第9話 あなたは恵まれている
俺は、アルバートの埋葬を済ませるとすぐにマリーが待つロイの部屋へと向かった。
「やあ、マリー。待たせたかい?」
「いいえ。全く。」
「そうか。実は少し頼みを聞いて欲しいんだマリー。なに、難しいことじゃない。簡単な事だ。この姿の時だけ、俺のことをヴィランとそう呼んで欲しいんだ。」
「ヴィラン? フランクのままではダメなの?」
「ああ……今は漠然としているが、計画がある。使い分けたいんだ。色々やりたいんだよ。ちなみに、この姿の状態で、君以外に俺の顔をさらすつもりはない。あの2人にも釘を刺しておいてくれ。もうフランクと呼ぶな、と。まぁ、この姿で会うことは二度とないと思うが、一応ね。」
「わかったわ。……これ、報酬よ。受け取って頂戴。」
マリーが俺の報酬を机に置いた。
「……ありがとう。ところで、興味本位で聞くんだが、どうして君は生きてるんだい?」
10日前、マリーはアルバートに首を跳ねられ、その体は俺の仮母の墓石と共に炎魔法で跡形もなく消し飛ばされた。
「ああ……簡単よ。あの場にいた全員に幻術魔法をかけたの。私が斬られた瞬間にね。グール共には出来ない芸当でしょ?」
「え?呪文は唱えていなかっただろ?」
「エルフ語で呪文を詠唱したの。人間には絶対聞こえない。勿論、ドワーフもね。聞こえるのはエルフだけよ。」
「……ふ~ん。そ、そうなのか?そいつはすごいな!!」
「…………」
突然、彼女は俺を微笑みながら無言で見つめる。その目には狂気が宿っていた。
敵意は感じない。とても綺麗で美しい目だった。
(成る程……これが彼女の素なんだな。)
「すごいのはあなたのほうよ。……だって、あなたは恵まれている。私の魔法などあなたの力の前では足元にも及ばない。その証拠にあなたはこの国を無傷で私に提供した。我々、魔族には到底出来ない事よ。我々魔族は、ただ脅して、奪って殺すだけ……ああ、なんと儚き存在か。やはり、エキドナの言うことを聞いて正解だったわ。あなたは本当に面白い!!」
「…………」
「……敵であるアルバートも味方につけた。これも、我々にはできない芸当よ。ただ、私が庇う前に死んでしまったけどね。あれくらいなんとか出来ると思ってたから。少し、彼を過大評価してしまった私の落ち度ね。ごめんね、ヴィラン。」
「……その気持ちだけで十分だよ。ありがとう、マリー。」
「ふふ……あなたに興味が尽きないわヴィラン。出来れば私と一緒にこの国を支配して欲しいけど……」
「大丈夫。その先は言わなくてもちゃんとわかってる。エキドナの借りは必ず返すさ。」
「そう。……どうやら、旅立つ準備はすませているようね。じゃあ、送り迎えをさせて頂くわ。中央に立ってちょうだい。そして、そのまま動かないように。転移魔法でエキドナの所に送ってあげる。」
そう言って、マリーは俺の前に手をかざす。
「ありがとう。では、また会おう、マリー。」
「ええ……また、会いましょう……愛しきヴィラン。」
こうして、俺は一瞬で国を去り、エキドナの住みかに到着した。
「……薄暗いなここは。」
俺は鞄から、松明を取り出し火をつけた。
「ふぅ……ライターがあれば一瞬でつくのによ。」
ぼやいても仕方ない。とにかく進もう。
「う~む。辺り一面レンガが敷き詰められている。部屋がいくつもあるし……エキドナは一体どこに居るんだ?」
とりあえず、大声でエキドナの名前を呼んでみるか……そう思い俺はすぅっと肺に酸素を大量に入れた。
「いい加減にしな!!!!」
「うっ!!?? ゴホッゴホッ!!??」
むせてしまった。この声は間違いない。エキドナだ。
「……こっちの方からだ。」
しばらく歩くと、ある扉の下の隙間から光が差し込んでいた。
(とりあえず……しっかりと礼節を持って挨拶をしよう。)
俺は扉をコンコンッと叩こうとした。その瞬間、また、エキドナが怒声を上げる。
「あんたら私をなめているね!!??そうだろ!!!!」
『落ち着かれよ……我らが師よ。』
「私を師と呼ぶな!!!!反吐が出る!!!」
『ははっ!!ああ!!恐ろしや恐ろしや!!……そうカッカなされるな。さらに寿命が縮まりますぞ?』
「貴様らに彼女はやらん!!!!滅び山の主は……この私だ!!!!」
『……これが本当に最後の警告ですよ?あなたには、もう自身を守ってくれる友も、手下もいない!!潔く滅び山を去られよ!!でなければ、死よりも残酷で恐ろしい滅びが貴女を襲うことになるであろう!!』
「上等だ!!!!かかってくるがよい!!!!全て返り討ちにしてくれる!!!!」
エキドナがそう言った瞬間、カラスの鳴き声とグシャッという音と骨がポキポキッという音が同時に聞こえてくる。
「があぁぁぁ!!??」
「……ふざけおって……ふざけ……うぐっ!?く、く、苦し!!??」
今度は巨大な何かが倒れた音。
これは流石にヤバいと思い、急いで部屋に入った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます