転々、鳥、空籤?
ふざけんな!痛いぞ!また血が出てる!
やった!間に合った!先生を助けられた!
脳内の二つの思考が、興奮の熱でドロドロのシチューになって渦を巻く。
「どうだっ、このクソ野郎ッ!」
なにかもっと相手の目をこちらに向けさせるような言葉を言いたかったが、挑発しか言えなかった。
先生がこっちを見て力弱く微笑むと、僕もそれに返す。
ストーカーがこちらを向いて睨む。
「なに勝った気でいやがる……!」
突然、いや、僕らの意識から外れていただけか。
『血の魚』が僕らの首の肉に牙を立てる。
マフラーは千切れ落ち、守るものはもう無い。
「忘れてんじゃねぇよボゲッ!!何も変わってねぇだろうがよ状況はァ!!依然、俺の有利なんだよ!」
ストーカーをふっ飛ばして、僕らとの間にはまたしても距離が空いてしまった。
そう、もう僕らは守るだけしかできない。
僕にできることは終わった。
できるだけの事は成した。
「忘れてるのは……そっちも、だろ」
「ああ!?」
「方向、良し!」
「何を
と、言いかけたストーカーの傷ついた右腕がガシッと掴まれる。
マスターの右手だ。
彼女はその傷に、左手に持った薬液をかける。
と、途端に『血の魚』の動きが鈍くなった。
形を保つのも難しくなっているようで、解けたアイスのようにドロドロになっている。
腕から生えていた『血の刃』も同様にドロドロだ、切れ味はもう無いはず。
「『解呪』!?いや違う、薬!?」
「そう、強力な痛み止めの薬だ。呪術が痛みを原動力とするなら、それを奪おう、とな。」
以前僕に塗ってくれた奴と同じ薬だろう、持っててくれたんだ。
なんとかしてくれるだろうと思って、マスターがいる方向に蹴飛ばして正解だった。
「くっそがああああ!!!!!」
怒りでのぼってきたストーカーの血が、その腕から噴出する。
しかしその血も勢いを失くし、やがて腕から顔からどんどんと赤みがなくなっていく。
血を出し過ぎたんだ。
死なせない!
逃がさない!
大事な情報源!
ストーカーに迫る僕と先生、腕を掴むマスター。
しかしそこへ何者かが唐突に現れ、マスターを弾き飛ばす。
僕と先生が一瞬足を止め、確認すると……それは、鳥だった。
僕らより少し大きいくらいの体長、長い首、長い足、飛ぶには小さ目な羽、大きなクチバシ。
ダチョウにすこしドードーを混ぜたような鳥だった。
その鳥が、キラキラと輝く体毛の下から玉のようなものを落とすと、ソレは濃い色の煙を吹き出し、僕らの目と鼻を刺激する。
涙で前が見えなくなり、その場に座り込んでいると、わめく声が響く。
「ああそんな!
「私のような何も成せぬ愚者に、慈悲を!しかし!!!」
「うう、わかりました!それがアナタのお言葉ならば、従いましょう!生きましょう!!あああああ!」
逃げる、
この煙では、待て!すら言えない。
鳥が走る音が聞こえる。
僕と先生はその音を追おうとするが、とても追いつける速度ではなかった。
煙が、晴れた。
僕らは首に幾らかのケガはしているが、全員無事だ。
しかし……。
「なにも、なにも進まなかった……!なにも得られなかった…!いつまでこんな事をやらせる気なんだ!!チクショウッ!!!!!」
一向に止まったままの『救済』への苛立ちが、命を脅かされる恐怖が、涙と嗚咽となって顔から零れる。
先生とマスターが、僕の背中に黙って手を置く。
マスターはこちらを心配するような顔をしていたが、先生は違った。
何かを思い出そうとするように、白髭を弄りながら考えている。
しばらくして、先生がポツリと呟く。
「なにも得られなかったわけじゃあ……ないかもしれないよ」
「「え?」」
驚く僕とマスターをよそに、ぼうと虚空を見つめる先生の
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