第12話 モンスターの作り方(前編)
エキドナは俺の目の前にある壁のろうそく立てをクイッと下に動かした。すると扉が現れ開いた。
「おお!!」
こういう細工は大好きだ。
懐かしいなぁ……武器商人だった頃……こういう隠し扉とか隠し部屋がある物件を買いまくっていたよ。
「こんなんでなに感心してんだい?さっさと入んな!!」
「あ、ああ!!すまない!!」
隠し部屋に入ると、そこはかなり広い空間で様々な機械と薬品が置いてあり、その中心には釣瓶がない古びた井戸があった。
「……もう何百年前になるかね。あるドワーフの貴族の一団がこの滅び山にやって来た。そいつらは私にドラゴンを作ってくれと取り引きを持ちかけて来たんだよ。」
懐かしげにエキドナは赤い液体が入った瓶に触れる。
「大変だったのかい?」
「そりゃそうだよ!!そもそもドラゴンって何だ!?見たことも聞いたこともない!!……そう言ったら奴らはここにある全ての機械と薬品をくれたんだ。そのあとに私に絵本の挿し絵を見せてこう言った。こいつだ!!この絵の通りに最強最悪の化け物を作れってね!!……こちら側が受けとる報酬が良かったので言われた通りにここにある機械でドラゴンを作ったよ。でも……ある問題が発生したんだ。」
「問題?」
「魂だよ。ドラゴンに合う魂が作れなかったんだ。生きとし生きるもの全て肉体にあった魂がなければ動かないからね。」
「……あの哀れな浮遊霊達を使ったのか?」
「そうだ。色々試したが……」
「ダメだったのか。」
「ああ……屈辱だったよ!!!!私は交わした契約は絶対破らなかった!!!!昔の私はね……魔族だけではなくありとあらゆる種族と取り引きできた!!なぜだと思う!?約束を……契約を破らなかったからさ!!!!……契約を守らない悪魔など存在価値などない!!!!」
そう言ってエキドナは隣にあった機械の上をドンッと両手で叩きつけた。
「興奮するなよエキドナ!!体に悪い!!」
「ふぅふぅ!!!!……でも私は魂の研究を続けたよ。手下達から……魔王様から見限られてもね!!私は四魔将の席を失ってしまった。早く地位を取り戻さねば……この土地を……滅び山を奴らに奪われてしまう!!それは絶対に阻止しなくてはならない!!……協力してもらうよヴィラン。これは私だけの問題じゃない。あんたの問題でもあるんだからね……私を裏切るな。」
「勿論!!わかってるさ。」
「よし……では始めよう。まず魂の作り方からだ。そこに井戸があるだろう?上に蓋がしてあるのがわかるかい?アレを取っといてくれ。私は釣瓶を探すから。」
「わかった。」
エキドナは俺に背を向けて大きな棚がある方へ俺は井戸の方へ向かった。
「……ん?なんだ?」
あの井戸に近づけば近づくほど寒気を感じる。
「……ふむ。気のせいかな?」
で、一方のエキドナはというとガサガサと棚にある壺やら箱やらの中を覗くと乱暴に地面に放り投げていた。
「う~ん……確かこの棚の4段目に……いや、5段目だったかな?数百年前に置いたはずなんだけどねぇ。」
「エキドナァ!!そっち手伝わなくて大丈夫?」
「大丈夫だよ!!さっさと蓋とっておくれ!!今、持ってくから!!」
「……大丈夫ね。それはいいんだけど……」
井戸の上に乗ってるこの蓋……重そうな石だ。この子供の体でどこまで動かせられるかな。
「フンッ!!ググッ!!!!」
(動いた!!!!……なんとかなりそうだ!!)
俺は井戸の蓋になってた平たい石を地面に落とした。その瞬間、井戸の中から凄まじい腐敗臭が俺の辺りを漂い始める。
「うぐっ!?……エ、エキドナ!!!!この井戸の中に何を入れたんだ!!??すごく臭うぞ!!!!」
「ああ、それはね……おお!!あったあった!!これだ!!」
エキドナは真っ白な釣瓶を抱えながら俺の方へとやって来た。
「持ってみな。」
「うん……軽いな。」
「天使の頭蓋骨を削って作ったヤツだからね。そりゃ軽いさ。」
「…………」
考えるな。ただそういうもんだって知ればそれで良い。そしてこれからすることもなんとなくわかった。
「じゃあ、釣瓶を紐で括るね。それを井戸に放り込む!!流れはそれで良いかな?」
「ああ、その通りだ。」
俺は紐で括った釣瓶を井戸に落とした。紐がピンっと伸びた瞬間、背筋がゾワッとした。なんなんだろうか……さっきから俺の体がおかしい。とにかく俺はもう良いだろうと思い釣瓶の紐を引っ張る。すると釣瓶の中は真っ黒な液体で満たされていた。
「飲むんだ。」
「なに!?これをか!?これはなんだ!!??」
「悪霊だよ。」
「あ、あくりょう?」
「そうだ。悪意の塊、生を憎む者、邪悪なる化身、この世にいてはならない存在……それがその中に入っている。最初はソレを自身の魂と混ぜ合わせなければならない。だから、飲め。」
「う、うう!!……わかったよ。」
耐えろ耐えるのだ。
俺はゾウの糞で水分補給したことがあるし、汚い男のアレも飲んだことがある。
アレってのは男の下の世話をした時に出てくるヤツのことで……ちくしょう思い出しちまったじゃないか。
我慢するんだ。
もう後には退けないんだ。
あの女を殺す為に。ミカエルを殺す為に。
(止まらないぞ……俺は……進む!!!!)
俺は覚悟を決め黒い液体を鼻を摘まんで一気飲みした。
「……ん?」
不思議な感覚だった。匂いはなくドロッとした黒い液体がスッと俺の中に入って行ったのだ。
飲むという感じではなく、エアスプレーの空気を吸う感じだろうか。
「体に異常はあるかい?」
「いや、ないかな?」
「よし!!次はこれだ。」
エキドナは手首につけていた髑髏がついたダサいブレスレットを俺に渡した。
「……なんだこれ……」
「そいつは女神の剣だ。剣になれと念じれば剣になる。そしてここからが本番だ。お前はこれから冥界に入る。冥界に入ったら、しばらく待て。体の中から悪霊の悲鳴が聞こえてくるはずだ。そうしたら、その女神の剣を自分の胸に刺せ。そうすれば自分の魂が出てくる。その魂を女神の剣で切り分けるんだ。切り分けたらこの世界に戻ってきな。」
「冥界の行き方は?」
「冥界の杖で地面を5回叩きな。そうすれば行ける。戻るときも地面を5回叩くんだ。」
「ああ……わかった。行ってくる。」
俺は冥界の杖で床を5回叩いた。
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