第11話 仕事に生きるわ 生きるために(切実)10

 紐ビジネスが立ち上がった事により、我がビアズリー伯爵家も変わりました。


「お母さまの紐を売却した利益で、領地から有望な子供を呼び寄せて仕込むのですか?」


「ええ、そうよ。ふふふ。ねぇ、アイリス。私の紐を結構な金額でタイラーさまが買ってくださって……ああ、タイラーさまって、サットン子爵のことよ?」


「はい、分かっておりますわよ。お母さま」


「それでね。自由にできる、まとまった現金を手に入れたからね。以前からしてみたかった事を、やってみることにしたのよ」


「お母さまは弟子を取りたかったのですか?」


「ふふふ。本当はアナタに仕込みたかったのだけど」


「……」


 はい。


 私への忌憚なき評価は、前回のタイラー・サットン子爵来訪で知りましたから。


 ええ。


 動揺など、ありませんわ。


「領地から……と、いうか、孤児院ね? ちょうど働きに出す年頃の子がいたので、家に来てもらうことにしたの。行儀見習いをしながら、紐作りを学ぶように」


「領地に戻ったら、その子が先生役をするわけですね?」


「そうよ。孤児院だと学べないことも多いでしょうから、マナーなども一緒に覚えて行って貰おうと思って」


「良いですね。社会に出たら、すぐに困ることも多くありますから」


 こうして、紐ビジネスは回り始めました。


 領地の孤児院から来たのは、赤毛の少女キャロル。


 お母さまの侍女、アグネスも赤毛だから二人で並んでいると姉妹のようです。


 仲もよくて、二人を見ていると本当の姉妹のように微笑ましい。


 まだ14歳のキャロルは屋敷の中で一番若く、皆に可愛がられています。


 覚えもよくて、あっという間に私よりも上手に紐を作るようになってしまいました。


 これなら紐ビジネスの方も上手くいきそうです。


「でも、キャロルを手放すのは惜しいわ」


 などと、お母さまが不穏な事を言ったりしていますが。


 他の子を呼び寄せても結局は同じ事を言いそうですし。


 順繰りに子供たちを呼び寄せて仕込みたいものです。

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