第7話  初めての握手


リビングに座る5人。


父「エ~、あなたは何処から来て、名前は何と言いますか。」


レモ「異世界ワララド王国から来た。レモティアです。言葉、ヨヘイ先生、習った。」 


妹「ウソ、まさかお兄ちゃん。」


レモ「ここ時田、ヨヘイ先生、伝言ある。」


父「そうか、聞かせてくれ。」父は、何故かこうなることが、前から分かっていたような不思議な感覚にとらわれていた。その横で母は、ハンカチをあて涙を押さえる。


レモ「ごめん、急にいなくなって、俺あっちで、頑張っている。レモティア、世話になった人の娘さん、よろしく。」と言うと、腕時計を外し、父に渡す。


父は腕時計を感慨深かげに触ると、「世平らしいな。しかし、異世界というものが、本当にあるとは。」とつぶやき、少し考えてから、レモティアの目を見て、優しい表情で「あなたのことは、わたしたちが、おせわをします。」


レモ「ありがとう。」と安心したのか、モナリザのような笑顔を見せた。


父「じゃあ、各自自己紹介を。私が世平の父親の時田平太郎です。世平がお世話になり、ありがとうございました。」と言って、深々とお辞儀をした。


母「母親の十和子よ、よろしくね。」と言ってお辞儀をした。


妹「妹の令華(れいか)です。一緒に生活できるなんて、とっても楽しみ、よろしく。」と言って握手をしようと手を出すも、レモティアは意味が分からずその手を眺めている。


そこで妹は弟の手を無理やり握って、「あいさつのひとつ。」と大げさに揺すった。


レモ「あいさつ、わかった。」と妹の手を握り、楽しそうに揺すった。


30秒ほど続いた握手が終ったので、弟は緊張気味に、「弟の平和(ひらかず)だよ。」と言ってお辞儀をした。


顔を上げた弟は、目の前に迫ってくるレモティアに気づき、後ろに逃げようとするも、元より運動が苦手な弟は、俊敏なエルフの侵攻に対抗できるはずもなく、難なく右手を取られた。手を引っ込めようとするも、握る力は強く、上下に揺すられ、それに伴い心臓の鼓動も限界値を突破しそうになったところで、危うく手は離された。前を見ると、笑顔で真っ直ぐに見つめるレモティアのウロロ湾の深淵の様な色の瞳に、魂が吸い込まれそうだった。


 母「それじゃ平和の部屋はかたづけて、レモちゃんの部屋にするから。」


 その一言で正気に戻った弟は、「なんでだよ。」


 母「あんたの部屋はもともと兄ちゃんの部屋だからまた何かあるかもしれないでしょ。玄関の横の和室に移りなさい。」


 弟「ほえー」


 母「令華は日用品と着るものを調達してきて。フード付きの服を忘れないようにね。」


 妹「わかった。お金ちょうだい。」

 

弟「引っ越し、誰か手伝ってくれないの。」


 母「じゃあレモちゃんに手伝ってもらう?」弟は顔を赤らめ「一人でやる。」


 階段の昇り降りを繰り返す弟。


 縁側で父と母とレモティア、笑いながら話している。


 妹が買い物から帰ってきて、レモティアは洋服に着替える。そして、少し恥ずかしそうにみんなの前に出てくる。浅黄色の薄手のフード付きパーカー、薄青緑色のTシャツ、薄灰色のパンツ。


 母「とても良く似合っているわ。外に行くときは、取り敢えずフードをかぶって、耳を見られないようにしましょう。」と身振りを交えながら言う。


 レモ「わかった。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る