第16話  ビクトとトラ


 コンビニの前で、レモティアの歩く速さが遅くなり、何か見ている。目線の先には、「単車霊」に出てきたような、派手な装飾のバイクが2台、いにしえの400cc4気筒。


 弟は、関わるとまずいと思い、「レモ、早く行こう。」と急かす。


「よお、ピース。久しぶりだな。」コンビニから出てきた、作業服を着た金髪の男性が、声をかけた。


「えっ、ビクト。やあ変わったね。」


「アハハ、ピースは変わんないな。トラもいるぜ。ところで、そのモデルみたいな外人さんは?」


「ああ、うちにホームステイしてる子、今日は一緒に試写会行ったら、帰りのバス賃が無くなって歩いているとこ。」


青い髪で刈り上げ、ちょこんと結んだ男性が、出てきた。


「トラ。久しぶり。」


「おお、ピースか。懐かしいな。」3人は立ち話を始めた。


 解説しよう。3人は小学校の同級生、平和のあだ名が「ピース」、同様のパターンで、「ビクト」の本名が、勝利。では、「トラ」は?

 トランプの略ではなく、旅人だった。ピースは、私立中学に進学したため疎遠に。


 先程から、レモティアは、近寄ってしげしげとバイクを観ている。


「ピース。あの子紹介してくれよ。バイクが好きなのかな。」とビクト。


「ああいいよ。一応言っとくけど、一つ上だから。」


 3人は、レモティアに近づき、「レモ、友達を紹介するよ。ビクトとトラだよ。」


「ビクトだ、よろしく。そのバイクは俺んだ。」


「俺は、トラ。こっちが、俺の。」


「初めまして、私は、レモティアです。時田家でホームステイをしています。よろしくお願いします。このバイクカッコイイ。私、乗りたい。」


「いいぜ、家まで乗っけてやるよ。」とビクト。


「まあ、でも今日はワンピースだから、ちょっとどうかな。」とピース。


「横乗りすれば大丈夫さ。ピースは俺のに乗れよ。」とトラ。


「バイク、楽しみ。」とレモ。


 ハーフキャップのヘルメットをかぶり、風を感じながら、夕暮れの街を走るバイクで、レモは爽快な気分を味わっている。ビクトのタンデムシートは、後ろが上に80cm程伸びていて、横向きに座っても、腕を回し寄りかかることが出来るため、怖くはなかった。


 一方、ピースは、トラの後ろに跨って乗りながら、自分もバイクが欲しいけど、母が許してはくれないだろうと、考えていた。


 2台のバイクは、時田家の200mくらい手前で止まった。


「ここからは、歩いて帰ってくれ。」とビクト。


「ありがとう。助かったよ。」ピースは、気を使ってくれたことに感謝したが、言葉にはしなかった。


「楽しかった。ありがとう。」とレモ。


「よかったら、今度はもっと遠くへ連れてってやるよ。いつでも連絡してくれ。」ビクトは、レモがヘルメットを脱ぐときに見えた、尖った耳が気にはなったが、触れなかった。そして、2台のバイクは爆音を立て去っていった。


 また乗る気満々のレモを横目に、ピースは、どうしたものかと複雑な気分だった。


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