第9話  デンファ

 翌朝、レモティアは、いささか興奮気味だった。母から魔法道具の使い方を習い、その運用を一手に任されたからである。風魔法にこんな使い方があるとは、風といえば吹き飛ばすものと思っていたのに・・・


 魔法道具ソウジキで部屋のホコリを吸い込みながら感心していた。音が五月蝿いのが玉に瑕、でもこれで部屋がキレイになると思うと、段々と楽しい気分になっていった。


 平和は布団の中で昨日のことを思い返していた。いきなり目の前に現れた、白雪姫、いや眠れる森の美女のようなレモティアの手の感触、吸い込まれるような瞳や尖った耳のこと。


 そして、夜トイレに行ったときに聞いた、令華とレモティアの風呂場での会話。


「レモちゃんの肌、白くてとても羨ましいわ。胸は私より少し小さいから、Dカップってところかしら。」


「デカップ?」


「Dカップ。胸に当てるものの、え~、大きさよ。結構筋肉質なのね。形も綺麗。ちょっと触ってもいいかしら。」


「はい。」すると、レモティアのくすぐったそうな笑い声。続いて令華の笑い声。


 弟は、下腹部の急な発熱を感じた。


「平和、何しているんだ。明日は学校に行くんだぞ。」いきなり父が声をかけて来た事に驚き、無防備に返事をしてしまった。


「わかた。行くよ。」


 と言ったものの、なかなか布団から出る気になれず、中でモゾモゾしていた。


 すると、フスマを開けレモティアが入ってきて、「平和、おはよう。そうじ、ここ最後、起きる。」と明るく大きな声。


 弟は慌てて布団に潜るとパジャマを整えた。次の瞬間、掛け布団ははがされ、弟は諦めて、顔を洗いに行く。


 レモティアは、布団を部屋の端っこに移動させ、畳の上を魔法道具ソウジキでキレイにすると、満足の微笑みを浮かべた。



 母は台所の食卓に座るレモティアへお茶を出しながら、「レモちゃんありがとう。お陰で部屋が綺麗になったし、平和も学校へ行ったわ、これからもお願いして良いかしら。」


「はい。ソウジキ、楽しい。」そう言ってお茶を飲み、「アチャ!」


「あら、ごめんなさい、熱かったかしら。」


「大丈夫、味、おもしろい、好き。」


「よかったわ。家事も一通り終わったし、平和も居ないから、一緒に買い物に行って、外で昼食を食べましょう。」


「わかった。毎日、平和、外に出す。」


「まだ時間が早いから、日本語を教えてあげるわ。私の言うことを繰り返してね。え~と、まず挨拶かな、じゃあ、初めまして、私はレモティアです。時田家でホームステイをしています。よろしくお願いします。」


 二人は楽しそうに、しばらく練習を続けた。


 フードを被ったレモティアと母が玄関を出ると近所の奥さん「時田さん、こんにちは。あらそのお嬢さんは?」


「こんにちは。こちらはホームステイで預かっている外国の方なの。」


「はじめまして、わたしレモティアです。時田けで、ホムステしてます。よろしくおねがいします。」


「こちらこそ、よろしくお願いします。そこに住んでいる田中と申します。とても綺麗なお顔で羨ましいこと。」



 駐車場で濃厚な赤のミニバンに母が乗ろうとすると、

「これが魔法道具ジドウシャ、ヨヘイ先生から聞いた。すごく早くて便利、でも怖い。」


「私は安全運転だから大丈夫よ。ドアを開けるから、ちょっと待ってね。」


 レモティアは車の後ろに乗り、周りを興味深げに眺めながら、時々「デンファ!」と声をあげている。母はきっと「凄い」と言う異世界の言葉だと解釈した。

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