第13話 棚から恋が降って来る

 今日は在庫のチェックでもしようかしら。


 こまめにやっておけば、在庫切れで商機を逃さないで済むし、棚卸しも楽になるから。


 そんな気軽な気分で倉庫にやって参りました。


「あぁ、ゴメン。潰れなかった?」


「大丈夫ですわ。どこも潰れてはいませんし、怪我もしておりません」


 潰れる、とは、どこが……と、思いつつ事態を理解しようと努める私。


 なぜなら、サットン子爵が私の上に覆いかぶさっている状態だからです。


 無駄に良いお顔が近いです。


 自分の体が如何に小さくて頼りないかを実感させる、引き締まった体が私のすぐ上にあります。


「それよりも、サットン子爵さまの方が……」


「あぁ、私は大丈夫だ」


 サットン子爵の無駄に良いお声が近いです。


 なぜ、こんな状態になったのでしょうか?


「えーと……何をなさっていたのですか?」


「在庫のチェックをね……しようと思って。いつもキミがしてくれて助かっているから。自分でやったら新しい発見があるかと……」


「えっと……それで棚の上から降ってきたわけですか?」


「降ってきた? キミは面白い表現を使うね。確かに棚の上から落ちたけど。いや、あれだよ。上の方は見逃しがあるかもしれないと思って、だね……」


「そう、ですか……」


 どうでもいいのですけど。


 いい加減、私の上から降りて下さいますか?


 私の心臓がドッキンドッキンしちゃって大変、騒がしいことになっていますので。


 健康上、よろしくないかと思うのですよ。


「あ……あぁ、失礼。どかないと……ごめんね、重かったよね」


「いえ、そんな事は……」


 どいて欲しいような。


 名残惜しいような。


 忙しく働く心臓をなだめようとしている私から、整った綺麗なお顔が遠のいていきます。


 さらさらの金髪に光が弾けて綺麗です。


 サットン子爵は先に立ち上がると、ボウッとしている私に手を差し伸べてくれました。


 その手を素直に受け入れれば、軽々と引っ張られて起き上がる私。


 寒さ忍び寄る秋の終わりに起きた、ちょっとしたアクシデント。


 サットン子爵の美しさと逞しさを身近に感じた日。


 この日は。


 私の心は抑えようもなくサットン子爵に惹かれているのだと自覚した日となりました。

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