第5話 所詮、この世は敵だらけ


俺は屋敷に到着するとすぐさま神父と一緒に大広間へと向かった。そして、神父を椅子に拘束する。


「ミカエル様……た、助けてくれ……助けてくれ!!」


なにか神父がぶつぶつ言っているようだが、俺はそれを無視した。ゴブリン共が来るまで酒肴を楽しむとしよう。


「ふむ……やはり子供舌だな……まずい。」


俺は、ワインが入ったグラスを静かにテーブルに置く。次は葉巻を試そう。


「どれ……スゥーーッ!!……ゲホッ!?ゲホゲホッ!!??……ああ、ダメだ。全くまずい!!!!まずいぞぉぉ!!!!」


そう言って俺は力一杯ワインの瓶を、次に葉巻を床に叩きつけた。


「ヒイィィィ!!??」


「フゥ~~!!……あ、ああ……すまないね神父。最近どうもストレスが溜まってて……つい感情的になってしまった。」


「許してくれ!!許してくれ!!」


「……怖がりすぎだろ、全く。」


まぁ、理解できなくもない。

顔を何度も殴られ体を椅子に拘束される。こいつにとってはじめての経験なのだろうよ。

屈辱を通り越して恐怖が、その体を、心を、魂を蝕む。


(昔を思い出すぜ。俺も殴られ蹴られ……銃口を頭に向けられて……こんな感じになった。)


「人の痛みってやつが理解できたかい神父?あんたから結構……暴力を奮われたよね、俺。」


「わ、悪かった!!許してくれ!!」


「いいや!!許さないよ!!魔族に喰われてしまえ!!」


「そんな……そんなぁ!!」


「ふふ……」


この後、悪魔の契約書にサインしてもらわないといけないからね。正気でいられると困る。


『ブオオオオオオオオオオ~~!!』


「ヒッ!!??」


「ん?この角笛の音は……ゴブリンの角笛の音だな!!」


そう言って俺は神父の肩をポンポンと軽く叩いた。


「今のうちにミカエル様に祈っておくといい。天国に行けるように、と。」


「だ、誰が祈るかぁぁ!!!!あんな女!!!!……あんな女……今まで尽くして来たのに!!!!この肝心な時に救ってくれないなんて……!!!!役立たずめえぇぇ!!!!」


「……そうだね。その通りだ。」


これも理解できる。

今まで信じてきたモノがいざとなった時、何の役にも立たない。

自分の武器(力)だと思ってしまったんだな。

俺も経験がある。


(神父が信仰なら俺は人への優しさだ。)


人に優しくしなさい、ってのが親の口癖だった。困った時には最大の武器になるってね。

助けられた人が自分を助けてくれる……たぶん、そんな感じだったかな。

結論から言うと、助けてはくれなかった。

親の敵を殺した後、俺は今まで親切にした人やしてくれた人に救いを求めた。


(誰も助けてはくれなかったな。誰も彼も俺を無視しやがった。唾を吐いたり、殴ってくる奴もいた。)


結局、役に立ったのは銃だったよ。奴らの金品を奪ってやった。逃亡資金としてね。

間違った行動だとは今でも思っていない。


「学んだな神父。所詮、この世は敵だらけ。味方はいない。」


「……う、うぅ!!!!くそ、ちくしょう!!!!」


その時だった。複数の足音が聞こえてくる。


「……さてと。」


俺は大広間の扉を開け、ゴブリンシャーマン達と拘束されたロイを部屋に入れた。


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