閑話、調査、貯蓄
「あ、暗殺者ギルドぉ!?そりゃいいや!きっとデケェ建物に似合いのデケェ門がついててさ、その門に『暗殺者ギルド』って書いてあるんだぜ!」
「でさでさ、門の前に看板があんだろうな!『殺人の御用ならお気軽にご相談ください』って!ワハハハハ!!いやぁ田舎もんは発想が豊かでいいなぁ!!」
冒険者ギルドに併設された酒場に、嘲笑の声がこだまする。
ギルドに足しげく通い、そのたびに世界の危機について聞いてくる僕の事を、ギルドの人たちは『刺激と功名を求めて上京してきた田舎者』だと思っているらしいです。
異世界人であることが広まるよりはマシとはいえ、無知の笑いものにされるのはいい気分がしない。
……まあ、この世界について無知であることは否定できないけれど。
その笑い者が、なぜ暗殺者ギルドについて聞いたのか。
もちろん、先日の暗殺未遂事件の『黒幕』についての情報を得るため。
あの暗殺者は言っていた。
「男二人がターゲット、女は対象外」と。
ノンケか?いやそういう話ではない何を言ってるんだ僕は。
僕たちをピンポイントに狙っていたのだ。
なぜそんな事を?と考えたが、僕たちが異世界人だと知ったとすれば一応の説明はつく。
ドゥエルガルを捕まえた時、それらしい事をマスターが口走った覚えがある。
そこから黒幕へ情報が伝わったのかもしれない。
「異世界人は神からの使命を受けてこの世界に降り立つ」。
それが、異世界人についての唯一の情報であるとマスターは語る。
僕たちがその異世界人であることを知り、『黒幕』はろくな調査もなしに暗殺指令を出した。
きっと、神からの使命が、自分たちの邪魔をすることだと確信したから。
神をも恐れさせるような、うしろめたい「何か」を行っている自覚があるからだろう。
僕はそう
であれば『黒幕』を追うことが、僕たちの使命について知ることにつながる、はず。
そう思って、暗殺の依頼ができそうな所について聞いてみたのですが……。
「殺し屋が堂々と依頼の募集なんてしてるわけねえんだわ」
「隣国には『なんでも屋』がいるって聞いたことがあるけど、それだってどこまでやるのか実在するのかわかんねえくらいだしな!」
「そんなわけでなんの情報も得られず帰ってきたわけだね、かわいそうなマジロ君。恥を知れ恥を!」
「慰めるか叱るかどっちかにしてほしいです……」
「あの暗殺者の口ぶりから察するに
「言っても初対面のオジさんとは交換しないでしょう」
「むうう、これだから絶食系女子は!」
なんだか論点がズレ始めている気がする。
「やっぱりまた、むこうが来るのを待つしかないんでしょうか」
「とはいえなにも用意できないわけではあるまい、『人事を尽くして天命を待つ』。かのイタリアの哲学者カール・ゴッチ氏の名言だ」
「カール・ゴッチはプロレスラーだしベルギー生まれなんですが……」
「人事って言ったって何をすれば」
「まず外食は控えることだね、この世界にはペットボトルや包装フィルムなんて無いから飲食物への異物混入は容易だぞ」
「毒殺……ありえないとは言い切れませんね」
「解決するまでマジロ君の手料理しか頂けないのは寂しいな、口じゃなく心が」
「なら先生も料理作ってくださいよ」
「自慢じゃないが私は料理とそれに伴う食器洗い、あと鮒寿司が苦手でね」
「ほんとに自慢にならない!」
「あとは護身具…防刃チョッキとかかね?あればいいんだが」
「あ、それならいいものが街で売ってましたよ!『アラクネ兵士の糸で編んだインナー』だとかで!破れにくくて刃物を通しにくいとかで、今ちょうど着てるんですけど」
刃物ぐさー。
「ホントだ!全然メスが通らない!」
「バッ…はああ!?!?」
「そう怒らないでくれたまえ。急所は避けたし、痛くないように手袋はしておいた」
「自分の痛みよりこっちの痛みの心配してほしいなあ!?!?!?!?」
「先生のほうは護身、なにか気を付けてるんですか?」
「街へ行くときは棒を持つようにしてるくらいだね」
「ほう」
「2本目の棒を」
「それ無視したほうがいいネタですね?」
「まあ極端な話、外出を控えればいいんだけどもネ……」
と、マスターが僕らの部屋に飛び込んでくる。
「ジャーキー!ジャーキーが食べたいーッ!お前ら街行ってくれ!」
「いや私ら自由時間のはずでは」
「残業代は上乗せするから!今!すぐ!!!!!」
「難しいよね、あの主人じゃあ……」
「僕らがお金の
異世界行っても付きまとう、嗚呼悲しき経済社会の規範よ。
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