第19話 イケメンからの求婚(即OK)
「ちょっと疲れちゃったね。少し表に出てみない?」
「そうですわね」
私はサットン子爵に手を取られ、ベランダに出ました。
「綺麗」
「そうだね」
外はすっかり暗くなり、空には星が煌く。
シャンデリア煌く大広間も艶やかで素敵ですが、自然織りなす夜の景色も素敵です。
何より。
隣にいる無駄に見た目の良い貴族男性が、私の胸を騒がせておりますの。
大きく開いた扉の向こう、夜会会場からは賑やかな人々のざわめきと音楽が流れてくる。
ベランダは静かな夜と賑やかな人々の営みとの境界線のような。
不思議で特別な場所のように感じます。
「ねぇ、アイリス君」
「はい」
「えっと……空いてしまった場所に、私が収まってしまってもいいだろうか?」
「……はい?」
「えーと……婚約者の……」
「……ぁ……」
「んんっ。……えっと、アイリス君」
サットン子爵が隣で突然ガバリと動き、片膝ついて跪く。
瞬間、素敵なお召し物が汚れましてよ? と、思った私を、青い瞳が真摯に見つめていた。
差し出された手の上には、いつの間にか指先が捕らえられていて、私は動けなくなる。
時間が止まった、ような気がした。
それはサットン子爵の言葉と共に再び動き出す。
「アイリス君……いや、アイリス・ビアズリー伯爵令嬢さま。私、タイラー・サットンは、アナタと共に生きたい。私の傍らで一緒に生きてくれないだろうか? 私からの求婚を受け入れて貰えるのであれば「はい、はいっ! お受けしますっ!」……」
言葉の続きがあったような気がするけれど。
私はそれを待ちきれず、即OKいたしました。
サットン子爵は少し固まって。
こちらを見つめている顔が、ゆっくりと喜色に染まった笑みに満ちていく。
そして勢いよく立ち上がり、私の手を握った。
「結婚っ! 結婚してくれるんだね!」
「はいっ!」
「あぁ、結婚……その前に婚約、ですね。これからは私のこと、タイラーと呼んで下さい」
「はいっ、タイラーさま」
「あぁ、いい……『さま』が邪魔だけど、いきなりは……あぁ、でも私は……アイリス、と、呼んでも?」
「はいっ」
「うん……アイリス」
「はい」
「キミの父上には事前に許可を貰ってあるから……ああ、早めに帰って報告して……スケジュールを決めてしまいたい……婚約式でお披露目をして、引っ越しや、結婚式のこと……」
「あっ、でも。タイラーさま。サットン子爵家の事はよろしいのですか?」
「我が家の事は、先ほど紹介したマックスが引き継いでくれるから大丈夫」
「ああ、それで……」
「ん。マックスが商会の方も引き継ぐ予定だ。イザベル・ウォーカー子爵令嬢と結婚して。二つの商会は、いずれ一つになるかもしれない。そちらの家に私が入ることになっても困らないようにしてあるから安心して」
「はい」
「それで、キミの元婚約者が割と近い親戚になってしまうことになるが……」
「仕方ありませんわ。貴族社会では、よくある事ですし」
「私としても面白くはないが……そこは、まぁ我慢だな」
「イザベルは良い子ですし。彼女に関しては問題ありませんわ。ウォーカー商会も……セオドア子爵令息が間に入らなければ、良い商会ですし」
「そうか。なるべくキミの負担にならないよう私が間に入るから、気になる事があったら言ってくれ」
「はい」
私たちはニコニコと笑顔で互いを見ながら夜会会場を後にしました。
◇◇◇
帰宅した私たちから報告を受けた両親は、二人揃って揶揄うような表情でコチラを見ています。
よく似た夫婦です。
回りに控えていた沢山の使用人たちも、両親と同じような表情でコチラを見ていましたわ……。
まぁ……いいです。
私、幸せになりますっ!
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