第6話 世界を見る視野


「お待ちしておりました……シャーマン。」


俺は深々とゴブリンシャーマン達に頭を下げた。


「おう!!お前にも見せてやりたかったぜ!!あいつらの情けない面をよ!!」


ゲラゲラ笑いながら、そう言ってゴブリンシャーマンはふてぶてしく中央の玉座に座った。


「はあ?一体何のお話でしょうか?」


「ロイの手下共のことだ。民衆共が殺したんだ。手伝わせて欲しいって言うから手伝わせてやったんだ!!!!……なぁ?ロイ。」


「ヒッ!?ヒィィ!!!!」


「……成る程。それはそれは。よほど凄惨な光景だったんでしょうね。」


奴らめ。よほど好かれていなかったんだろうな。ざまぁないぜ。人というやつは、追い込まれれば追い込まれるほど残酷に残虐になれるもんだ。武器商人だった頃、たくさん見てきたな。俺もそれに巻き込まれて何度も殺されかけったっけ。

これも武器商人の悲しい運命だね。


「ところで、さっきお前が作った落とし穴の中見たけどよ。……まだ、あの女……あの中で生きてやがったぜ?」


「……生きていた?……まだ殺していないのですか?」


「はははっ!!心配すんな!!あの女は確実に死ぬさ。心配なら、この契約が終わったら見に行くといい。」


「……ええ。そうさせてもらいます。では、さっさと終わらせてしまいましょう。」


俺はロイと神父が向かい合っている机に歩み寄った。


「今日は散々な日だったね、神父……そして、ロイ。君達に同情するよ。」


「う、うぅ!!」


「ひ、ひぃ!!」


「そして、君達に残酷な事実を伝えなければならない。魔王軍はこの国を欲している。その証として、君達の頭を旗がわりに使いたいんだそうだ。」


「い、嫌だ!!嫌だ!!そんなの嫌だ!!……そ、そうだ!!神父だ!!その神父だけ首を切り落とせば良い!!逃がしてくれフランク!!俺はお前の父親だろう!!??」


「な、なんだと!?ロイ!!き、貴様!!!!抜け駆けするつもりか!!??ワシがあれほど目をかけてやったのに!!!!こ、この恩知らずめが!!!!」


「何が恩知らずだ、くたばれジジイ!!!!おい、フランク!!!!た、頼むよ!!!!助けてくれ!!!!」


「わ、ワシを助けてくれフランク!!!!頼む!!!!こいつはいつもお前を蹴ったり殴ったりしていただろう!!??ワシはいつも優しくしてやっただろう!!??」


「…………大丈夫大丈夫!!そんなに興奮しないでくれ。2人共助かるよ!!あるモノにサインしてくれればね。」


そう言って俺は机に一枚の悪魔の契約書を置いた。


「そいつに君達の名前を書けば2人共助かるよ。さぁ、俺が持っているこの羽ペンでちゃっちゃっと書いて……」


「た、大変だあぁぁぁ!!」


「ん?」


「なんだ!!??騒々しいぞ!!!!」


「ボス!!!!ケリーが!!!!あの女が暴れています!!!!」


「バカなっ!?あの穴から抜け出たというのか!?ゴブリンチャンピオン共はどうした!!??あいつらがいただろ!!??」


「や、殺られました!!いきなりだったんです!!ガキが突然チャンピオン達の後ろに現れて!!!!」


「……あ、あの!!!!……あの役立たず共がああ!!!!」


「ガキ?……アルバート……アルバートか!!」


あいつ、生きていたのか。

こいつはとんだ誤算だ。


(ゴブリン共め……しくじりやがって……ん?)


風の音が聞こえる。はて、窓は全部閉めたはずだが……


「なっ!!??」


それはあっという間のことだった。いつの間にかアルバートはゴブリンシャーマンの背後を取っていた。そして、奴はゴブリンシャーマンの首もとに剣身を当て、俺達にこう言った。


「父上と神父を解放しろ!!!!」


「なっ!!??い、いつの間に!!??……て、てめえら!!!!なにやってやがる!!??は、早く俺を助けやがれ!!!!」


シャーマンは連れてきた数匹のホブゴブリン達に救いを求めた。


「へへっ!!やだね!!断る!!」


「ざまぁねえなボス!!」


「ゲヒャヒャヒャヒャ!!!!」


(全く……こういう時に仲違いか。ゴブリンシャーマン個人の人徳か、それともゴブリンという種族の性格故か……いずれにせよ、俺にとってもうこいつらはただの害悪でしかない。そろそろどう逃げるか、考えるべきかな?)


「わ、わかってんのかてめえら!!!!俺がこの国を手に入れられなかったら、あのお方が黙ってねえぞ!!!!全員、連帯責任で死ぬより恐ろしい目にあわされるぞ!!!!」


「うっ!?そ、それは……」


「じ、冗談ですよボス!!俺達があんたを見捨てるわけねえだろ?」


「待ってな!!!!今、助けてやるぜ!!!!」


(……あのお方、か。)


ゴブリン共を裏で操っているあのお方……魔王でもゴブリンロードでもないらしい。何者なのか今でもわからない。だが、恐ろしい存在だということはゴブリン達の様子を見ていれば一目瞭然だ。


「動くな!!!!動いたら、こいつの首を跳ねてやる!!!!」


「ヒッ!!??う、動くんじゃねえお前ら!!!!」


「え?でも、それだったら助けられねえよ!!」


「頭を使え!!!!頭を!!!!」


「……頭?どうやって?」


「俺が知るかよ。」


「早く助けろよぉぉ!!!!」


「………クッ。」


わかっている。わかっているんだ。

笑ってはいけない。わかっている。

でも、つい笑ってしまった。


(こういう状況は何度も見てきたし、何度もあったよ?同情できるよ。しかし、あのゴブリンシャーマンの慌てぶりはどうだい?あまりに滑稽じゃないか!!)


「よくやった!!!!よくやったぞアルバート!!!!さすがは選ばれし者!!!!」


「あ、ああ!!!!お前はできる奴だと思ってたぜ!!!!早く縄を解いてくれ!!!!」


「…………」


「………フン。」


アルバート……視野が狭いぜ。

そんな絶望した目をするなよ。

仕方ない……俺がお前の見ている世界を壊してやろう。

勿論、タダではないがね。


「……どうでしょう皆さん。ここは私に任せてはもらえませんか?あなた方はケリーの始末をお願いします。」


「な、なんだと!?お前に任せろだと!?」


「はい。滅び山の主エキドナ様に誓って必ずや……シャーマンを救ってみせましょう!!」


俺がそう言うと、悪魔のメダルが怪しく光出す。


「……いいだろう。大悪魔エキドナ様に誓ったのだ。その誓い……必ず果たせよ。行くぞお前ら!!」


「おう!!!!」


「ケリー殺す!!!!ぶっ殺す!!!!」


ホブゴブリン達は大広間から出ていった。


「ほ、本当になんとかしてくれるんだろうな!!??」


「ええ……そう誓ったでしょ?」


「……プッ!!はっははは!!!!お前ごときになにができるというんだ!!??ミカエル様に愛されぬ愚か者……」


「ふんっ!!」


俺はロイの顔面をおもいっきり殴った。


「ぐはっ!!??」


「ああ……まだ、喋れるのか。それだったらもう少し殴ろう。」


その後、俺は無言で何度も何度も殴る。ロイが喋らなくなるまで。小さな悲鳴も許さない。


「…………」


「どうだ?まだ、喋る元気はあるか?」


俺の問いかけにロイは目をうるうるさせながらフルフルと首を横にふった。


「よし。神父はどうだ?」


神父もロイと同様に目をうるうるさせながら首を横にふった。


「ふふ!!……大の大人がみっともねえな!!……さてと!!じゃあ……待たせたな、アルバート。」


「………くっ!!……よ、よくも!!よくも父上に!!」


「……シャーマンの首を跳ねなかったのは正解だ。そして、俺と同じようにシャーマンに暴力を奮わなかったな。偉いぞアルバート。シャーマンを傷つけたりしたら、どちらかが死んでいた。そして、殺していたら2人共死んでいた。……うん!!良い状況判断だ!!」


「う、うるさい!!!!む、無能のくせに!!!!」


「……辛かったろ。ロイの下の世話は。」


「え?……そ、そんなことはない!!!!だって、僕は父上を愛しているんだ!!!!それが、それが僕の生きる道なんだ!!!!」


「それは違うぞアルバート。選択する道は無限にある。今の君はそれが見えていないんだ。」


「う、動くな!!!!動いたらこいつがどうなるかわかっているだろうな!!??」


俺はそれでも歩みを止めなかった。一歩一歩ゆっくりとアルバートに近づく。


「見ていたぞ。お前、ロイが顔面を殴られ続けているのを見て、笑っていただろ?」


「そ、そんなことはない!!!!」


「隠すことはないさ。ざまあみろと思ったろ?その気持ちすごくわかるよ。俺は半年の間、ロイの下の世話をしてきた。」


「え?……は、半年?」


「アルバート……俺と一緒に来る気はないか?お前の世界の視野を広げてやる!!」


「つまり、な、仲間になれって言うのか!?」


「そうだ。5年、いや、4年でいい。俺を守って欲しいんだ。その後は自由だ。好きにすればいい。」


「で、でも!!……俺はマリアンヌを……君の母親の墓を!!」


「うん。許すつもりはない。彼女達は俺にとって大切な存在だった。でも、俺はこの国を出て前に進みたいんだよ!!その為には……アルバート!!お前の力が必要だ!!だから、我慢する。お前だってこんな国を出て冒険をしたいだろ?」


「……したい。冒険がしたい。もう嫌だ!!こんな生活!!故郷に帰りたい!!」


「俺を4年間、守ってくれたならな。ゴブリンシャーマンを解放してくれ。そいつから報酬をもらう約束なんだ。2人で山分けしよう。」


「わかった。」


こうして、ゴブリンシャーマンは解放され、アルバートは俺の仲間になった。


「はぁ!!はぁ!!い、 生きてる!!助かった……助かったぞ!!!!首ある、良かった!!!!」


「ふふ。では改めて儀式を……」


その瞬間、大広間の扉が粉々になり、ゆっくりとケリーが入ってくる。そして、鬼の形相で俺を睨み付け静かにこう言った。


「……殺してやる。」

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