた体が、
建物を噛み砕いた鋭い牙を向け、
爬虫類特有の、縦に長い瞳孔の眼で僕を睨む。
一瞬、何をしているのか察せなかった。
「危ない!」
先生が僕を掴んで横に跳ぶ。
瞬間、開いた口から炎が噴き出し、僕が立っていた場所をごうごうと燃やす。
やっと理解できた。
こいつは!
「
「いや、ちょっと違うな」
「マスター!」
「ドラゴンにしては
ドレイクが喉を鳴らして息を吸い、戦いを告げるように叫ぶ。
戦って勝てるのか!?こんな……
こんな化け物に!
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