血液、魚、両脚
跳びのいた私の脇腹に、血が噛みつく。
言葉にすると意味が分からないが、実際に噛みついているのだ。
ビチビチとはねる血を掴み、床に向かって投げつける。
ビシャッと音を立てて血が飛散するが、すぐに宙に浮いて形を作る。
それはまるで牙を持つ魚類……ピラニアのようであった。
「先生!大丈夫ですか!」
マジロ君が叫ぶ。
「大丈夫、インナーが少し破れただけだよ!」
以前
「お前らが邪魔になるんだ、きっと……!
その言動からも、ただ雇われて襲いに来た
こいつを捕まえて色々と聞きたい所だけど……。
ストーカーの腕からは未だ血が垂れている。
そしてその血が魚に変わり、我々に分散して飛び掛かってくる。
「どういう魔術なんだコレは!?」
「魔術じゃない、呪術だ!」
私の問いに、
「魔力を使う魔術に対して、血と痛みを使うのが呪術だ!代償がデカいぶん、強力だぞ!」
『血の魚』はどんどん増えていく。
1人当たり3~4匹くらいだろうか。
マスターも私も対処するだけで手いっぱいだ(どうやら魔法障壁を張りながら移動や攻撃はできないみたいだしね)。
マジロ君はそう長くはもつまい。
なんとかせねば。
血の魚は各自の首筋に狙いを定めている。
インナーの上からの攻撃では非効率的だと考えたのだろう。
この魚の攻撃から逃れて
しかし、それまでこの魚はどうする。
両腕で首をカバーすれば……いや、それでは体当たりくらいしかできなくなるし、わずかにでもスキマがあればそこから首に食いついてくる。
首を守る……。
ハッと気づいて、ストーカーを囲むまで持っていた、足元の買い物袋に手を突っ込み、マフラーを巻く。
ただのマフラーにインナーほどの守りは期待できないが、術者を攻撃するだけの時間があれば充分だ!
私は杖用ショルダーベルトから杖(約70cm、金属製)を外し、武器として構えながら術者へ向かう。
狙うべきは血が噴き出て血色の悪くなった腕か。
いや、痛みを力に変換するというなら逆効果だろう。
それより術を止めることを考えるなら、意識を奪うのが先だ。
やはり頭、いや脳を揺らして昏倒させるならアゴか。
右手の杖をこれ見よがしに揺らしながら振りかぶり、そちらに注視させて左フックでアゴを揺らす!
これがうまくいけばいいが……。
マフラーがすごい勢いでボロボロになっていき、皮膚の薄皮まで到達したあたりで、やっと攻撃できそうな距離まで近づいた。
甘かった。
ストーカーの腕から垂れて肌に張り付いていた血が、
血が刃に変わっている。
大きな、鎌のように。
「お前らが無理矢理突撃することを……想定しなかったと思っていたのか?カスがよ……」
そう言われた、気がする。
ストーカーの身体はピクリとも動かないまま、刃だけがクンと振りおろされる。
予感がした。
これは金属の杖では防ぎきれない。
避けられるか。
ダメだ、私の足に勢いがつきすぎている。
仮に転んでも、斬るのに間に合ってしまう。
死
その時、ストーカーの横あたりから風を感じた。
大きなものが空を飛ぶ時のような、ブワッとした風を。
そして、ストーカーの横から
両脚が出てきた。
マジロ君の両脚だ!
「だっしゃあ!!!!」
マジロ君のドロップキックがストーカーに命中し、マジロ君より細い体が吹っ飛んでゴロゴロと転がる。
振り降ろされていた血の刃は術者の体につられて空振りした。
「マジロ君!!」
彼を見ると、魚に噛みつかれている首元にはボロボロのマフラーをしていた。
私と同じ考えに至っていたのだ。
「どうだっ、このクソ野郎ッ!」
今までマジロ君の口から聞いたことがないような言葉が、今は頼もしさすら感じられる。
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