第12話 裏事情

結局、奥の部屋へと案内されて、小さいテーブルを挟んでソファに向かい合わせで座ることになった。

美生の隣にはボストンテリアが据わっている。

先ほどのボーダーは借用書をもってきて、その後改装を依頼するために店へと走っていった。パピヨンはお茶を淹れるとすぐに姿を消したので、実質この部屋には三人しかいない。


「まあ俺は見ての通りのしがない金貸しだが」

「裏社会のボスが何を言ってるんだ、ベルバウ」


ボストンテリアが突っ込むのを、ドーベルマンが一蹴する。


「うるせえ、黙って聞け。最近、俺たちのシマを荒らす奴らが現れて、ちょっとばかし商売がしづらくなっているんだよ。で、いろいろと締め上げて吐かせた結果、悪さしているのが、この家だってわかったんだ」


ドーベルマンが示したのは、美生が持ってきた石だった。

それは宰相補佐官からもらったものだ。


「本当か? 宰相補佐官だぞ。何をやらかしたんだ」

「どっから手に入れたんだか、違法薬物の売買だ。俺たちも聞いた時は驚いたんだがな、高位のお貴族様がする仕事じゃないだろ。なんであんなところが裏の世界に手を出すんだ。だが、救聖女召喚と聞いてピンときたんだ」

「まさか、今回の王太子妃選びか」

「自分の身内をねじ込むのに、方々に金をばらまいてるんじゃないのか?」

「王太子妃に選ばれればそれなりに稼げるってそそのかした私が聞くのもおかしいけれど、そんなに儲けるものなの?」

「次期国王の妃の身内だ。いろいろな便宜を図ってもらえれば、莫大な金が動くだろう」


庶民にはわからない感覚だ。


「で、結局絵画を使って何をするつもりだったの」

「あいつの家の夜会で飾ってもらって爆破してやろうと思ったんだよ。まあ警告の一つだな」

「本当に地道な努力なのね……」

「そういう嫌がらせも大事なんだよ。それより、なんでこの石をお嬢ちゃんが持っているのか聞いてもいいか?」

「王太子のツガイにならないために、宰相補佐官と取引したのよ。店の購入資金を出してもらうかわりに私は辺境伯のところへ嫁ぐことになっているの」

「なんでわざわざ他所にやるんだ。しかも辺境伯だあ?」

「相手は西の辺境伯だ」

「クズ野郎じゃねえか。どうなってる」


裏社会のボスからもクズと呼ばれる辺境伯が美生の現在の婚約者なのだなと若干、遠い目になったのは内緒だ。


「私に複数の匂いがついているから、王太子に嫌がられたのよ。それで気が合うだろう辺境伯のところへ送られることになったの」

「本気か、俺のところに逃げてこい。絶対に匿ってやる」

「別に大丈夫よ、ツガイが欲しいわけじゃないの。ただ仕事がしたいのよ」

「仕事だあ? 本当に変わった救聖女様だな。そういや、なんの店をするんだったか」

「トリマーって、こっちでは美容師になるのかな。全身を洗ってカットするの」

「はああああ???」

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