魔法学校、教頭、校長
ラウホステイン 北区。
「いかにも歴史ある建物ってカンジですね」
「仰々しいくらいにしっかりした塀に囲まれて、よほど大事な施設であることがわかるね」
「うむ、ここが『国立ラウホステイン魔法学校』だ。単純に学校としてだけじゃなく、図書館や避難場所としての用途もあるからこの街にとって非常に大事な施設なんだ」
マスターの解説を聞きながら歩くと、校門の門番が身元を確認してきた。
「身分証明はァー…ありますか?」
「こちらに、連れ添いの分も」
「んんー…ん。図書館の利用ですか」
「それなんですが、薬品研究棟に用がありまして」
「んんん~…
「いえ、これから取らせてもらおうかと。校長か教頭とお話させていただけませんか?」
「……少々お待ちを」
小太りの門番が気だるげに、手元の水晶に手を当ててブツブツ言い始めた。
たぶん、電話的な機能を持つ魔法道具なのだろう。
「……ウチの卒業生の方ですか?」
「はい」
そうだったのか。
まあマスターも魔法使えるし、研究してるのは魔法薬だし、納得できる話だ。
「面会の許可が出ました、どうぞお通りください」
門番の手でガラガラと大きな門が…開かず、隣にある門番用のドアがパカッと開く。
校内はいかつい外観とは裏腹に、質素ながら優雅で、さながら中世風のホテルのよう……まあ中世ヨーロッパ的な世界だから当然と言えば当然ですが。
廊下を歩く生徒は、学生服の上に短いローブを羽織って、そのローブのポケットに短い杖を携帯している。
その子たちに会釈しながら、マスターのよどみない案内で校長室へ。
ノックをして室内に入ると、儚げな老婆とふとっちょの中年が控えていた。
「お久しぶりです、エンドー先生、へレーゼ教頭」
「今の教頭は私です、アネッツァさん。へレーゼ教頭も今は校長。ご存知なかったので?」
「失礼しました、学生の時の記憶のままで…」
どうやらふとっちょの男性がエンドー教頭で、女性の方がへレーゼ校長のようだ。
「まあまあ、教頭先生。こうして尋ねてくれるだけでもありがたい事ではないですか。それにしてもアネッツァさんも大きくなって……貴女は卒業の頃になっても他の子と比べて幼くて、我々教師も行く末を不安がっていたくらいだったのですが、余計な心配だったようで安心しました。しかし……グスッ」
ヘレーゼ校長の鼻すすりが聞こえてきたところでエンドー教頭が額をおさえる。
「大人になるってことは…ズズッ…決して良い事ばかりではなく…ズッ…奪う側としての知恵をつけてしまうということでもあり…ウッ…やがでう”ばわ”れ”でぐぢばでるよ”う”に”な”っ”でえ”え”え”え”」
「ああまた始まった…校長!落ち着いてください!」
「相変わらずのネガティブ思考というか泣き癖ですね校長……」
この人大丈夫なのかな。
「そ、そういえば薬品研究棟に用があるとかで!」
教頭が無理矢理に話の腰を折って泣き止ませようとする。
「そ、そうなんです。実は以前暴漢に襲われましてかくかくしかじか……」
「なるほど?それでその悪漢の仲間が補血のために血液ポーションを調合うんぬんかんぬん……」
「それで、もしかしたら薬品研究棟に忍び入って調合を行っていたのではないかと睨んで」
「魔法薬品店は?」
「他の者を使いとして送っています」
「ふ~む。校長、いかがいたしましょう」
「グスッ、かまいませんよ。すぐ許可書を書きます」
「ありがとうございます!」
「付き添いなど、いなくて大丈夫ですか?」
「大丈夫でしょう。アネッツァさんの現職は魔法薬研究だそうですし、証拠があればすぐに発見できるかと」
「いえそういう意味ではなく……」
「許可書は、宿を教えていただければそちらに明日送りましょう」
「助かります!」
「ゴ、ゴホン!そういうわけですので今日のところはお引き取りを」
「流石に来てすぐにというわけにはいきませんか」
「申し訳ありませんが規則なので。ただここ数日は調合実習もありませんし、もし調合が行われていたならそのまま証拠は残っているかと」
「……なら、仕方ありませんね。突然の訪問で色々とありがとうございました」
「いえ、また顔を見せに来てくださいね」
僕と先生が口を出すまでもなく会話が終わってしまった。
マスターに合わせて深々とお辞儀をして、学校を後にする。
明日、なにか証拠を掴むことができるのだろうか……?
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「校長、よいのですか?ウチの卒業生とはいえ何をするかわかったものでは」
「わざわざ学校の研究棟を使ってやるような事も、奪うような物もそうないと思いますが。いちおう、後日用務員に在庫などのチェックを頼みましょうか」
「ですな」
「悪漢……『あの事件』となんの関係も無ければよいのですが」
「校長、『あの事件』の事はご内密に」
「わかっています、ですが心配で心配で……グスッ」
「ああ、また……」
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