第1話 そして、転生する。

「さぁ……目覚めな……人間。」


(……ん……んぅん……真っ暗で何も見えない。ここはどこだ?あんたは誰だ?)


「ここは滅び山だよ。私の名はエキドナ。この山の主だ。」


(ほ、滅び山?……じゃあ、あの女が言っていたあの世界!?……こ、ここはユートピアとかいう世界なのか!?)


「うん、そうだよ。やっぱりあんた、この世界の住人じゃないね。どの世界からやって来たんだい?」


(ちくしょう……ちくしょうぅぅ!!!!……俺は殺されたんだあの女に!!!!あの!!!!忌々しい女神!!!!……ミカエルにぃぃ!!!!絶対許さないぞ!!!!殺してやる!!!!)


「ミカエル?ミカエルだって!?……って、ことはだ。あんた……あの忌々しい勇者共の世界の住人かい。成る程……驚いたねぇ。興味本位で聞くんだが、なぜ殺されたんだい?」


(……お、俺は武器商人なんだ!!客に武器を売るのが武器商人の仕事なんだよ!!武器商人が魔王とやらを倒してこの世界を救うなんてお門違いもいいとこだろ!?だから……勇者とやらになるのを断ったんだ。そして、そのかわりに優秀な傭兵部隊を紹介してやるって言ったんだよ。そしたら……胸を刺された。)


「……そうかい。可哀想にね。辛かっただろう。同情するよ。」


(……ありがとう。その言葉だけでほんの少しだけ救われたよ。)


「フフッ……だから……あんたにチャンスをやろう。」


(チャンス?)


「そう……チャンスさ。あんたを甦らせてやる。」


(よ、甦らせる?何を言っているんだ。現に俺はこうしてあなたと意志疎通出来てる。治療してくれたんだろ?)


「ふむ。まだ自分がどういった状態かわかっていないようだね。仕方ない。今見えるようにしてやる。」


(ひ、光をくれるのか?ありがたい!!ちょっと怖かったんだよ。……暗くて。)


「もう少し待ちな。……よし。これでどうだい?」


(……何も見えないな。いや、だんだん見えてきた!!……ん?……ば……ばば、化け物だ!!!!化け物が俺の目の前にいる!!!!助けてくれエキドナ!!!!)


「大丈夫大丈夫。心配いらないよ。私さ。エキドナだよ。さっきまでずっっっとあんたに話しかけてた本人さね。」


(そ……そうなのか?すまない!!その……化け物と言ってしまって……)


「構わないさ。事実だからね。さて……私が今持っている手鏡が見えるかい?」


(あ、ああ。)


「それで、あんたを映してやる……ほれ。どうだい?自分が見えるかい?」


(……見えない……見えない?……俺の体がみ、見えない!!??ど、どうなってんだこれは!!??)


「あははは!!そうそう……その通り!!見えない!!見えるわけがない!!今のあんたはこの世界に否定されている!!つまり!!!!この世のモノではない存在なんだよあんたは!!!!」


(そ、そんな!?じゃあ、俺は……今、幽霊なのか!?じ、じゃあ……お、俺の体は!?)


「あんたが目覚めるまでは少しあったんだけどね。今はもうないよ。私がミンチにしてこのフラスコに入れちまったから。」


(なっ!!??そ、そんな……どうしてそんな!!!!お、俺の、俺の体なんだぞ!!??この世にたった一つしかない俺の体を……あ、あんたはソレをミンチにしてそのフラスコに入れたってえのか!!??)


「しょうがないだろ。あんたの肉体のほとんどが下級悪魔共に喰われちまっててさ。私があんたを発見したときには腕一本とあんたの魂しか残ってなかったんだよ。腕一本程度じゃあ、甦らせることはできない。だからね!!あんたの腕をミンチにしてフラスコに入れたんだよ。フフッ!!私はなんて天才なんだ!!発想力が違う!!」


(ごめん。なに一つ理解できない。)


「フフッ!!理解する必要はない。ただ知れば良い!!!!……さて、お前を甦らせる方法だが、まず最初にこの死んだ赤ん坊の体をだね。あんたの腕一本をミンチにして入れたフラスコに入れる。」


(なんだそれ!!??そんなもの入れてどうしようってんだ!!??)


「大丈夫大丈夫。全て私に任せときな。……この赤ん坊をよく馴染ませてっと!!さて、準備は整った。あとは……」


(う、動いている!!??な、なんだこれは!!??グルグル回って気持ち悪い!!??)


「さぁ!!!!復活の時だよぉぉーーー!!!!魂を引き締めなぁぁぁーーー!!!!」


(う、うわあああーーー!!??)


「……おんぎゃあ!!おんぎゃあ!!」


こうして俺は蘇った。いや、転生した。


「ヒヒヒヒ……随分時間がかかったね!!でも、成功だ!!よく頑張った!!」


「おんぎゃあ~~!!!!……ムニャ。」


「おっと。疲れているとこ悪いけど、まだ眠っちゃダメだよ。今から重要なことを話す。よくお聞き。」


「……バブ……」


(……だめだ……眠い。)


「いまから、あんた……転移魔法……送る……が……そこは……酷い……所……」


「スゥ……バブ……スゥ……バブ……」


「母親……地下室の鍵……貰う……だ……わかったね?」


(……勘弁してくれ……起きた後で話をちゃんと聞くから……おやすみ。)


今日は色々ありすぎた。とにかく眠りたい。惰眠を貪りたい。頭を整理したかった。これから俺はどうなってしまうのだろう。


(いや……これはそもそも夢じゃないか?目覚めたら全て元通りに……)


そうだ。そうに決まっている。これは夢だ。

起きたら何をしようか。

まずは葉巻を吸いながらワインを飲む。その後は恋人のキャリーに会いに行こう。高級レストランを予約して……いや、買い物が先だ。車でも買ってやろう。そして、食事をして、それから……朝まで彼女と過ごす。完璧だ。


「やったわ!!!!成功よ!!!!」


それは、いきなりだった。いきなり女性の大声が聞こえた。エキドナの声ではない。俺はびっくりした。


「おんぎゃあ~!!おんぎゃあ~!!」


悲しくて泣いているわけではない。これは生理現象だと思う。ふとしたことで泣いてしまうのだ。


(これは夢じゃない。現実だ。)


俺は今赤ん坊で、頬が痩せこけた女性に抱き抱えられている。


「……よしよし。本当に本当に良かった!!お医者様から死産と言われて気が狂いそうになったけど!!……エキドナ様にお祈りして良かったわ。」


そう言って俺の頭を優しく撫でてくれる女性。


(彼女は……俺の……いや、この体の産みの親か。そうか。そうなのか。そういうことか。すまないね。御愁傷様だ。俺はあんたの息子じゃないよ。しかし……気持ちいいなぁこれ。)


いけない。また眠る所だった。

今の状況を知る為に辺りを出来るだけ見回す。


(ここはどうやら寝室のようだ。、高級そうな机、椅子、柔らかそうなベッド、じゅうたん。こういう部屋、俺も持ってたな。そして、彼女の服装はっと。高そうなドレス、そして香水……うん、俺の経験から導き出した答えは彼女は貴族で、ここは屋敷かお城だ。)


そう考えていると、カツンカツンと足音が聞こえてきた。足音でそいつの性格がわかる。かなりの乱暴者、もしくは性格最悪のサイコパスだなこれは。その考えは大当たり。見るからにいかにも悪そうな髭面の大男が乱暴に扉を開けづかづかと入ってきた。


「こいつが俺の息子か?……似てねえな。大方、別の男と寝て作ったんじゃねえのかこいつを。ああ?」


そう言って男は彼女を睨み付けた。


「め、滅相もございません!!私はあなた様をいつも愛しております!!」


「ふんっ!!どうだかな。着いてこい!!これから教会に行く!!」


「は、はい!!わかりました。」


「………バブゥ。」


馬車に揺られてどれくらい経っただろうか。時間の感覚がまだ掴めない。結構距離があると思うが、とにかく教会に到着した。そこに入ると銅像が立っていた。俺を殺したあの女神そっくりの銅像だった。


(これはなんだ?……何の冗談だ!!ふざけるな!!)


「神父様。」


そう言って大男は彼女と一緒に跪いた。


「待っていたぞロイ。早速始めよう。その赤ん坊をこちらに。」


「は、はい!!」


「では……これより鑑定を執り行う。」


そう言って神父は俺の手を水晶に触らせた。すると神父は神妙な顔つきでこう言った。


「魔力0と出た。これは珍しい。しかも何もスキルがない。」


「はあぁぁぁ!!??魔力0!!??しかも、スキルがないだと!!??こんのアバズレェェ!!!!やはり、他の男と寝てやがったな!!!!」


「そ、そんなことは決して!!!!決してございません!!!!どうかお許し下さい!!!!」


「じゃあ、なんで魔力もスキルもなにもないガキが生まれんだぁ!?ああん!?」


「申し訳ございません!!申し訳ございません!!」


「痴話喧嘩は他所でやれ、ロイ。こういうこともある。全てはミカエル様のお心のままに。」


「は、はい。ミカエル様の……お心のままに。」


「ああ、それとまた教会の修繕費をお願いしたいのだが、頼めるかね?」


「は、はい!!それはもう!!ぜひ、払わせて下さい!!」


「ありがとう。お前達にミカエル様のご加護がありますように。」


まだ何もわからない状況だが、わかったこともある。

ミカエルが信仰されているということ。ミカエル教とでも言うか。

そして、ミカエル教の中で不正が横行している。俺の第六感と経験則がそう言っているのだからまず間違いない。何かに利用できるはずだ。


(ああ……早く君に会いたいよミカエル。待っていてくれ。)

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