第8話 我が名はヴィラン
「……ああ~~!!美味しかったぁ~~!!」
そう言ってマリーはケリーの死体をまるでアルミ缶を潰すかのように小さく小さく握り潰し始めた。
「ふふ……こんなものかしら。」
手のひらサイズになったケリーをゴミ箱に捨てると、マリーはそのまま玉座に座った。
とりあえず、悪魔の契約書が消えちまったから新しいのを用意しよう。恐らく、ゴブリン共を裏で操っていたお方ってのはたぶん彼女だ。
「……良かったな2人共。ゴブリンシャーマンが死ぬ前に、この机においてあった悪魔の契約書に署名していたら、あんたら死んでたぜ?」
「なっ!?」
、
「な、なぜ!?」
「そりゃそうだろ。書いた本人が死んだらサインした奴も死ぬ。悪魔の契約書ってのはそういうもんだ。マリー様、こちら代わりのものになります。」
「ありがとう。確か、紙に触って念じるだけで契約内容を書くことができるのよね?」
「はい。仰る通りです。」
「…………」
「…………」
(はは!!……ざまあねえぜ!!アルバートに見せてやりたかったな!!奴らのあのしぼんだ情けない面を!!……ん?)
俺はふと視線を感じた。アルバートの死体がある所からだ。白いモヤがゆらゆら動いている。アルバートの魂だ。俺が着けているこの死神の仮面は幽霊とかそう言ったモノを見ることも出来るし、会話することもできる。
(……あいつ、まだ逝っていなかったのか。)
「よし。出来たわ。」
マリーは指をパチンっと鳴らした。するとロイと神父の腕を拘束していた縄がボタッと落ちた。
「さっさとサインして頂戴。書き終わったら、あなた達は地下の牢屋に行ってね。」
「な、なぜ?」
「くどい。さっさと書きなさい。」
「ひっ!?」
「ひぃぃ!!」
ロイと神父は悪魔の契約書にふるふる手を震えながらサインした。
「良かったら案内するぜ。牢屋まで。」
「……いえ。け、結構だ、です。」
「へ、へへ!!へへ!!」
「薄ら笑いすんじゃねえぞロイ!!!!」
「ひっ!?」
「フンッ!!……用がすんだら、とっととこの部屋から出て行け!!逃げられると思うなよ?てめえらは悪魔の契約書にサインしたんだ。彼女の奴隷になるとな。誓いを破ったその時は……どうなるかわかってるよな?」
「ヒィ!!??わ、わかった!!!!わかったよ!!!!今行く!!!!出ていくから!!!!や、やめてくれ!!!!暴力はもうやめてくれ!!!!」
「ヒイィィィィ!!!!」
ロイと神父は怯えた顔をしながら、そして転びながら脱兎の如く大広間から出て行った。
なんとも滑稽な光景だった。
まぁ、気持ちは理解できるよ。
痛かったろう?
辛かったろう?
苦しかったろう?
怖かったろう?
これで彼らは俺と平等になった。
「さて……」
俺は、片膝をついてマリーに頭を下げた。まだだ。まだ、危機は去ってはいない。
「まずは謝罪をさせて頂きます。知らなかったこととはいえ、あなた様には数々の無礼な物言いを……」
「……つまらない男ね、あなたは。」
「うっ!?」
なんて殺気だ。ゴブリン共以上……いや、さっき死んだ戦闘狂のケリー……それとも違う。ダメだ……今まで経験したことがない。
まいったなこりゃ。足が震えてやがる。
言葉を間違えたか。
「拍子抜けだわ。この国はもう私のモノ……つまり、あなたが今装備しているこの家の家宝も、もう私のモノ。全て返して頂戴ね。命は助けてあげる。素っ裸でこの国から出ていきなさい。わかった?」
「…………」
どうかしてる。
いつもの俺らしくないな。
この程度の逆境……武器商人になりたいと願ったその日から覚悟をしていた。
それを忘れてしまっていた。
俺は立ち上がり、死神の仮面を外してマリーに近づいた。そして、彼女の頬に優しく触れ、彼女にキスをした。
「……そうよ。それでいい。わかってるじゃないの。私にそんな気遣いは必要ないわ。次、同じことをしたら首を切り落としてやるわよ。」
「……申し訳ない。クズ共の相手ばっかしていたから少々ナマってしまった。だが、もう、大丈夫。感を少し取り戻した。」
相手が何を望んでいるのか……これを理解できて始めて武器商人としての一歩が踏み出せる。彼女のおかげでとても大切なことを思い出せたよ。
「ふふ、そう?そうなの。それは良かったわ。あなたとまたベッドで楽しみたいわね。でも、その前に……よくやったわ。この国を無傷で手に入れることができた。ありがとう。」
「いや……ゴブリン達と、俺を庇ってくれたアルバートのおかげだよ。」
「謙遜しなくていいわよフランク。ところで、ゴブリンシャーマンに何を望んだの?教えてくれるかしら?彼の代わりに私があなたに報酬を払いましょう。」
「エルフ銀貨5枚、ドワーフ金貨、帝国金貨それぞれ20枚だ。」
「わかったわ。じゃあ、今から取りに行きましょう。」
「ああ、その前にアルバートの埋葬をすませたいんだが……いいかな?」
「構わないわよ。手伝う?」
「いや、大丈夫だ。先にロイの部屋に行っててくれ。埋葬がすんだらすぐに行く。」
「わかったわ。先に行って待ってるわね。」
マリーが大広間から出て行くと、俺は死神の仮面を被り、魂となったアルバートに話しかけた。
「やぁ、アルバート。」
(……やぁ、フランク。見えるのか?)
「ああ、君のおかげで俺は助かった。だから……恩を返したいんだよ。あくまで俺が叶えられる範囲程度だけど……望みを言って欲しい。君が気持ち良くこの世から旅立つ為に協力させてくれ。」
(……ありがとう……勇者を……毒蛇の牙のリーダーを殺して欲しいんだ。いや、ただ、殺すだけでは満足できない。この世で生きていた事を後悔するほどに……残酷に冷酷に殺して欲しい!!!!)
「それはちょっと……いや、まてよ?」
断ろうとしたが、俺はあの時のことを突然思い出した。前世の俺がミカエルに殺された時のことをだ。ミカエルは俺に毒蛇の牙のリーダーになれと言っていた。
「……そのリーダーってのはどういう奴だ?名前は?男性?女性?体型は?見た目は?」
(名前はマッシュ……男だ。体型は普通で、金髪で見た目はハンサムで、爽やかな美男子……頼りがいがあるいい人……そう見えた。村が奴らに襲われる前まで……バカだよな、本当に。疑わなかった。あいつが来た瞬間に逃げていれば……)
「わかったよ。そのマッシュって野郎は任せろ!!苦しめて殺してやる!!」
(……ありがとうフランク。ところでさ……君は、ずっとフランクって言う名で活動をするつもりかい?)
「あ、ああ……そうだな……考えていなかった。ダメか?」
(うん。その格好で、フランクって名はあり得ないよ。もっと……魔族からも、人間からも、ドワーフからも、そしてエルフからも……舐められないような……そんな名を名乗るべきだ。その格好をしている時はね。)
「そ、そうか?……じゃあ、どんな名前がいいかな?」
(ヴィラン……と言うのはどうだろう?)
「ヴィラン?」
(ああ!!……どんな国、どんな世界であろうと……そこにいるのは敵だけだ。奴隷になって始めて気づいたよ。誰も救ってはくれない。だから、そう名乗るんだ。君はこの世界全ての敵となれ。心を許すな、決して油断するな、誰も信じるな、前に進む為に……ヴィランと名乗れ。)
「……君と一緒に冒険出来ないのは非常に残念だ。きっと良いコンビになれただろう。」
(フフ……さぁ!!!!名乗ってくれ。かっこ良くな!!!!それを見たらあの世に行くよ。)
「……わかった!!」
俺は二三歩後ろに下がると、ヨーロッパ式のお辞儀……ボウ・アンド・スクレープをし、こう名乗った。
「我が名はヴィラン!!!!以後、お見知りおきを。」
(……格好いい……満足、した……これで……心置き……良い……旅……な。)
アルバートの魂は天国へと旅立った。
「ああ……そちらも良い旅をな、アルバート。」
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