第15話 初めてのデート
運命の土曜日がやってきた。平和は、昨晩色々と考えてしまい、あまり眠れなかったので、睡眠不足ではあるが、緊張で頭は冴えていた。試写会は14時からで、場所は以前レモティアが迷子になった大型総合スーパー、母が行きは車で送ってくれる。
レモティアも楽しみにしているのか、平和の部屋の掃除にくる時間がいつもより、かなり早かった。午前中、二人共そわそわしていたが、理由は大分違っているようだ。
試写会会場に早目についたレモティアは、迷わず一番前の真ん中の席に座った。後を付いて来た弟は隣に、弟は小柄で、レモティアは6cmぐらい背が高いが、座るとあまり変わらない。
ベレー帽は、後ろの人の邪魔になると、バンダナで耳を隠すレモティアもカッコイイ。服は渋谷で買った薄黄色のワンピース。これを着るので、そわそわしていたのかな。
日本映画「単車霊」は、昔女性ライダーが事故で亡くなり、その幽霊が出ると噂の峠に、暴走族のメンバーが、肝試しに一人ずつ真夜中走りに行く話で、クライマックスは、女性霊のバイクに追いかけられ、振り切ったと思ったら、タンデムシートから抱きつかれて・・・
(以下はネタバレになるので、自粛。)
会場からは、女性の悲鳴がかなり聞こえていたが、レモティアは、じっと真剣な眼差しで、終始静かに映画を観ている。ただ、恐怖シーンになると、弟の腕を掴み、その力の強弱で精神の動揺が類推され、弟は、映画に集中できなかった。
弟の計画では、映画の後、フードコートで軽く飲食し、バスで帰るはずだったが、レモティアが、専門店街のレストランの前で動かなくなった。
どうしたのかと思ったら、ショウウインドウのジャンボパフェの見本を凝視している。
そのパフェは二人にとっては高価なものであったが、結局一つ注文し取り分けて食べた。レモティアはこの世界には、こんな美味しいものがあるのかと感動し、その満足気な表情を真向かいから堂々と見ている弟は、これは本格的なデートだと感慨にふける。
そして、その結果、ふたり分のバス賃が足りなくなり、歩いて帰ることとなった。
弟は、額の汗をハンカチで拭う。レモティアの足は早く、後ろを付いて行くのは大変。車で通った道を憶えているようで、迷いがない。30分ほど歩いた所に運良く公園。
「レモティア、ちょっと休憩しようよ。」
二人は、ベンチに座り、レモティアは、散歩で通りかかった小型犬を愛しげに眺めている。
「可愛いね。犬が好きなの?」
「襲わない生き物好き。美味しい生き物好き。平和好き。」
「えっ・・・俺も。」
「私、兄二人。令華、姉、平和、弟、思う。」
「ああそういうこと、そうだね、ありがとう。ところで、前から聞きたかったんだけど、一人でこの世界にやって来て、寂しくない?」
「父、兄、ヨヘイ先生、会いたい。しかし、こっち時田家いる。おもしろい世界、覚えること多い。父、私を信頼、こっち送った、期待応える、頑張る。」
「レモティアは強いな。そう言えば、世平お兄ちゃんってどんな人。俺が生まれて直ぐに、ワララドへ行ってしまったから、記憶にないんだ。」
「ヨヘイ先生、強く、なんでもできる、何度も助けてくれた。優しく、え~、ココルア。日本のこと、聴くの楽しみだった。」と少し頬を赤くした。
弟は、ココルアの意味が気になったが、聴けなかった。そして、兄に対してモヤモヤした気持ちを覚えた。
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