なんでも屋、再会、ジョジュア

「…なのでその医者に私は言ってやったんだ!『いいえ私自身に使うんです、なにせ歳だから大きくしないと小便もできやしない』ってね!」

「ガハハハきったねえな~!」


「ヤマガミぃ!くだらんジョーク飛ばしてないで意見を言え意見をぉ!」


「まあまあ落ち着いて……あ、マジロ君こっちの人にお酌してあげたまえ」

「え?え?ええと…ハイ…」

「おおっすまねえな姉ちゃん!声が随分低いがカゼかい?」

「男です……」


 もういったいなんなんだ。

 なんで見ず知らずのオッサンに接待しなきゃいけないんだ。


「あー、で、いい宿探してんだってな?なら西区がいい。あっちは衛兵の詰所が近いんだ、おかげで治安が良い。」


 !?


「それっからなんかカネの種になりそうな話が欲しいんだったな?ま、普通に考えりゃ冒険者ギルドに聞くんだろうけど、あそこはボるからなあ……」


 先生、地元民から情報を得るために酒を奢って……

 マスターもそれに気づいたようで、強ばった肩を落とす。


「ならさっさと言えってんだ、お酌くらいアタシがするっての」

「まあ私がお茶飲んで休憩したかったのもあるんだけどね」

「おい」



「あんた、ブニアから来たんだったな?じゃあアレは知らんわな。貴族様……というわけでもなさそうだし、教えても大丈夫だろ」


 ?


「来なよ!」


 酒飲みの1人に連れられて街を歩く。

 歩くにつれ、道が薄汚れているように感じる。

 どことなく、なんというかその……


「ここは東区だ、西区とは方向も逆なら治安も逆。貧民窟スラム…ってほどじゃないが、金のないヤツの溜まる区だ。財布はきちんと守っておきなよ」


 やっぱし。


「ここに情報が集まるのかね?」

「というより、腕のたつ奴がいてね。『なんでも屋』を自称してる。俺たちはもっぱら家具や水道管の修理や鍵開け、探偵なんかもしてもらってるが、裏じゃ結構アコギな仕事もしているとか。ウワサじゃカネさえあれば殺しだって……なんて言われてる。俺たちゃあんまり信じてないけどな」


 そういえばいつだったか、ブニアの冒険者ギルドでそんな話を聞いた気がする。


「ギルドでも聞けないような汚い話も聞けるかもしれんぜ。がめつい奴だがギルドほどじゃねえしな」


 なんだかちょっと不安になるな、どんな人なんだろ……。



 着いた先は、変哲のない木造の小さな家屋だった。

 看板すらなく、秘密裏に商売してるのがわかる。


 酒飲みが黙って扉を7回叩く。

 おそらくこれが合図なのだろう。


 静かに鍵の開く音がした。


「扉はゆ~~っくり開けろよ、でないと怒るんだ」

「随分神経質な奴だな」

「用心深いんだよ、なにせ女1人だからな」

「女?」


 中に入ると、たしかに1人の女性が立っている。

 褐色に綺麗な黒髪、スタイルもいい。


 その彼女が、僕らを見るなりナイフを構えた!


「うわっ!?ジョ、ジョジュア!待ってくれよ!」


 酒飲みも驚いている。

 僕らも驚いている。

 そして彼女も驚いている。


「お前ら、どうしてココが……!」


 殺気すらこもった目で睨まれる僕達。

 負けじと僕らも構えた。


 ジョジュアという彼女の名前に覚えはなかった。

 だが。

 彼女の声、

 彼女のナイフの構え、

 そしてなにより、彼女の苦土電気石ドラバイトのような茶色の瞳には覚えがあった。



 彼女はいつぞや、僕らを殺そうとしたあの暗殺者アサシンだ!

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