第2話 旅立ち
教会から屋敷に戻った後、ロイのクソ野郎は彼女の顔面を何度も何度も殴った。
「ギャっ!?ひっ!?ヒィィ……お、おやめぐだばい!!おやめぐだ……!!」
「このアバズレが!!!!くたばりやがれ!!!!」
「あう!!ぐぅ!!ぎゃふっ!!」
「ふんっ!……かぁっ!……ぺっ!」
(ひでえ……彼女の顔に痰を吐きやがった。)
そして、ロイは俺を睨み付けこう言った。
「お前なんか産まれてこなきゃ良かったんだ!!この恥知らずが!!」
そう吐き捨てて、ロイは部屋から出て行った。
「う、うう……!!」
可哀想に……。
だが、今の俺は赤ん坊であまりに無力だ。なにもできない。この現実をちゃんと受け入れよう。1つ1つ問題を解決していこう。少しでも良い。前に進むのだ。
「ばぶぅ~……」
この女は使える。俺の身を守る盾として。
彼女に嫌われないようにしなくてはな。
(彼女が求める息子を演じよう。それで借りは返せるはずだ。彼女を愛そう。母親のように。まずはそこからだ。)
……それから12年後……
「なぁ~~フランクぅ~~。なぜ、お前はまだ生きているんだ?さっさと死ねよ!!」
「う……ううっ!!」
フランクってのは俺の名前だ。
俺は今、ロイのクソ野郎……じゃなかった、父上からありがたい剣術指南を受けている。
父上は息子思いの良い人なんだ。
「立て!!!!……立てぇ!!!!立てぇ!!!!この穀潰しが!!!!」
そう言って俺の腹を何度も蹴ってくる父上。凄い優しいんだ。食事だってまともにくれやない。
(……腹、減ったなぁ。)
「おら!!さっさと立て!!やる気があんのかてめえは!?無駄飯ぐらいの役立たずが!!死ね!!死ね!!死ね!!」
「痛っ!?ぎぃっ!!ぐう!!」
(い、今の蹴りは効いたぜ!!……それに、死ねってなんだよ。それが実の子供に言う言葉か!?このクズ野郎め!!)
「ひひひっ!!!!おらおらぁ!!!!」
調子に乗ってるな、こいつ。
まぁ、それは仕方ない。俺がそうゆう風にこいつを誘導した。俺が生き残る為に。殺されるよりサンドバッグにされるほうがよっぽどマシだからな。弱者の真似事は俺の十八番なんだよ。
(今まで散々色々やってくれたよな。楽しみに待っていてくれたまえ、父上。報いは必ず受けてもらう。そして、ミカエル……あの女にも必ずな。俺はそれを糧に今を生きている。容赦はしない。これは……約束だ。)
それからしばらくして、俺はようやく虐待……いや、剣の稽古から解放された。これでようやく飯にありつける。剣の稽古で受けた傷の治療を終えるとすぐさま調理場に向かった。
「イテテ!!……あぁ、腹減った。」
階段を降りて廊下を歩いているとロイの手下数人が何やら話をしていた。
「へへへっ!!この前のトロル討伐は楽勝だったな!!」
「ああ!!一人頭、エルフ銀貨30枚!!3ヶ月くらい遊んで暮らせるぜ!!」
「……でもよ。最近、なんか魔族共の動きおかしくねえか?」
「そうか?おかしいか?」
「お前の気のせいじゃねえか?」
「いや!!間違いねえ。最近、ゴブリン共の姿が見えねえ。……静かすぎるよ!!なにか企んでるんじゃないか?」
「心配性だな。たかがゴブリンじゃねえか!!」
「そうだぞ。たかがゴブリンだ。何かを企む知性なんざ奴らにあるものかよ。」
「お前らだって見たはずだぜ!!この前仕留めたゴブリンの背中のタトゥーを!!アレは魔王の手だ!!魔王軍所属の証さ!!」
「だ・か・ら!!心配しすぎなんだよお前は!!」
「俺達には聖騎士団に所属しているロイの旦那と聖教のシスターがいるじゃないか!!あの2人がいる限りこの国は安泰だぜ!!その気になりゃ四魔将全員……いや、もしかして魔王と渡り合えるんじゃないか?」
「へ、へへ!!そうだよな!!すまん!!あの人達の力を疑っちゃダメだよな!!悪かったな2人共!!お前らのおかげで少し気が楽になったよ!!」
「よし!!じゃあ、酒場行こうぜ!!……ん?」
「あ、はは!!……どうもです、皆さん。」
俺はヘコヘコしながら挨拶した。その態度に腹が立ったのか、ロイの手下の1人が俺の股関節を蹴りやがった。俺はその場でうずくまる。
「ぐっ!?……くぅぅ!!」
「おい、フランク!!てめえ……いつまで俺達の足を引っ張るつもりだ?」
「ロイの旦那が可哀想だとは思わないのかよ!!!!あんな良い人に迷惑かけるなんて、人として恥ずかしくないのか!?」
「この国に名前がないのはな!!てめえが魔力0!!スキル0なのが原因なんだぞ!?わかってんのか!!!!」
「……へへっ!すいません。」
俺が住んでいるこの国には名前がない。皇帝という人物から名前を貰わないといけないからだ。
普通なら、すぐに国の名前が貰えるらしいのだが、俺がスキルも魔力もないってのが原因で貰えないらしい。
(向こう側の言い分をもっと簡単にまとめるとだ。ミカエル様に愛されていない息子が住む所なんかに名前なんか与えるかバーカ!!って、感じかな?……世知辛いぜ、全く。)
そのせいで父上とかその手下達から俺はいじめられているというわけだ。
(まぁ……そう誘導したんだけどね。殺されるよりはそのほうが良いに決まってるから。)
「けっ!!この穀潰しが!!」
満足したらしい。3人はその場から去って行った。
「痛っ……股関はダメだろう。股関は……」
とにかく、飯だ。飯を食おう。俺は股関をさすりながら調理場へと向かった。
「……フランク。」
調理場に着くと、問題児がいた。
この屋敷のただ1人のメイド……マリアンヌという名前の無愛想だが銀髪ロングの美しい女性だ。
ちなみに従者や他のメイド達は父上かその手下達に殺されて庭先に埋められている。
なぜ、彼女がまだ生きているのか未だに謎だ。
「やあ、マリアンヌ。」
「料理ができないわ。」
「前にも言ったよね?立ってるだけでは料理は出来ないんだよ。」
「作って。」
「はいはい。」
いつもこんな感じだ。彼女は掃除洗濯はできるが、料理は全くもって出来ない。だから、俺が幼少の頃からずっと彼女の変わりに料理を作ってあげている。
「出来たわ。」
「うん!!父上に頼まれているんだろ?早く持って行って!!怒られるよ。」
「あなた、その手の傷……」
「ん?あ、ああ……いつものやつさ!!気にしなくて良い!!」
「フランク。」
マリアンヌが俺を睨み付ける。
そうだ……そうだった。彼女に治療させるべきだった。そうしないと彼女はすごく怒るのだ。
(俺の身を案じてくれているのかなと最初は思っていたけど、そうじゃない。俺の血を吸うのが大好きなんだよ彼女。だから、俺の血が勿体ないから私に治療させろというわけだ。)
「ご、ごめん。君に一声かけるべきだった。」
「……いいわ。許してあげる。夜、あなたのベッドの中で会いましょう。」
「……は、はい。また、俺の体を舐め回すのかい?」
「そうよ。じゃあね。」
マリアンヌは俺が作った料理を持って調理場から出ていった。そして、俺は手際よく簡単な料理を作るとかっ食らった。
「ふぅ……あ、母さん!!……料理を作って持ってかないと。」
最近、胃の調子が悪いみたいだから、パスタを作ろう。それが出来上がると俺は母さんが寝ている寝室へと向かった。
「母さん、パスタを作ってきたよ!!……ん?母さ……ん?」
いつもと様子が違う。俺はパスタをその場に投げ捨て急いで脈をはかる。
「み、脈なし……呼吸なし……瞳孔は開いている!?」
間違いない。彼女は死んだのだ。
「そうか……そうなのか……旅立ったのか。」
ということは、もう、息子を演じる必要もこの女を庇う必要もない。俺は自由だ。
「良い旅を……母さん。」
俺の旅立ちの時はきた。
ここにもう用はない。
「この屋敷の地下室に行こう。彼女の遺言の通りに。」
その前に、彼女をちゃんと埋葬してあげよう。
これが彼女との本当の最後だから。
「ありがとう……ありがとう母さん!!!!絶対に忘れないからね!!!!」
俺は彼女の手を握りしめながら泣いた。
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