第2話 異世界へ
葬儀の1ヶ月ほど前。
時田世平は、海沿いの道を原付バイクで走っていた。通学で使うために親から買って貰ったものだが、運転にもだいぶ慣れてきたので、初めての遠出だった。
天気は良く、日光を浴びると少し熱くもあるが、走り出すと海風を受け、爽快な気分を感じていた。
先程休憩を取った時、ヘルメットのあごひもを締めるのを忘れて出発した事に、気がついてはいたが、大してスピードを出すわけでもないと思い、そのまま走り続けていた。
車は少なくのんびりと走っていると、道は切り立った崖に面したワインディングに差し掛かり、右に左にバイクを傾けて走ることで、段々心が高揚してくるのを世平は感じていた。
しばらくすると、後方から騒々しい音が近づいて来ることに気づき、少しスピードを上げるも、騒音の主たちの接近を防ぐことはできず、やがて10台ほどのバイクに取り囲まれてしまった。
世平は出来るだけ道の左側に寄ってやり過ごそうとしたが、派手な改造を施した暴走族の面々は、遊びたい年頃なのか、ちょっかいを掛けてくる。
急に爆音をあげたりラッパのようなクラクションを鳴らしたり、ついには「もっと早く走れよ、亀!」と声を上げながら、世平のバイクを足蹴にする者まで。
それは3人目の少年だった。足で蹴ろうとした瞬間、道路のわずかな陥没にその少年のバイクの前輪がはまり、バランスを崩してしまい、立て直そうと強く蹴り過ぎてしまった。世平のバイクはコントロールを失い、ガードレールにぶつかって止まるも、世平は空中に飛び出し、衝撃でヘルメットとメガネは外れ、海岸の岩場に一緒に落ちていき、暴走族の少年たちは、「やばい!」と叫び逃げていく。
世平は頭から血を流し、岩場に横たわっている。不思議と痛みは感じてはいないが、自分の命が消えかかっている実感はあった。メガネが無くなり周りの風景はぼやけていたが、唯一太陽だけは、はっきりと認識できた。
世平は太陽に向かって右手をあげ、「死にたくない。まだ何もやっていない。」と呟いたところで息絶えた。心臓も脳も活動を止めたが、足だけは波に洗われ揺らめいている。すると体が光だし消滅していった。
あれおかしい。硬いが、平らな所に寝ている。自分は死んだはずでは?世平は違和感を覚えつつ目を開けた。
再びおかしい。メガネを掛けていないのに、周りがくっきりと見える。体を起こして周りを見渡すと、石づくりの部屋の中で驚いたような顔をした男性が3人こっちを見ている。
目鼻立ちがくっきりとした顔立ちで、印欧語族?服装は外国の僧侶のよう。
ただ、回復した世平の視力は、3人の耳の異様な形を見逃さなかった。
「エルフ?」世平は呟いた。
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