第13話  誕生日はビーリビリ


 平太郎は布団の中で昨日のことを思い返していた。異世界へ転生した世平にも驚かされたが、まさか平和にもあんなことが・・・。やはり、時田の血は人とは何か違うのだろうか。時田家は、世の中の平安を祈る陰陽師の末裔ではあるが、明治の頃からは、普通に周りと変わらず生きてきたはず。


 ただ、男子には、名前に「平」を付けるという家訓が残っているだけと思っていた。そう言えば「世平」の名は、時代に合わないと反対したが、亡くなった親父に押し切られてしまった。親父の真剣さに、逆らえない何かを感じたためでもあるが。


「平ちゃん、どうしたの、大学、今日は遅いの。」と母が起こしに来た。


「いや。今起きるよ。」と父は起き上がった。


「平和のこと、心配していたのでしょ。大丈夫よ、平和なら。」



昨日、6月6日。


 父、母、妹、レモは歌う、「ハッピバスデイ トゥ ユウ ハピバスデイ トゥ ユ ハピバスデ ディア ヒラカズ ハッピーバースデイ トゥ ユー」


父「おめでとう。」


母「おめでとう。これでやっと16歳ね。」


妹「おめでとう。16歳って、お兄ちゃんが、あっち行った歳だっけ。」


レモ「おめでとうござます。これで平和、大人、がんばる。」


弟「いや、こっちでは、18歳で大人だよ。でも、ありがと。まあ、これでバイクの免許が取れるけど。」


レモ「バイク?」


妹「まあ、まあ。お腹すいたから、ちゃちゃっと、ケーキにいきましょう。」


 部屋が暗くなり、父がケーキを運んでくる。ケーキの上には火のついたロウソクが16本。レモティアは、その厳かな雰囲気と美しさに、少し感動し、妹は、16本もあると切り分けるのが面倒だと思った。


 無事ロウソクの儀式は終わり、妹がケーキを手際よく切り分け、皆で食べ始める。


 平和は、ケーキをフォークで刺しながら、レモティアの表情を横目で視ている。予想通り、表情はみるみる変わり、「デンファ、美味しい。」と驚いたような、幸せそうな・・・平和は、ふっと満足のため息をつく。


 皆のお腹が膨れた頃、プレゼントタイム発動。


母「はい、リクエストのアクションゲーム。ほどほどにね。」


弟「わかったよ。ありがとう。」


妹「私からも、最高のプレゼントがあるわよ。はい。」


 封筒を渡された弟は、中を見て「げっ!ホラー映画!」弟の多くの苦手なもののうちの一つだった。


妹「冷静に良く見なさい。ペアって書いてあるでしょ。」と小声で弟に伝える。


弟「えっ、ペア。ペアか、じゃあ一人で行くのはもったいないな。そ、そうだ、レモティアは、映画とか興味ありますか。」


 母は笑いをこらえた。


レモ「映画、行く、行く。」とキラキラとした目で答えた。


 妹は、弟を一瞥し、この試写会のチケット入手には、大学の友達にも協力してもらったんだから、私の誕生日プレゼントのために、夏休みにバイトぐらいするのよ、との念を送る。


レモ「私、プレゼント、どうぞ。」


 封筒を渡された弟は、中を見て「え~え、ありがとう、レモティア。」といささか感動した。中には薄い青緑のカード、色鉛筆で小さな花の絵と大きな字で「ちりょうけん」下に小さな字で「ゆうこうきげん:ずっと」と書いてあった。最近、母から平仮名を習っており、母の監修のもとに作製。


弟「さて、皆さん、ここで取って置きを披露したいと思います。」


父「よっ、いいぞ。」と拍手をする。


弟は、立ち上がると、電灯を消し、ブツブツと何かつぶやいている。


妹「気持ちわるいわね、何なの、早くしてよ。」


弟は、その言葉を無視して、「ビーリビリ、ビーリビリ」と何度か唱えた。


 急に弟の顔に光があたり、不気味に浮かび上がった。よく見ると、弟の右手には裸電球が乗っていて、それが、僅かに光っていた。


 電灯を付け、席に戻った弟は、得意げに光の消えた電球を皆に見せる。


父「見事なマジックだったな。凄いぞ。」と少しオーバーに褒める。

 

弟「いや。マジックじゃなくて、魔法だよ。レモティアから教えてもらった魔法を応用して、電気を流したんだ。」


レモ「やはり、ヨヘイ先生の弟、凄い。」


妹「じゃあ、平和は魔法使いってこと。」

 

弟「まあ、そうだよ。兄さんやレモティアと同じ魔法使いだよ。ただ、大したことは、この世界では難しいみたいだけど。」


 妹は、弟とレモちゃんのマネージャーになって、世界を飛び回る自分の姿を夢想し、にんまり。


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