第7話 狂乱の吸血鬼


「て、手下共は!?俺の手下共はどうした!!??」


「殺したわよ全員。ゴブリン共の血は嫌いだ。臭くて汚いからな。やはり、人間の血が一番良い香りがする!!……ねえ、そうでしょ?フランク。」


「……イカれババアめ!!」


「ケケケ!!!!……お前はどんな血の匂いがするのだろうな……楽しみだ!!!!」


邪悪な笑みを浮かべながらケリーは剣先を俺に向ける。


「下がれフランク。お前は俺が守る!!」


そう言ってアルバートは俺の前に出て、ケリーに剣先を向ける。


「我々に逆らう気か?……奴隷!!!!」


「ああ!!お前達より、フランクのほうが百倍マシだよ!!俺は彼と一緒にこの国を出る!!お前達の言うことなんか聞くもんか!!!!もう、うんざりなんだよ!!!!お前を殺せば……俺達は自由だ!!!!」


「ふんっ。それは無理よ奴隷。」


「やってみなければわからないだろ?俺の落とし穴に簡単にハマるようなお前のようなマヌケとは違う!!アルバートはあんたより強い!!」


「はははっ!!……ああ!!……くだらない!!」


ケリーの口角が上がる。まるで小説の挿し絵に出てくる悪魔のようだ。


(なんなんだ?あの女の目は……人間って、あんな鋭い目付きができるもんなのか!?まるで、猛獣だ!!)


「くっ!?くそおぉぉ!!!!死んでたまるかああ!!!!」


重苦しい空気に耐えきれなかったのだろう。先に動いたのはゴブリンシャーマンだった。


「くらえええ……え?」


ゴブリンシャーマンがケリーに向かって両手を前に出した瞬間だった。ケリーはあっという間にゴブリンシャーマンとの距離を詰め首を跳ねてしまった。

そして、ゴブリンシャーマンの首がドサッと落ちた瞬間、ケリーは俺の目の前にいた。


「……あ。」


「フランク!!!!」


アルバートが俺の肩を押した。俺は後ろに仰け反り倒れた。そして、アルバートは胴体を真っ二つに斬られてしまった。


「あ……ああ!!!!アルバート!!!!アルバーーーーートおおおお!!!!」


俺はアルバートの上半身に手を伸ばそうとした。するとケリーが俺の横腹に蹴りを入れる。


「ふんっ!!」


「ぐあっ!!??」


俺は何回か横に転がり、その場で踞った。


「う……うう!!!!」


「ふふふ……無様ね……惨めねフランク!!!!」


「ふぅ!!ふぅ!!」


俺はゆっくり立ち上がり、ケリーを睨み付ける。


(……終わった。何もかも……)


「でかした!!!!でかしたぞケリー!!!!」


「その悪魔を殺してくれ、頼む!!!!」


「ええ、そうさせて頂きますわお二方!!」


「……ふふ。」


「……なにがおかしい?」


「ふふふ!!!!殺せ……殺せばいい!!!!だが、俺は甦るぞ!!!!何度でも、何度でもだ!!!!俺の魂は決してお前らに屈しはしない!!!!必ず、復讐してやる!!!!」


「戯れ言を!!!!死ねえ!!!!」


ケリーは俺の首目掛けて剣を横に振った。

だが、俺は断じて目を瞑らない。あの女の……ケリーの目を見続けてやる。それが今、俺にできる精一杯の抵抗だった。

だが、俺の首が胴体から離れることはなかった。ケリーが突然後ろへと飛んだのだ。

一体どうしたと言うのだろうか。あの女の顔から見る見る血の気がひき、体が小刻みに震え始めた。


(な……なにが起きている?)


「お久しぶりね……血だまりのケリー。」


後ろから聞き慣れた声が聞こえる。振り向くとそこにはなんと彼女がいた。アルバートに首を跳ねられた彼女が、死んだはずの彼女が優しく微笑みながら立っていたのだ。


「マ、マリアンヌ!?」


「お久しぶりね、フランク。」


マリアンヌは俺のおでこにキスをした。


「い、生きていたのか……いや、あり得ない!!君はあの時……」


「話は後でね。まずはこちらから……そうよね、ケリー。」


「お前なんだ!?……なんなのよお前!!!!」


「お、おいケリー!!どうしたと言うのだ!?なにを怯えている!!」


「しっかりしてくれ!!!!あんたが俺達の最後の希望なんだぞ!!!!あいつはただのグールだ!!!!恐れるな!!!!」


この世界、ユートピアには人間やエルフ、ドワーフを襲う獰猛な生物が沢山いる。中でも多いのがゾンビだ。

ゾンビについて詳しいことは調べていないので人々の噂程度でしかわからないが、とりあえず、ゾンビ映画に出てくるゾンビとたいして変わらない、ということはわかっている。

あと、ゾンビに噛まれたらゾンビにならない。噛まれたら死ぬ。それだけだったかな。

で、なぜ、ゾンビのことを思い出しているかと言うとロイの奴が言っていたグールに関係しているからだ。

ゾンビを食べる珍しいゾンビが時々現れるらしい。その珍しいゾンビがゾンビを喰いまくって進化したのがグールなのだ。

グールはある程度知恵があるらしく、片言で喋ったり、複数体ゾンビを引き連れて獲物を狩るらしいが……


「面白いことを言うわね、ロイ。私がグールであるなら、首を跳ねられた時点で死んでいると思うけど?」


「じ、じゃあ……お前はなんだ!?何者なのだ!?」


「くだらないことを聞くわね、神父。貴女はわかるわよね……ケリー?」


「ふぅ!……ふぅ!……ふぅ!……ふぅ~!!!!」


「……ふむ。メイド服じゃわからない?じゃあ、これならどうかしら?」


突然、全ての窓が開き、無数のコウモリがマリアンヌを包み込む。


「マ、マリアンヌ!!!!」


俺が彼女の名前を言ったその瞬間、コウモリ達が凄まじいスピードで去って行った。するとマリアンヌの服装が変わっていた。メイド服から漆黒のドレスに。


「ふふふ……では、改めてご挨拶を。私の名前はマリー。魔王軍四魔将の1人狂乱の吸血鬼マリーと言います。……以後お見知りおきを。」


そう言って彼女は俺達にカーテシ……ヨーロッパ風の挨拶をした。


「よ、四魔、将だと!!??」


「な、なぜ、魔王軍の最高幹部がここに!?」


「はぁ!!!!……はぁ!!!!……はぁ!!!!」


「あらあら。さっきから息が荒いけど大丈夫、ケリー?」


「わ、私は昔とは違うぞぉぉ!!!!マリー!!!!」


「再開を喜び会いましょう。血だまりのケリー!!」


「たあああーーーー!!!!」


ケリーは凄まじいスピードでマリーの懐に入る。


「その首、もらったああ!!!!」


だが、マリーの首が斬り落とされることはなかった。マリーはケリーの剣撃をなんと中指と人差し指で受け止めたのだ。


「ば……化け物!!??」


「スゥー!!……ああ……良い匂い……あの戦いから、もう何年経ったのかしら。」


スンスンッとケリーの首筋を嗅ぐマリーを見て、俺は恐怖を覚えた。


「覚えてる?私達の出会いを。」


「わ、忘れるものか!!!!お前は……お前は!!!!私の姉2人と妹を引き裂いて殺した!!!!」


「うんうん!!そうよね。アレは楽しかったわ。特にあなたの妹の悲鳴が今でも忘れられない!!あんな素敵な悲鳴は始めてだったわ!!」


「よ、よくも!!!!よくも!!!!」


「あら?怒られるようなことはしていないわよ。だって、貴女達だって私の領民を笑いながら惨殺していたわよね。とくに貴女は素晴らしかった。泣きじゃくっている赤ん坊の目玉をスプーンですくって食べていた。その赤ん坊の母親の目の前で!!」


「うっ!?」


なんとも聞いてるだけで胸糞悪くなる話だ。吐きそうになる。


「怒ってるわけじゃないのよ。貴女はとても素晴らしい女性よ!!!!本当に本当に素晴らしい女性よ!!!!……ああ、もう我慢できないわ!!!!この日が来るのを首を長くして待っていた!!!!ねぇ……あなたの血……飲んで良い?」


「や、やめろ!!!!」


「いただきますぅぅ!!!!」


マリーはケリーに抱きつき、その首にかぶりついた。


「ジュル!!!!ジュル!!!!」


「あ、ああ!!!!や……や、やめろ……やめて……やめ、て!!!!」


「ジュル!!!!……うまい、うまいわ!!!!あなたの血……最高級のワインに匹敵する!!!!」


「ミ……ミカエル様……ミカエル様……お、お救いくださ……慈悲を……」


「ああ~~!!!!美味しい!!!!美味しいわ!!!!」


「お救い……くださ……」


「あーーはっははははは!!!!」


こうして、ケリーはマリーに全身の血を吸われミイラ状態になって死んだ。

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