第3話 邪悪なる遺産


俺は母さんを見晴らしのよい丘に埋葬した。


「温かいだろ母さん。光を一杯浴びるんだよ。」


あの屋敷の中はかび臭かったし、あの部屋には窓がない牢屋みたいな部屋だった。ここなら完璧だ。安心して安らかに眠れる。


「あなたは俺の母さんじゃない。だが、ありがとう。あなたのおかげでここまで成長できた。」


「フランク。」


「……ん?……マ、マリアンヌ!!??」


後ろを振り替えるとそこにマリアンヌが立っていた。


(相変わらず、気配が読めないなこの娘は。)


マリアンヌ……彼女は俺が4歳くらいにこの国にやってきた。メイドにしておくには勿体ないほどの気品さと上品さがある。だが、俺の血を吸うのが大好きな変態だ。

まぁ、美女に体を舐め回されるのは悪い気はしない。


「お悔やみを申し上げるわ、フランク。とても甘い匂いがする美しい女性だった。」


「ありがとう、マリアンヌ。」


(そうだ。彼女に別れを言わないと。このユートピアという世界をもっと知り、力を蓄えねば。その為に俺はこの国から出ていく。俺の復讐の為に!!)


「……マリアンヌ。急な話なんだが、実は、明日この国から出ていこうと思ってるんだ。」


「ダメよ。あなたはまだこの国でやるべきことがある。ケジメはちゃんとつけないとね。」


「え?……それはどういう……」


その時、複数人の足音が聞こえてくる。その足音の一つに聞き覚えがあった。ロイだ。


「なんだよ……久々に腹ぁ蹴飛ばしてひぃひぃ言わせて楽しみたかったのによ~~!!最後までとことん使えねえ女だぜ!!」


「な、なぜ……ここが……」


(今はまずい!!こいつに会うのはまずい!!)


そう思った時だった。ロイの後ろから背中に大剣を抱えた俺と同じくらいの少年が現れた。少年の目には生気がなかった。


「その子は?」


「ああ……こいつか?こいつの名前はアルバートだ。毒蛇の牙が経営している奴隷市場で買ったんだ。お前の代わりだよ。こいつは魔法が使えるし、剣の腕も立つ!!性処理もできるらしいから夜が楽しみだぜぇ。」


「んっ!……ダメですよ父上。そんな所を触っては。」


「……そうですか。それはちょうど良かった。実は、明日この国を出ようと思っていたのです。」


「今日だ!!!!今日出ていけ!!!!」


「なっ!!??」


それはまずい。

それは非常に困る。

まだ、遺産を回収していない。


「に、荷物をまとめさせて下さい!!!!お願いします!!!!」


俺は深々と頭を下げた。


「ダメだ。君は無一文でこの国から去るんだ。」


「アルバートの言う通りだ。お前にくれてやるモノはねえ。その着ている服だけはくれてる。慈悲深い俺に感謝しろ。」


「そ、そんな!!??」


(くそっ!!一体どうすれば!!)


「侯爵様、1日だけ猶予を坊っちゃんにお与え頂きませんか?お願い致します。」


マリアンヌも深々と頭を下げてくれた。


「マリアンヌ……お前には感謝していたぜ。本当だ。特にお前との日々の夜の営みは俺の心をいつも満たしてくれていた。だがな……もう、飽きちまったんだよ、女に。」


そう言ってロイは指をパチンッと鳴らした。

すると、マリアンヌの首が宙を舞った。


「……え?」


「あはは!!!!……どうだい?僕の剣さばきは!!見えなかったろ!!」


「……殺すことはなかった。」


「まだまだぁ!!!!次はファイアーボルト!!!!」


アルバートは今度は母さんの墓を火炎魔法で破壊した。その威力たるやなんと凄い。


(大地が抉れてやがる。ミサイル並みだな。マリアンヌの遺体も彼女の墓も一瞬で消えた。)


「どうだいフランク?これが……ミカエル様に愛されし者の力さ!!!!」


「……あ、ああぁぁーー!!!!母さーーん!!!!マリアンヌゥゥ!!!!」


俺はその場で膝から崩れ落ちた。そして、なるべく言葉に感情を込めて叫んだ。

これで、奴らは満足するはずだ。


「あははは!!!!見て見て父上!!!!なんて醜い姿だ!!!!」


「ふんっ!!どこまでも見苦しいガキだぜ!!」


そう言って、ロイは俺の腹を蹴った。


「ぐふっ!!??」


そして、俺の胸ぐらを掴んでこう言い放った。


「お前はミカエル様に愛されなかった何の価値もないウジ虫だ。断言してやる!!神に愛されないお前はこの先一生誰にも愛されない!!何も得られない!!お前なんぞ殺す価値もない!!剣が汚れる!!!!醜く卑しく生きて行け!!!!」


そして、奴は手を放した。

解放された俺は、うわあーっと叫びながらその場からがむしゃらに走り去った。


「……はぁ~!!……ふぅ~!!」


息を整える。どれくらい走っただろうか。俺は辺りを見回す。


「向こうに見えるのは村?……確かあの村は税を納めていないとロイが激怒していたな。」


使えるな……あの村。待ち伏せにもってこいじゃないか。村人共を焚きつけてロイ達を襲わせるか。


「いや、それはやめておこう。精鋭軍人と村人じゃ話にならない。訓練する時間もない。とりあえず、まずは遺産の回収だ。」


俺は屋敷に戻った。人目につかない場所は把握している。何年も住んでいたからな。


「よし、誰もいない。しかし、匂うなここは。」


何年も使われていない便所施設だ。匂うのは当然か。しかし、隠れるには打ってつけだ。ここなら誰も入らない。

そして、俺は夜になるまでそこに隠れた。


『……ホウ……ホウ……』


「フクロウの鳴き声……動くか!!」


俺は辺りを警戒しながら静かに屋敷へと入る。確かここから右に行って左に行ってそこから真っ直ぐ行けば地下室の階段があるはずだ。何人か番兵がうろうろしていたが、それらは簡単にすり抜け、階段に到着。そのまま地下へと向かった。


「この部屋だな。」


俺は鍵を鍵穴に差し込んで静かに回し、静かに扉を開け中へと入ると、持っていた蝋燭に火をつける。


「大きな箱が一つしかない。これか?この箱か?」


俺は罠がないか確認した。


「うん、なさそうだ。だが、油断はできない。こういった箱には罠は付き物だからな。慎重に開けよう。」


ゆっくり箱を開けると、入っていたのはフード付きの黒いローブと……あとドクロの仮面?


「ああ……思い出した。彼女が言っていたな。これは死神のローブと死神の仮面だ 。」


死神のローブ

炎水土闇の攻撃魔法を全て防ぐことができるが、光魔法、物理攻撃は防ぐことはできない。冥界に行くには必須品らしい。


死神の仮面。

幽霊や悪霊この世ならざぬモノ達を見ることができ会話することができる。


「……ないよりマシ、か。着替えよう。」


俺は死神のローブを着た。次に死神の仮面を顔に装着する。


「鏡がないのが残念だ。あとは……」


魔法使いが使うような杖、それと銀色に輝く悪魔を型どったメダル。


「冥界の杖、冥界と行来することができる杖らしいが……使い方はエキドナにしかわからない。」


事が終わったら、エキドナに教えを乞うか。


「フフ……このメダルだ。このメダルが欲しかった!!」


悪魔のメダル。

ありとあらゆる知恵ある魔族と交渉することができる。


「魔王軍に所属している魔族のみという限定付きだが、問題ない!!今の俺にとってこいつは最大の武器になる!!……あとは一枚の白紙の契約書があったはずだ。」


俺は箱の中を念入りに調べる。だが、何もなかった。


「どういうことだ?あると言っていたのに……まさか、ここにはない!?いや、そんなはずは。……思い出せ。生前、彼女はなんと言っていたか……」


『あの紙は燃やして欲しい。でも、それでもどうしても必要だというのなら、箱の中の上を探しなさい。』


「箱の中の上……ああ、ここか成る程。」


板を被せていたのか。巧妙に隠しているな。

それ程までに危険な代物、ということか。


「……これが悪魔の契約書。」


悪魔の契約書(白紙)

悪魔の背中の皮膚を剥がして作られた契約書。

これに署名し血判した者は、紙に書かれた契約内容を忠実に絶対に守らなければならない。

一枚破るごとに枚数を増やすことができる。水に着けても文字が消えることはない。しかし、燃やすと完全に消滅する。


「守らなければ死あるのみ、か。俺にぴったりな代物じゃねえか!!」


俺はすぐさま屋敷から脱出し、闇の中へと消えた。さぁ、ロイ。ここからは俺のターンだぞ。

俺の踏み台になってくれ。

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