第4話  レモティア ワララド

 侍女が部屋のカーテンを開けると、柔らかな日差しがベッドまで届き、その銀髪に反射し輝いて見えた。銀髪の主はベッドに横になり、時折閉じた切れ長の目を強くつぶり、小さなうめき声を上げると、侍女が濡れた布で額を拭いている。


 レモティア姫は、床についてもう一週間を過ぎようとしていながら、一向に良くなる気配は感じられず、亡くなった母のことばかり考えていた。自慢の銀髪は、肩にかからないぐらいに切りそろえてあったが、これは病気のためではなく、行動的で好奇心旺盛な性格のため様々な場面で邪魔にならないように短くしたものだった。


 切れ長の目は少し上向きで、瞳の色はウロロ湾の深淵のようと言われることを本人は気に入っていた。鼻筋は通っているが、鼻は彫りの深いエルフの中では低いほうで、唇は王様を魅了した王妃様にそっくりだった。ただ、今は唇の色がツバエコウモリの翼のようで、肌も白さを通り越して消えて無くなりそうだった。


 ドアを叩く音がし、侍女が応答する。そして、王様とヨヘイ魔導士長が来たことを姫に告げた。


 姫がベッドから起き上がろうとすると、「そのままで良い。」と王様は制して、ベッドの横の椅子に座る。ヨヘイ魔導士長は後ろに立っているのに座った王様と大して高さは変わらなかった。


 王様は愛しげに姫の顔を見つめて、軽く深呼吸をすると、意を決し話始める。


「姫ももう気づいていることと思うが、姫の病気は亡くなった王妃と同じで、残念ながら治療法はない。しかし、魔道士長が日本で事故死し、我々の世界に転生したように、姫には日本に転生し、向こうの世界で生きてもらいたい。」


「王様、僭越ながら、この病気になったことは、私の運命であり、ヨヘイ先生や他の方々を煩わすのはどうかと。」


「姫はまだ若い、これからも様々な経験を積んで、世の中を楽しんで欲しいのだ。日本は穏やかな人々が暮らす平和な国と聞いておる。向こうには魔道士長の親兄弟がおり、頼ることができる。異世界に行くことであり、辛く苦しいこともあるだろう、だが姫は強く賢い私の自慢の娘だ。きっと上手くやっていけるに違いない。」


 そこで王様はしばし沈黙し、姫の手を両手で優しく握ると話を続けた。


「半年前に王妃が亡くなり、姫もと続くのは耐えられないのだ。親として最後のわがままだ、聞いてはもらえまいか。」


 姫は王様の、いえ父親の真剣な顔をじっと見つめてから。


「かしこまりました。ヨヘイ先生から日本や東京のことを小さい頃からお聞きし、以前より行ってみたいと・・・思って・・おり・ました。」と最後は涙声で答えた。

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