第11話 借金返済

渋るイタリアングレーハウンドを病院へと預ける。簡単な診察をしてもらったが肋骨を骨折しているとのことだったので、そのまま入院してもらった。

そうして次に美生が向かった先は、先ほどのドーベルマンの店だった。

大通りとは反対の路地の奥へと乗り込む。

金貸しを営んでいるらしく事務所じたいは平屋だった。

事務所に乗り込めば、笑顔の従業員が出てきた。パピヨンが事務員の服を着ている。背丈は小柄だが、でるところはしっかりと出た豊満な体だ。

正直、肩が凝らないのかなと心配してしまう。


「いらっしゃいませ、借入をご希望ですか」


接客のプロだ。安心感のある顔をして近づいて、取り立てる時には強面のお兄さんたちが対応するということだろう。


「ええ、ここのボスに会わせてちょうだい」

「ボス? 社長ですか……」


パピヨンはかわいそうな子を見るような表情をして、首を横に振った。


「社長に会いたいだなんてよっぽどのおバカさんなのかしら。普段でも近寄りがたいのに、今は一段と荒れているから」


パピヨンの声にかぶさるように奥の部屋から何かが壊れる音と怒声が響いた。


「ほら、機嫌が悪いの。わかるでしょう?」


肩を竦めるパピヨンの肩越しに扉を見つめていると、逃げるように奥の部屋から飛び出してくるのはボーダーだ。


「なんだ、あれ。ボス、なんであんなに機嫌が悪い――っと、客か?」

「社長にご用事なんですって」

「はあ? これ以上ボスの機嫌悪くしないでくれよ。女ごときじゃどうにもなんねえ荒れっぷりだぞ、面倒事はごめんだ。とにかく今日は帰れ」


忠告のような言葉を投げつけてくるボーダーはいいこなのかもしれない。


「ん、めちゃくちゃいい匂いがするな」

「え、貴方も? 私もなのよね」


ボーダーとパピヨンが二人で顔を見合わせて、まじまじと美生を見やった。


「それ以上は近寄るな」


二人の間にボストンテリアが割って入ってくれる。

大きな背中は安心感がある。


「あん? 軍人が一体なんだってこんなところに?」

「あんたのツガイってわけじゃなさそうだけど。どういう関係なの?」

「お前ら、何を騒いで――おい、そいつに近寄るんじゃねえ」


顔を出したドーベルマンは美生に気が付くと、心底不機嫌そうな顔をしてドーベルマンが唸り声をあげる。


「はあ? ボスのお相手ですか」

「違うが、近寄るな……」


言いたくないように苦虫を噛み潰しながらドーベルマンは美生に大股で近づいてきた。


「何しにきたんだよ」

「さっきの店の借金を買い取りたいのよ」

「なんで、お前が」

「あそこに店を出すことにしたから。だから彼の借金は全部払うわ」

「ああ、そういや店を出すって言ってたな……だがなあ」

「お金ならあるわよ」


美生がポケットからダックスフントからもらった石を取り出せば、それを眺めていたドーベルマンの顔色が変わる。


「おい、こいつは――」

「ボスどうしました?」

「ボスじゃねぇ、社長って呼べ。おい、画廊の借用書もってこい」

「今日、ボ……じゃなくて社長が回収しに行ったところじゃないですか」

「ちんけな策はやめだ。こいつを使ってやる。お嬢ちゃん、店を開くんだよな、ついでに店の改装とか依頼しないか?」

「ここは金貸しでしょう?」

「ツテがある。ちゃんとした店だから信用しろ」


にやりと笑ったドーベルマンの笑顔はかなり嘘くさい。

ボストンテリアを振り返れば、彼は小さく頷いている。


「嘘の匂いはしない。だが何かを企んでいる」

「トリンは本当に鼻が利かないんだな。まあ、いい。説明してやるから、これで金を払え」


ドーベルマンは石を指さして、偉そうに命じたのだった。

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