第12話 仕事に生きるわ 生きるために(切実)11

「ご苦労さま。この書類、綺麗にまとまっているよ。それに、字も綺麗だ」


「ありがとうございます、サットン子爵さま」


「アイリス君。紐ビジネスの方は、どうなっているかな?」


「順調です」


 紐ビジネス、という呼び名はどうかしら? と、思う事はありますが。


 総じて順調に進んでいます。


「孤児院から連れてきたマークも、慣れてきたようですわ」


「それはよかったね」


「はい」


 マークは14歳の男の子で、計算が得意です。


 サットン商会の協力を得て領地での産業を盛り立てるのなら、商会の仕事を手伝える子も育てた方が良いということで仕込んでおります。


 孤児院から仕事に就くとなると、女の子は下働き、男の子は危険で力の必要な仕事が多くなりますの。


 商会の仕事に携われる道を作ることができれば、孤児院から社会に出てくる子たちの選択肢を増やすことが出来ます。


 マークのように頭脳派の孤児でも自分を活かして働くことが出来ますし、収入も多くなりますからメリットは大きいです。


「孤児たちの働き口が増えるのなら、喜ばしいことですわ。ご協力、ありがとうございます。サットン子爵さま」


「ふふ。こちらとしても優秀な人材を確保しつつ販路を広げることが出来るのならメリットが大きいからね。期待してるよ」


「はい」


 紐ビジネスは、入り口にすぎません。


 もっと大きな事が出来ると、サットン子爵は考えているようですわ。


「いきなりは無理ですけれど。領地内で商売に繋げられるものがないか、しっかり探してお役に立ちたいですわ」


「ありがとう。そうしてくれれば孤児たちはもちろん、領地内の様々な人たちの利益に繋がるからね。努力は無駄にはならないよ。こちらとしても、メリットがあるなら協力は惜しまないからね」


「はい。ありがとうございます」


 サットン子爵が、とても優しい目をして私を見ています。


 そんな目で私を見る男性は、お父さまだけですわ。


 ……いえ。あの目は、お父さまが私に向けるものとも違います。


 なんでしょう……私、頬が熱くなってきましたわ。

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