第16話 尊重


「ぎゃあああーー!!!!う、腕がぁぁぁ!!!!足がぁぁぁ!!!!」


太一の悲鳴がうるさくこの部屋を満たすなか、俺は3体のメタルゴーレムを叱った。


「ああ~~うるさい!!!!……手加減しろと言ったはずだ!!ここまでしろとは言ってないぞ!?」


「手加減しただろ?」


「ああ、ちゃんと生きてる。」


「俺達はあんたの指示に従った。それだけだろ?非難される覚えはないぜ!!!!」


「フンッ!!わかったわかったもういい!!お前らは地下牢にいる彼女をここへ連れてこい!!担架は隣の部屋にある、それを使え。くれぐれも失礼のないよう丁寧に丁重に運べよ!!それからお前だ!!お前は俺の部屋から斧を取って来るんだ。早く行け!!」


「チッ!!行けばいいんだろ行けば!!!!」


嫌そうな顔をしながらメタルゴーレム達はこの部屋から去って行った。


「全く!!……ストーンゴーレム共よ!!!!お前達は見張りだ!!!!通路の壁に張り付いてろ!!!!誰か来たら俺に直接報告するんだ!!!!……手を出すなよ?」


「なぜだ!?殺せばいいだろう!?殺らせろよ!!!!」


「だめだ!!!!俺の命令に従え!!!!」


「……わかったよ!!!!めんどくせえな!!!!」


こいつらストーンゴーレムも同様、悪態を隠すことなく嫌々俺の命令に従う。

それでいい……こいつらモンスターは俺に対して敬語は必要ない。



「……おや?静かになったね。」


太一の様子がおかしいぞ。

どれどれ……診察してあげよう。


「ふむ……出血多量により心拍数が上昇して痙攣が起きている……このままだと確実に死ぬな。」


俺は懐から薬箱を取り出す。

この程度の治療、モンスターの肉体を造り上げることより簡単だ。


「縫合終わり!!……血は止まったよ。ついでに薬も血管に投与したから痛みもないはずだ。」


「……はぁ……はぁ……!!!!」


「……お礼がまだだよ?」


「ひっ!?あ、ありがと……ます……」


「どういたしまして!!!!……それでね太一君。いくつか聞きたいことがあるんだけどいいだろうか?」


「ひ、ひぃ!!??……な、なんだよ!?なにが聞きたいんだよ!!??」


「まずは……なぜ君達はここへやって来た?それを詳しく知りたい。」


「く、詳しいことなんてわからないよ!!!!ただ、マッシュさんに行って欲しいと頼まれただけなんだ!!!!」


「嘘はよくないな。」


「ほんとだよ!!!!し、信じてよぉぉ!!!!」


「……フン。」


こいつは三流以下の外道……俺を騙すほどの技量はない。

さっさと殺して終わりにしたいが……まだ殺さない。こんなクズにも使い道はまだある。


「信じよう。では、つぎだ。……ステータスとはなんだ?」


「す、数値だよ!!僕の状態を数値化したモノだ!!力とか素早さとか……レベルが上がったら全ての数値が上がるし!!あ、新しいスキルとか強力な魔法が使えるようになるんだ!!」


「……そのレベルが上がる方法は?」


「ま、魔族を殺せばいい!!!!殺せば経験値が手に入る!!!!一定数貯まったらレベルが上がる!!!!」


「経験値とはなんだい?」


「な、なんだと聞かれても……魔族を殺した時に経験値メーターが増えるんだよ!!それしか言えない!!」


「…………」


「あ、RPGゲームやってればこの程度常識だろ!?これだからこの世界の住民共は低能だってんだ!!!!」


「……ははっ!!!!凄いな君!!!!そんな無様な姿でそんな戯れ言を吐けるとはたいしたもんだ!!!!……少しだけ見直したよ。」


「ぼ、僕をどうする気だ!?……殺すのか!!??」


「……ふむ、話を戻そう。魔族を殺すと経験値メーターが増え、一定数貯まったらレベルが上がり、全ての数値とやらが上がり、新たな魔法やスキルがもらえると……こんな感じかな?太一君。あってるかな?」


「う、うん……そうだよ。」


「……君のレベルはいくつ?」


「ひ、100……だよ!!」


「……と、言うことは俺のレベルは100以上ってことになるのかな?」


「そ、そんなわけないだろ!!??あんたは戦っていないじゃないか!!!!卑怯だよズルして!!!!人間として恥ずかしいと思わないのか!!??」


「クククッ!!!!君のような人間にそのようなことを言われるとは光栄の極みだね。では、改めて名乗ろうか!!!!」


俺は立ち上がり、くるりと華麗に回って太一にお辞儀をした。


「悪逆無道なんのその!!!!皆が右に行けば左に進み!!!!左に行けば右に進む!!!!正道は邪道!!!!邪道こそ正道!!!!それがこの俺……我が名はヴィラン!!!!君達の敵だ!!!!……よろしくね。」


「イカれてる!!お前は狂っている!!!!モブのくせに雑魚のくせにCPUのくせにぃぃ!!!!黙って殴られろよ!!!!黙って死ねよぉぉ!!!!……なんで……どうして!!!!僕は……こんな目に遭わないといけないんだ!!!!僕がなにしたってんだよ!!!!」


「…………」


いやだいやだ。外道の涙ほど醜いものはないね。こういう連中は立場が逆転するといつもこうだ……呆れるよホント。


「最後の質問だ太一君。毒蛇の牙について知りたい。まずはリーダー……マッシュの事を詳しく聞かせてくれ。」


「こ、答えたら、助けてくれるのか!?」


「……ああ、約束しよう。俺は手を出さない……さ、答えてくれ。どんな男だ?」


「……良い人だよ。かっこ良くて優しくて、ギルドや帝国について色々教えてくれたんだ。でも……」


「でも、なんだ?」


「前のダンジョンで魔族……オーク共と対峙した時にマッシュさんが言ったんだ。お前らは悪魔とダンスを踊ったことがあるかって……その時もその後も……すごく怖かった!!!!」


「……悪魔と……ダンス?」


待て……待てよ。

昔、前の世界でそんな事を言っていた部下がいたな。確か俺の右腕だった男だ。


「……幹部は2人いるのか?」


「う、うん!!いるよ……鉄拳のボビーさんと慈愛のレイラさん。」


「……鉄拳、慈愛……女のほうは美人で長く美しい金髪で車椅子を使っていたか?」


「う、うん!!」


「ボビーは屈強な男か?鼻はあるか?」


「い、いや!!……ない!!ないよ!!」


「……ボビー……レイラ……マッシュ……奴らが生きている?」


あり得ないことだ。

だが、あり得ないことはこの世界ではあり得ない。ということは……


「……生きているという前提で行動すべきだろうな。」


今やるべきことをちゃんとやろう。

まずは、魔族共から信用を得るのだ。

駒を手に入れなければ何も進みはしない。


「ハァ……世知辛い世の中だよねぇ~~太一君。なんでこんなにうまくないんだろうね。」


「……そ、それはお前が悪党だからだ!!!!よくも僕にこ、こんな!!!!こんな酷いことを!!!!ただじゃすまないぞ!!!!皆が……毒蛇の牙が黙っていない!!!!必ず報いを受けさせてやる!!!!」


「……へぇ~~、そういうこと言っちゃうんだ。じゃあ、君を始末するかな。」


「なっ!?なんだとっ!!??約束が違うじゃないか!!!!僕を生かしてくれるってのは嘘だったのか!!??」


「はははっ!!勿論嘘じゃないよ!!俺は手を出さない!!君の意見はちゃんと尊重するさ!!だから心配するな。」


「フゥ!!フゥ!!フゥ!!……ほ、本当に?」


「ああ……だが、俺はお前をもう対等の関係だとは思わない。」


「……へ?」


「お?ちょうど来たようだよ。」


「連れて来たぜ!!」


「横を向け。彼女から見やすいようにな。」


「わかった。」


「う!!……うぅ!!!!」


「ジーナ……立てるかい?」


「そいつは……お前がさっき!!??」


「殺したって?まさか!!あの落とし穴は捕獲用だよ!!下にある牢屋に繋がってるんだ。滑り台みたいで面白かっただろ?」


「いいえ……痛かったわ。」


「そうか……すまないジーナ。緊急時だったから……」


「気にしないで。お腹にはさほど響いてない。」


「……そうか。じゃあ……殺れるな?」


「……斧は?」


「それは……お!!持ってきたかメタルゴーレム。」


「ああ、壁に飾ってあったヤツを持ってきたぜ。」


「よし、それはこっちで預かる。お前ら3体はこの部屋の入り口の見張りだ。行け。」


「……わかったよ糞が!!」


メタルゴーレム達は部屋を去り、残ったのは俺と斧を持ったジーナと手足を吹き飛ばされ身動きがとれなくなった太一のみ。


「……アンナは本当に……良い妹だった。父と母が幼い頃死んでしまって……今までずっと2人で力をあわせて生きてきたの!!!!本当に……本当に大切な存在だった!!!!それを……お前が殺した、理不尽に!!!!」


「ま、待ってくれ!!!!ただからかっただけだよ!!!!教会に体持って行けば甦らせてくれる!!!!だ、代金は僕が持つから!!!!」


「……それは無理よ。ミカエルの羽を使わないと甦らない。あの女神は非情なの!!私らのような存在は絶対救わない!!」


「い、いや!!!!僕が頼めばきっと!!!!」


「使い捨ての道具の頼みなんざ誰も聞かないと思うがな。」


「ぼ、僕は使い捨ての道具じゃない!!!!」


「では、祈れミカエルに。特別な存在ならばこの場に現れてお前を救ってくれるはずさ。」


「そ、そんなの無理だよ!!!!助けてよヴィラン!!!!僕らは対等な関係だろ!!??」


「対等ではない。さっきちゃんと言っただろ?対等ではないと。お前の意見を尊重する人間はこの部屋には存在しない。」


「……そ、そんな……そんなの嫌だ!!!!死にたくない!!こんなところで死にたくない!!!!せめて、教会まで僕の体を持って行ってくれ!!!!頼むよ!!!!お願いだよ!!!!」


「フゥ~~フゥゥ!!!!……地獄に落ちろ異世界転生者!!!!」


こうして太一の首は跳ねられた。






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