第14話 毒蛇の牙

「やあああ!!!!」


僕の名前は佐藤太一。今年で17になる。

女神ミカエルによってこの世界ユートピアに召還された異世界転移者だ。


「いくぞゾンビ!!!!お前がラストだぁぁ!!!! 」


「ぐぎゃお!!??」


見てくれ僕の剣捌きを。

見てくれ僕の戦いを。

見てくれ僕の力を。

ゾンビ共なんてほらこの通り真っ二つ。

この世界の住人共には出来ない芸当だ。

ミカエルにはホント感謝しかないよ。

だって……この僕に生き甲斐を与えてくれたんだもの。

ここに来る前の僕は、それはもう退屈で退屈で退屈でさ。暇潰しにそこらの飼い猫とかレンジに入れて殺したり、そこらを歩いていた小学生の頭をハンマーで思いっきり殴って遊んでたんだ。


(僕が悪いんじゃない。あの世界が退屈だったから悪いんだ。)


「さ、さすがです!!!!太一様!!!!」


「貴方様こそ真の勇者様です!!!!」


「ハァ~~……あ・の・さ!!!!……空気読めよモブ女共!!!!僕は褒めろと言ったか!!??言わないとわかんないの!?何度目だよ、全く!!!!……殺してやろうか?」


「ヒッ!?も、申し訳ありません!!」


「お許しください太一様!!」


「フンッ!!!!」


なんなんだろうね、こいつらのこの態度。

スゲーむかつく。

だってそうじゃないか。

僕は毒蛇の牙のメンバー、選ばれし勇者達の一員なんだぞ。

モブである奴らの仕事は僕を影で支えることなのに……全然役に立たない。


「ここで休憩だ!!!!休憩!!!!それと、水!!!!」


僕は苛立ちながら切り株に座った。


「は、はい!!!!」


「わかりました!!!!」


「我々は付近のパトロールに行ってきます!!行くぞ!!お前ら!!」


「お、おう!!」


「パトロールがてらなんか喰えそうなもの狩って来ますよ!!それじゃ!!」


そう言ってモブ戦士達は僕から逃げるようにどっかへ行ってしまった……腹立つ。

でも、あいつらはマッシュさんの借り物だから粗末な扱いはできない。

だから仕方ない。僕の目の前にいるモブ女達でストレス発散するとしよう。


「フゥ~~!!!!ホント!!!!君達って役立たずだよね!!!!」


「……ご、ごめんなさい……役立たずで。」


「謝るくらいならちゃんと結果出してよね。エキドナの巣穴はどこにあるの?ちゃんと案内してくれないと困るんだけど。僕のおかげで君達の村は助かったこと忘れてない?」


一昨日、名も無き村で僕らは出会った。

帝国の法律では都市、あるいは村には必ずミカエルの銅像、もしくは教会を建てねばならないとされている。



「君達の生まれ育った村は法を犯していたんだ。この事が聖騎士団にバレたら皆殺しなんだよ?黙ってやる変わりなんだよ君らは。」


「は、はい!!……承知……しております。」


「じゃあ、ちゃんと奉仕しろよ!!!!このクズ!!!!」


そう言って僕はモブ女の腹を蹴る。


「ぐはっ!?」


「へへっ!!」


やべーなこれやべー。

優越感がたまらない。


「お姉ちゃん!!!!」


「あん?」


おいおい……信じられないよあの女。

皮の水筒を放ってこっちに来るなんて。

僕の言うことをもう忘れちゃったのかな。

こういうクズは死ぬべきだと思う。


「……処刑だな。」


僕はこっちに駆け寄ってきたモブ女の首を跳ねた。そして、その剣を華麗に鞘に収める。


「僕……カッコいい!!!!」


「ア……アン……ナ?」


「ん?」


どうしたと言うんだろう。

モブ女の様子がおかしい。

僕、なんかやっちゃったかな。


「アンナ……アンナ?……私の……妹……」


か細い声で、震える手で、モブ女はモブ女の首を持ち上げ抱きしめる。

うわあ、キモチワル。ああはなりたくないね。


「うっ……ううううっ!!うわあああーー!!!!」


「チッ!!うるさいなあ!!!!」


僕はモブ女の顔面を力一杯殴った。

どう考えても僕は悪くない。

うるさいこの女が悪いんだ。

妹を殺されたくらいで喚いてバカだろ。

しかし、困ったな。顔を傷つけたからこのモブ女の奴隷としての価値が半減してしまった。エキドナの巣穴を案内させてから売りに出す一石二鳥の計画が全部パーだ。


「う……ううっ。」


「いや、待てよ!?そのお腹……子供産まれるんだよな!?そいつをなんとか高値で売れないかボビーさんに相談してみよう!!……うん!!そうだそれが良い!!!!良かったねモブ女!!!!お前の価値はまだありそうだぞ!!!!……ん?気絶してるな……やれやれ、ホント世話がやける。めんどくさいなぁ。」


その時、茂みがゆさゆさと大きく揺れたと思ったら、モブ戦士達と黒いフード付きのローブを着た変な男が茂みの中から現れた。

その男は髑髏の仮面をかぶり、魔法使いがよく使う杖を持っていた。


「はじめまして太一様。私の名は……ヴィランと申します!!以後よろしくお願い致します!!」


そう言って男は僕にお辞儀をする。

どうやら、こいつはこの世界の住人らしい。

だって、あの男のお辞儀……この世界でしか見たことないもん。

それにしても変な名前だ。

ヴィラン、ヴィランね。

前の世界の漫画でヴィランという言葉をよく見かけたことがある。


(意味は……なんだったっけ?)


「貴様!!勝手に喋るな!!」


そう言ってモブ剣士の1人がキモい男の腹を殴った。


「ぐっ!?」


「おお……根性あるじゃん。ふらついてるけど立ってるよ!!たいしたもんだ!!」


とりあえず、褒めてみる。

この男がどう反応するのか興味があったからだ。


「あ、ありがとうございます!!!!あなた様のような偉大な方にそのような言葉を賜るとは!!!!……私、今日まで生きててこれ程感動したことはございません!!!!」


「……プッ!!」


なんだこいつ。

とりあえず、嘘をつけるようなヤツではなさそうだな。

なぜって見るからに頭が悪そう……いや、確実に悪いだろうこいつは。

僕にはわかるんだ。こういう負け犬を大人達から見えないようにイジメてたからね。


「僕は君のような頭が良いヤツは大好きだよ。ヴィラン、だっけ?ここには何しに?」


「あなた達のお役に立ちたくてここまで来ました!!」


「ふ~ん……僕らがこの辺にいるって誰から聞いた?」


「村です!!名もない村!!そこで寝転んでる女達がいた村の住民達から聞きました!!」


「成る程ね。役に立つって君はさっき言ってたけど、具体的にどうやって僕達の役に立つんだ?」


「エキドナの巣穴の場所を知ってます!!道案内をさせて下さい!!その女達はダメですよ!!この辺のこと丸っきりわかってないんですから!!」


「そうだったのか。あの村の村長の娘達だから知ってると思ってたんだけどな。」


時間を無駄にした。役立たずめ。


「案内を頼めるかい?そこにいるボスを倒すのが僕ら毒蛇の牙の仕事なんだ。もし、成功したら君を僕の部下にしてあげるよ!!」


「ありがとうございます!!!!精一杯頑張らせて頂きます!!!!」


「うん!!期待しているよ。」


もちろん嘘だ。こんなバカを部下にしようもんなら皆から何と言われるか……事が終わったら始末しよう。


「ところで、この女達はどうします?」


「……そうだな。面倒だしここで始末するかな。」


「そんな勿体ない!!この女、使い道がありますよ!!エサにするんです!!巣穴を守っている魔族達のね。」


「……成る程。そいつはグッドアイディアだ!!その作戦で行こう!!早速、出発だ!!」


「はい!!」


「わかりました!!」


「あ!!その前に……アンナ……この女を埋めませんか?」


「なぜ?」


「なぜって……なんか嫌に感じません?」


「別に。そのままで良いじゃん。勝手に土に還るよ。そんなことより行くぞ!!ちゃんと案内してよヴィラン!!」


「……わかりました。彼女は私が運びます。皆さんは周辺の警戒をお願いします!!」


「ああ、大船に乗ったつもりでそのモブ女を運んでくれ!!」


「わかりました。」


それから歩くこと1時間……僕達はようやくエキドナの巣穴に到着した。


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