出国、輸血、馬車、アクシデント!

 出国の申請は思ったよりあっさりと終わり、半日もかかりませんでした。

 マスターの身元保証がなかったら半日どころか申請自体も怪しかったと考えると、従僕になったのも決して遠回りではなかったんだなと思えます。


「戸締りヨシ、荷物ヨシ。といっても随分と軽装ですが」

「国を跨ぐとはいえ距離としては大馬車で1時間かからん程度だ。ただの小旅行だな」

「大…?向かう先も魔物の出る洞窟とかじゃなくて街ですしね。なにかいい結果が得られればいいのですが」

「旅は結果じゃなくて過程を愉しむものさ。希望に満ちた始まりは目的地に着くことより価値があるという」

「いや今回は流石に結果を重視しましょうよ!失敗したら世界がヤバいんですよ!?」

「『世界の危機』…いよいよもって真実味を帯びてしまったなあ」

「信じてなかったんですか!?」

「そういうわけじゃないが、その……」

「まあまあ仕方ないじゃないかマジロ君。キミだっていきなり未来の猫型ロボットが出てきてキミの運命を変えてあげようなんて言ってきたら、にわかには信じられないだろう?新手のオカルト商法使いだと思うだろう?」

「それとコレとは話が違うのでは……いやまあ気持ちは分かりますけども」

「だろ?仕方ないんだよ。さ、わかったらマスターの気が変わらないうちに急ごう!」

「は、はいっ」



 そういうわけで今は駅。

 この世界には公共の交通機関が存在しないので、移動は民営の馬車でおこないます。

 しかしこの馬車がデカい!

 電車一両分はあるデカい車、そしてソレをく馬もまたデカい!

 全高4.5メートルはあろうムキムキの馬が2頭!

 マスターいわく「大馬だいば」と呼ばれる種類の馬だそうで、乗馬には向かないが輸送にはもっぱらこの馬が使われるそうな。

 すごい。

 やっぱり異世界って異世界だ。(?)



 御者ぎょしゃ(馬車の運転手のこと)にカネを払って、入国審査兵に証明書を確認してもらって、ついに隣国へ入国!

 しかし景色に変化はなく、欠伸と弁当をヒマと一緒に噛み潰すしかやることは無し。

 とりあえず、お二人と会話しますか。


「輸血ってなると血が必要なわけですけど、馬が主流の流通で、都合よく適合する血液があるものなんですかね?」

「……言われてみればたしかにそうだな。魔法でなにかこう……血を変化させたり?あの呪術ならできそうではあるがねえ」

「輸血?輸血って他人の血を入れて補給するヤツか?あんな不確実で危険な方法を?」

「不確実?危険?」

「oh、そうだった……マジロ君、我々の世界で血液型って何世紀に発見されたものか知ってるかい?」

「え?その言い方からするとかなり近代なんですよね。…18世紀?」

「残念、20世紀だ。正確にいえばギリッギリで19世紀だが」

「そんな最近だったんですか!?」

「うむ……当然それまでは血液型も知らずに輸血してたわけだ。危険と言われて仕方ない。中世ヨーロッパ前後くらいの医療技術(っぽい)のこの世界では輸血には頼れまい」

「じゃ、じゃあどうやって補血して……?もしや補血を考えずに切断して逃げたとか」

「そうだったら前提が崩れるわけだがね」

「うあーそんなー!そうだとしたらこの旅に何の意味が!」


「うるさい!公共の場で騒ぐなバカタレ!それに輸血より良い補血方法はある!」

「すいません…って、あるんですか?」

「『血液ポーション』を知らんのかお前達。飲めば骨髄に効いて血液の生成を早める魔法薬の一種だ」

「骨髄に?」

「血液は骨髄から作られるものだよマジロ君。」

「へえ~、でもそんな薬あるならなんでアイツストーカーは持ってなかったんでしょう」

「単純にすごく希少なんだ。それこそ大病院に1、2本ストックがあるかどうかの代物だからな」

「それにまあ、傷口開きっぱなしのまま薬を飲んでも血が作られた先から噴き出して本当に一時しのぎにしかなるまいね。あの時は腕の痛覚をマスターに遮断させられていたから、その血をすぐ武器にはできなかっただろうし」

「そっか、そうですね。……これから向かう街には、その薬がある大病院があるんですか?」

「いや、大病院というか、あそこには――――」



 そこまで話したところで、突然御者ぎょしゃが叫ぶ。



「みなさん、賊が出ましたァ!姿勢を低くして、衝撃に備えてくださいィ!」

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