第8話 決意
父は台所でエプロンを着け、たこ焼き器を前に竹串でどんどん丸めている。
父「昼飯できたぞ。」
母「さあ、レモちゃん、どうぞ。」
レモティアは珍しそうに、皿に乗ったたこ焼きを爪楊枝で持ち上げて眺め「なに。」
母「たこ焼きというのよ。美味しいから食べて。」
レモ「たこ?」弟がスマホで画像を表示し「これが入っているんだよ。」
レモティアは驚いて「ダリサウ。」と呟く。
レモティアの回想。
島国モルルキ王国の皇太子の婚姻の儀に国王の名代として出席したレモティアは、無事その役目を果たし、ゆったりした気分で帰路の船旅を楽しんでいた。
船室で、同行したヨヘイ魔導士長が、『私はサカナより豚肉が好きです。』と日本語で言うと、レモティアは、『わたしは、さかなより、ぶたにく、すきです。』と続けた。
「姫、なかなか発音が良くなりましたね。これなら十分通じます。」
「先生のお陰です。その内、日本に旅行に連れて行って下さい。」
「う~ん、できればそうしたいのだが・・・」
「先生、ごめんなさい、ほんの冗談です。」と慌てて言った。
その時、船に衝撃が走り、船室が傾いた。ヨヘイとレモティアは、機敏に立ち上がると柱に手をかけ体を安定させ、揺れが収まるのを待った。やがて、揺れは収まったが、床は少し傾いたまま。
「姫様、ヨヘイ様、大変です。ダリサウに捕まってしまいました。」と兵士が船室に入ってくる。
「ほう、ダリサウか。」とヨヘイは心なしか嬉しそうに呟く。
姫とヨヘイが甲板に出ると、太くてヌメヌメした足が何本も甲板に這い上がろうとするのを兵士たちが槍で必死に押し戻そうと戦っていた。
その足は太い所では直径が1 m以上で、多くの吸盤が付いている。槍の穂先は刺さることは刺さるが、そのヌチャヌチャした皮膚にまるで取り込まれるようで、兵士たちの懸命な努力にも関わらず、段々と這い上がり、ついには、ダリサウの目が甲板上に到達した。
次の一瞬、その一方の目が、一人の兵士を、一瞥すると、一本の足が、一巻に、そして持ち上げられた兵士は大声で助けを一途に求めた。
「ヴォシューレ」レモティアは呪文を唱え、右手の上にビーチボール大の火球を作ると、巻き付いた足に思いっきり投げつける。
火球は蛸足に当たると弾け、兵士は、姫様ありがとうございますと感謝の念を持ったが、ダリサウは意に介さなかったようで、兵士が火傷を負っただけだった。
「コーリンソー」ヨヘイは呪文を唱え、右人差し指を上げぐるぐる回すと、直径1mほどの光の円盤が現れ高速で回転しだした。そして左手を蛸足に向けると、円盤は飛んでいき、その足を切断した。
兵士は、危うく自分も切断されかけた恐怖や落下した痛みよりもヨヘイへの感謝の念が先だった。
ダリサウは驚き、ヨヘイを見ると、慌てて海へ戻っていった。
レモティアは甲板に横たわる兵士の横にひざまずき、手を体に添えると「ラルーロリリア」と回復呪文を唱え、まず、自分が負わせた火傷を治療した。
そばでは、切り落とされたダリサウの足がニュルニュルとまだ動いていて、兵士たちはそれを海に落とそうと押している。
すると、ヨヘイが兵士に、「すまないが、魔法薬の材料にするので、先から、そうだな、これくらい切って、私の船室に運んどいてくれ。」と両手を肩幅位広げて言う。
「了解しました。ヨヘイ様がいらっしゃって助かりました。ありがとうございます。」と兵士の一人が応えた。
レモティアが船室のドアをノックし「ヨヘイ先生、はいります。」
魔導士長は、ドアに背を向け食事中の様子。テーブルには大きな皿に円盤状の食材、ナイフで切って食べている。
レモティアは、その輪切りにされた食材の切り口に見覚えがあった。驚きで表情が変わり「ヨヘイ先生それは・・・」
魔導士長は気まずそうに振り向き、怖い顔で口の前に人差し指を立てる。
レモティア我に返る。母は心配そうに「にがてなら無理に食べなくてもいいのよ。」
レモティアは覚悟を決め、キリっとした表情で「大丈夫。この世界、生きていく決意、示す。ガーシャ。」たこ焼きを口にいれ、ゆっくり噛み始める。
心配そうな周りをよそに、真剣な顔で飲み込み「美味しい。」
妹「そうでしょ。良かった。お父さんどんどん作って。」笑いながら皆でたこ焼きを頬張る。
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