薬、手がかり、仕事依頼
「……というわけで、お前に出会ったのは完全に偶然なんだよ」
マスターがここまでの経緯をジョジュアさんにかいつまんで説明する。
「そうなのか?」
勝手口のそばに立って動かないジョジュアさんが、ツンと冷たい視線を酒飲みに送る。
酒飲みが顔中を緊張させながら高速でうなずく。
ジョジュアさんが硬貨を親指ではじいて酒飲みに渡す。
「
言葉とは裏腹に冷たい声色だ。
金をやるからこの場から失せろ、と言いたいのは自称鈍感の僕でもわかる。
「へ、へっへへ……悪ィな色々と」
酒飲みはそそくさと家から出て行った。
「茶は出さんぞ」
「ご心配なく、出されても飲みたくないので」
「先生!」
ただでさえ緊迫した空気がさらに張り詰めている。
どうにも先生はジョジュアさんに対して厳しい姿勢を崩さない。
悪党に容赦しないのも考え物だなあ。
我慢できず、会話を試みようとする僕。
「ジョジュアさん、って言うんですね。いいお名前で…」
「偽名だ」
「ハイ……」
会話が終わってしまった。
きまずい。
趣味も好みも違う職場の先輩と一緒に休憩してる時よりきまずい。
スマホを持ってないってことがこんなに辛い時もそうない。
マスターが僕らをチラ見して、こりゃダメだと言わんばかりにわざとらしいため息をつく。
そして、カバンの中に手を入れようとする。
それを見てバッとメスを構えるジョジュアさん。
ビビる僕。
身構える先生。
「落ち着けって、ゆっくり出すから」
そうっとカバンから出したのは、財布。
そこから硬貨十数枚分の価値のある紙幣を出して、机に置く。
「仕事の話にしようや」
少しの間のあと、ジョジュアさんはメスをしまって机に近づき、置いてある紙幣をゆっくりと自分の手元に引き寄せる。
その様はまるで餌付けに警戒する野良猫のようであり、微笑まし……くはないね別に。
「要件は?」
「聞かれてるぞマジロ」
「えっ」
「『えっ』じゃないだろが、そもそも情報集めようって言ったのお前だろ」
「あっえっええと」
「情報収集か?」
「はい、でもこの場合なにから聞いたらいいやら……腕を失血した人が病院に来てないか聞くとか?」
「
「じゃあ、薬!血液ポーションは貴重な品だって言ってましたよね。取り扱っている店は限られているはずです!」
「いや、そもそも店で売買はされてない。国立病院に数本保管されている品なんだ」
「そんなに貴重なんですか」
「呪術に悪用される危険性もあるからなー」
「そっか、それもそうですね」
「病院から盗むとかどうかね?」
「もしくは……自分で作るか、だな。設備と材料と知識と技術が要るが」
「呪術師である依頼人が血液ポーションの作り方を知ってる可能性はあるのでは」
「ふむ……よし決めた、ジョジュア!」
「ようやく決まったか」
頬杖をついて待っていたジョジュアさんが耳を傾ける。
「『この街の各魔法薬店に、血液ポーション作成の痕跡が無いか調べろ』!」
「痕跡、ですか」
「わりと大掛かりな精製装置が必要だし、作る材料も、出る廃棄物も、その処理方法も特殊だからな。そのへんが稀少と言われるゆえんだ」
「そのへんを知ってるのは魔法薬学者の
「依頼と調査の仕方は分かった。が、魔法薬店だけでいいのか?」
「え?どういう意味……」
「魔法薬を作る施設なら
「??」
「
「あそこあそこって、いったい何処の事です?」
「ラウホステインは鉱山都市として有名だが、それとは別に特徴的な施設があるんだ」
「それは?」
「学校」
「学校???」
「ただの学校じゃないぞ、『魔法学校』だ!」
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