我が名はヴィラン

@wsdf

プロローグ


俺はとある国のスラムで生まれた。

貧乏だったが両親は善人だったので心が荒むことはなかった。

貧しくとも平穏で幸せな生活……それはずっと続くと思っていた。

しかし……俺が15の誕生日の日に事件が起きた。強盗が押し入り、父さんと母さんを銃で殺したのだ。

泣いたよ……泣きまくった。葬式を出す金もなかったから空き地で2人を火葬した。

手伝ってくれる人も参列してくれる人もいなかった。

なぜなら、みんな犯人を知っていて報復を恐れていたからだ。


「へへっ!! おい、クソガキィ……こんなところでゴミを燃やすなよ。近所迷惑だろうが!!」


ニヤニヤしながらその犯人はやって来た。そいつは警察も手を出せない札付きのワルで俺が住んでいた地区を支配していた地主の息子だった。来ることはわかっていた。多分、俺の泣きじゃくっている様子を見に来たのだろう。そういう男だ。俺を玩具としてしか見ていなかった。本当に本当に嫌な野郎だった。


「ゴ、ゴミじゃありません!!……俺の……父さんと母さん……なんで、す!!」


「ふ~~ん。そっか。そうなのか。そりゃ可哀想な事を言っちまったな。ゴミと言って悪かった。じゃあ、ついでにコイツも燃やすと良い!!」


笑みを浮かべながらそう言うと奴は俺の足元に向かって靴を投げる。その靴は有名なブランドで人気が高い靴だった。そして、俺が父さんに頼んで誕生日に買ってもらったモノだった。


「これ……は……?」


「ゴミ共が死んだ原因だよ。ゴミの分際でこんなモノを買うなんざ10000年早いんだよ!!バーーーカ!!!!ギャハハハ!!!!」


その言葉を聞いた瞬間、俺はポケットから銃を取り出し、奴に銃口を向けて引き金を引いた。そして、弾は奴の肩を貫通した。


「ギャヒっ!?な、なんでお前みたいなゴミが銃を!!??」


「ここはスラムですよ坊っちゃん。銃なんて簡単に手に入るんです。さようなら。」


俺は銃の弾が空になるまで撃ち続け、奴は永遠に動かなくなった。そして……


「は、はは!!……凄い……なんて……なんて凄いんだぁぁ!!!!最高だぁぁ!!!!最高だぁぁーー!!!!はぁーーはははは!!!!」


俺の心は歓喜に満ち溢れた。

今までの悲しみが嘘のように晴れやかになった。はじめての経験だった。

平凡で底辺の弱者のこの俺が、誰もが付き従い誰も逆らえなかったあの恐ろしい男を俺の手で殺したんだ。俺が持っているこの銃で。

もう、武器なしでは俺は生きられない。銃の頼もしさを知ってしまったからだ。

よし、決めたぞ。

武器商人になろう。

こうして、俺は裏の世界へと足を踏み入れた。

駆け上がって……駆け上がって早39年。

俺は武器商人として成り上がった。俺は大金持ちだ。高級な酒、食事、葉巻、美しい女達……望めば何でも手に入る。

完璧だ。素晴らしい。生きていて良かった。俺の人生は薔薇色だ。父さん、母さん、ありがとう。俺を生んでくれて。


「よーーし!!今日も1日がんばるぞ!!」


俺はいつも1人で全ての武器を点検する。当たり前の事だ。なんでもかんでも人任せというのは良くないからな。結構武器があるから、恐らく3日は掛かるだろう。ま、それは仕方ない。この程度の重労働、どうってことはない。そして、俺は武器庫の扉を開けた。するとそこはなんと異空間だった。天井は満面の星空、床は雲。


「おいおい……どうなってんだこりゃ。」


俺は一歩前へ歩み出る。それがいけなかった。後ろを振り向くと扉がなかったのだ。


「なっ!?し、しまった……俺としたことが!!」


スマホは圏外。これでは部下を呼び出すこともできない。なんたる迂闊だ。あまりにもこの空間が幻想的で美しかったから……何も考えていなかった。思考が止まってしまっていた。


「俺の武器はどこだ……ちくしょう!!」


我に返り周辺を見回すが、武器はどこにも見当たらなかった。


「俺の商売道具、俺の財産、俺の命、俺の……俺の……俺の分身!!!!」


そう呟いた瞬間、眩い光と共に背中に美しい白い翼を生やした美女が目の前に現れた。第一印象は良かった。しかし、すぐに俺の第六感は危険信号を出した。早く逃げ出せ、殺されるぞと。


「はじめまして勇者よ。私の名は女神ミカエル。あなたにぜひお願いしたいことがあり参上致しました。魔王が我々の世界……ユートピアを支配すべく軍団を放ったのです。連合軍が必死になって抵抗していますが……最早、風前の灯。いつまで持ちこたえられるかわかりません。どうか、私と一緒に来てもらえませんか?あなたの手で魔王を倒し、ユートピアを救って欲しいのです!!」


「…………」


(言葉が出てこない。この状況はなんだ?なにが起きている?そもそも勇者だの魔王だのユートピアだの全くもって理解できない。何を言っているんだこの女は。これはまずい!!非常にまずい!!頭が混乱している!!と、とりあえず落ち着こう!!落ち着いて……自分のペースを取り戻さねば!!これ以上、あの女のペースに乗せられる訳にはいかない!!……いつも通りに……いつも通りに……。)


そう思った俺は、小さく深呼吸すると、いつも通りの営業スマイルで丁寧に慎重に言葉を選んでミカエルに話しかけた。


「あ~~ごほん!……まずは、はじめましてミカエルさん。私の名は……」


「名乗らなくて結構ですよ勇者。あなたの名は存じております。」


「い、いや!!ですが礼儀として……!!」


「結構です。」


「……はぁ。わかりました。それで、先程の話なのですが……」


「おお!来ていただけるのですね?では、早速あなたにギフトを差し上げましょう!!」


「お断りします。そんなのはいらない。そして、私はユートピアとやらには行きません。」


「……なんですって?」


「……ゴクリ!……」


思わず唾を飲んでしまった。凄まじい殺気だ。やはり、俺の第六感は間違っていなかった。この女はかなりヤバい。


(怒りの沸点が低すぎる。言葉を選んでる場合じゃないとは思うが……提案するだけ提案してみよう。それでもダメだったら……もう、覚悟を決めるしかないな。)


「わ、私がユートピアに行っても何もお役に立てませんよ!!……なので紹介します!!優秀で勇敢で頼もしい傭兵部隊をね!!紹介料は……え~~そうですね。2割と言いたいところですが、1割にまけましょう!!いかがですか?」


「ユートピアにいる罪のない人々が苦しんでいるのですよ?こうしてくだらない会話をしている今も!!良心が痛まないのですかあなたは!?」


「はい、全く。それで返答は?受けますか?この話。とても良い話だと思いますよ?何度も言いますが、私がユートピアに行っても何もお役に立てません。」


「なんと酷い。見損ないました。」


「そうですか。それなら、他を当たってください。俺に頼むのはお門違いだったな。」


どうやら完璧にミカエルのご機嫌を損ねたらしい。俺は内ポケットから葉巻を取り出し、ズボンのポケットからライターを取り出した。そして葉巻に火をつける。


「……スゥー……フーッ。」


こうすることで、またズボンのポケットにライターを入れられる。ズボンのポケットの中にはライターの他に小型の銃も入っていた。俺はポケットに手を突っ込んだまま葉巻を吸う。


(さぁ!!さっさと殺しに来い!!見たところ、武器は腰に差してある剣だけ。経験上、この手のタイプのサイコパスは俺の心臓目掛けて刺してく る!!)


そう思った刹那、俺の胸はミカエルの剣に貫かれていた。


「ぐがっ!!??」


「残念です。あなたを毒蛇の牙のリーダーにしたかったのに。こうなっては仕方がない。全て0からやり直しましょう。」


そう言ってミカエルは俺の体から剣を抜き、鞘に収めた。


「ぐぅ……がぁ!」


俺はその場に倒れた。そして、痛みと共に恐怖がやって来た。俺の体から血液が溢れ流れ出る。次々と……次々と。


「い、嫌だ……嫌だ!!……し、死にたくない!!」


「ふふ……醜い。下賎な人間にふさわしい最後ね!!後悔しながら死ぬと良いわ!!」


「ぐっ!ぐくぅっ!!」


ふと見上げるとミカエルの顔が見えた。そして、目が合った。

ミカエルのその目は……似ていた。

あいつに……あの男の目にそっくりだ。

俺の大切な家族を殺したあの男の目に……。


「ゆ、許さない、ぞ!!!!……殺じでやる!!!!化けて……出てやるからなぁぁ!!!!」


「成る程。その可能性は考慮していなかった。ありがとう……気付かせてくれて。ならば、お前の亡骸はユートピアの最北端……滅び山に捨ててやろう!!あそこに巣くう悪魔共に魂ごと喰われてしまえ。無に帰るがいい。邪悪なる者よ!!!!」


「糞………たれぇ………」


こうして、俺の意識は闇に消えて行った。

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