第4話 全ては復讐の為


ロイの屋敷から出て、さらに東に進むと漆黒の森という場所がある。

そこは、残虐非道なゴブリン達が巣くう森だ。いつだったか、熟練の冒険者が100人森に入って行ったが、誰一人として生きて帰っては来なかった。そういう曰く付きの森に俺は1人で入らなければならない。


「……入った瞬間からこれかよ。」


あっという間に囲まれた。100匹以上はいるな。


(凄まじい殺気だ。正直これほどとは思わなかった。)


だが、想定の範囲内だ。俺はすかさず悪魔のメダルを上に掲げた。


「あなた方と争う気はない!!俺はあなた方にとって、とても有益のある話を持ってきた!!損はさせない!!あなた方のリーダーと話がしたい!!」


殺気が消え、ゴブリン達はお互いを見合い、なにやらひそひそ話を始める。それからしばらくして、一匹のゴブリンが俺にこう言った。


「……ついてこい。ボスの所へ案内する。」


「感謝致します。」



まずは、駒が必要だ。

奴らをロイと聖教のババアにぶつける。

ナイスアイディアだと自分を誉めてやりたい。


(ゴブリン共は必ず懐柔出来る。生前、俺はゴブリンよりも狡猾な連中と武器の売買をしてきたんだ。俺の交渉スキルを舐めるなよ。)



~~それから10日後~~


交渉は成功だ。

簡単ではなかったがね。

漆黒の森のボス……ゴブリンシャーマンは2つ返事で俺と取り引きしたよ。

ゴブリンには色んな種類がいる。

下から順に、人間の子供サイズのゴブリン、狼に乗ったゴブリンライダー、人間の大人サイズのホブゴブリン、ホブゴブリンよりさらに大きくさらに強いゴブリンチャンピオン、そして、それらを統括する頭がよく魔法が使えるゴブリンシャーマン。そして、そのさらに上……


(ゴブリンの頂点……ゴブリンロード。そいつは魔王軍最大幹部……四魔将の1人らしい。出来れば会いたくはないな。ゴブリンは嫌いだ。あいつらは本当に性格が最悪だ。ゴブリンシャーマンとの取引は本当に厄介だった!!こんな状況でなかったら、あの忌々しいゴブリンの息の根を止めてやったものを!!……まぁいい。どうでもいい。我慢しよう。全ては復讐の為だ。)


「おい!!ロイの野郎が手下と一緒に屋敷を出たぜ!!」


「……そうですか。では、こちらも動きましょう。」


ロイは今、今日まで税金を納めていなかったあの村に向かっている。見せしめとして村人全員処刑する為に。そこをゴブリンが大軍で待ち構え、ロイだけ生きたまま捕らえる……そういう計画だ。俺が立案したんだ。


(村の連中には話を通してある。抵抗はしないはずだ。それにゴブリンの連中もこの国を無傷で手に入れたがっていたからな。村人達には手は出さないだろう。後は……この俺があのシスターを殺し、神父を捕らえればいいだけだ。)


「……さて、この辺かな。あなた方は後ろの茂みに隠れていて下さい。こちらが合図がするまでそこで待機……よろしいですね?」


「わかっている!!」


「……偉そうに!!」


(ふん!!図体がデカイだけの脳筋共め!!……まぁ、どうでもいい。全ては復讐の為だ。)


その時、誰かの足音が聞こえてくる。


(2人……よしよし。神父とシスターだな。奴らはいつもここを通る!!……素晴らしい!!何もかもこちらの計画通りに進んでいる!!)


「ん?誰ですかあなたは?」


「旅芸人か?そのような亡霊のような格好をして……不敬だぞ貴様!!我々を何と心得る!?恐れ多くもミカエル様の忠実な僕にして、神の御使いであるぞ!!」


「ブタが吠えても狼にはなれんぞ、神父。」


「その声……フランクか!?」


「お前は国外追放されたはず!!……ん?この殺気は……まさか!?」


そう言ってシスターは、腰に差してある剣を抜き、俺に向けて構えた。


「……ほう。気づいたか!!さすがだな!!」


俺は指をパチンッと鳴らす。それが合図だ。俺の後ろの茂みから2体のゴブリンチャンピオンが出てくる。


「ギヒヒヒ……!!!!」


「グゲゲゲ!!!!……年貢の納め時だな!!血だまりのケリー!!ぶっ殺してやる!!」


「ふんっ!!……ゴブリンチャンピオンが2体か。私も随分舐められたものだ!!」


「下がれケリー!!!!私の水魔法で浄化してくれる!!!!まずは……貴様だフランク!!!!ウォーターボール!!!!」


高速で放たれるいくつものサッカーボールくらいの大きさの水玉。俺が視認できたのはそれだけだった。だが、全く問題はない。なぜなら、ウォーターボールとかいう水魔法は俺の体に到達する直前に弾かれ、消えてしまった。


「なっ!!??」


「バカなっ!!??」


「ふふふ!!!!……どうだ!!!!……どうだどうだ!!!!俺の力は!!!!貴様らの魔法など塵に等しい!!!!」


ちなみに俺の力ではない。この服……死神のローブのおかげさ。この死神のローブは光魔法、斬撃、打撃以外の攻撃魔法を全て防ぐことができる。


「ぬぐぅ!?一体どこでそのような力を!?」


「答える義理はないよ。さぁ!!神父よ……無駄な抵抗などせず潔く降伏するんだ。今降伏すれば顔面一発殴るだけで許してやるぞ?」


「降伏しろ、だと?……ミカエル様に愛されぬ分際で……スキル0魔力0の無能力者の分際で……雑魚の分際で!!!!……わしに降伏しろだと!!!!ふざけおって!!!!粛清だ!!!!八つ裂きにして苦しめて殺してやるぞ!!」


「ふんっ!!やってみるがいい!!」


「神父様。お下がり下さい。あの邪悪なる者は私が斬ります!!」


「うむ!!援護は任せよ!!」


「我が名はケリー。……血だまりのケリーだ!!第二次聖魔大戦の精鋭の中の精鋭部隊の生き残りだ!!私が通る道には魔族の血だまりができる。故に血だまりのケリーという異名が生まれた。私は勇者に匹敵する存在……貴様のような邪悪な者などに負けたりはしない!!たりゃああああああ!!」


奇声を上げるとシスターは突然消えた。そう錯覚するほどにあのババアは速いということだ。だからこそ、俺の前にある落とし穴が効果的なのだよ。


「うっ!?うあああ!!??」


「シ、シスター!!??」


「クククッ……俺目掛けて真っ直ぐ来ると思っていたよ!!」


「ぐっ!?あ……ああああ!!!!」


落とし穴の中にはナイフで枝を削った刺々しい切り株をいくつも入れてある。


「死ななかったか。まぁ、いい。結構深く掘ったからな。そんなに沢山枝が身体に刺さっていてはここまで這い上がれまい。それにそんな暇は与えないよ。……それはなぜか言わなくてもわかるよな?」


「あ、あああ!!??」


「グケケッ!!ご苦労!!……あとは俺達がやる!!」


「楽に死ねると思うなよ!!!!ゲヒャゲヒャ!!!!」


「や、やめろ……!!!!や、やめて……!!!!」


「ギヒヒヒ!!!!」


「ゆっくりだ……ゆっくり殺してやる!!」


「……お任せ致します。では……!!!!」



俺はゴブリンチャンピオン達に軽くお辞儀をするとすぐさま走りだし落とし穴を飛び越え、神父の懐に入る。


「うわっ!?」


「やあ、神父!!俺も結構速いだろ?」


俺は笑いながらそう言って神父の顔面を殴った。


「ぐはっ!!??」


転がる神父の胸ぐらを掴み、何度も何度も殴った。


「ギャッ!?ヒ、ヒイィィ!!??止めてくれ!!!!止めてくれ!!!!」


「お断りする。」


俺はこいつに容赦はしない。絶対に。絶対にだ。この死神の仮面のおかげでわかった。死者が教えてくれたのだ。この神父は、快楽の為に何の罪もない少年少女を誘拐しては絞め殺している。そして、あのシスターも。

悪党の風上にもおけん奴らだ。存在が害悪でしかない。生きる価値がない。しかし……


「さぁ……屋敷に行こうか神父。お前はこれからお前の全てを絞り出され、骨の髄までしゃぶられるんだ。魔族共にな。」


「ヒ、ヒィィ!!い、イヤだ!!イヤだぁぁ!!」


「助けて欲しいか?なら、ミカエルに祈るといい。きっと救ってくれるはずさ。」


俺は神父を縛り上げ、茂みに隠していた馬の後ろに乗せた。

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